第5話Ⅰ-5 初めての狩り

■エドウィンギルド前


「あのぉー、掲示板で求人を見てましたよね?」


振り返ると小さな女の子が俺を見ている。


「俺のことかな?」


「はい、私も求人を探してるんですが、条件が合わなくて・・・、魔法士は必要じゃないでしょうか?」


このちっこいが魔法士なのか?


「君はどんな魔法が使えるの?」


「・・・癒しの魔法です」


「どのぐらいの怪我なら治療できるの?」


「・・・まだ、・・切り・・です」


「ごめん、聞き取れなかった」


「まだ、小さな切り傷ぐらいです、でもすぐに上達しますから!」


なるほど、まだ駆け出しの治療魔法士なのか。

だが情報は引き出せるかもしれないな。


「それで、仲間を作って君はどうしたいの?」


「南の町へ行きたいんです! お兄ちゃんが行ったまま連絡が取れなくなってて」


「南の町って何日ぐらい掛るのかな?」


「馬車で10日ほどです」


「親はどうしてるの?」


「親はいません、兄だけなんです・・・」


「そうか、悪いことを聞いたね。俺はサトルって言うんだけど、君は年いくつ?」


「私はサリナです。今年15になりました」


15歳! 

いや、嘘でしょ? 10歳ぐらいだと思ってた。

緊張してきたな、年の近い女子とは音声でしゃべったこと無いから・・・


「そ、そうなんだ。誰か他に連れて行ってくれる大人はい、居ないのかな?」


「ギルドの人達は邪魔だって言って断られました。でも、一人では行けないし・・・、一緒に南方へ行って貰えないでしょうか?」


15歳といわれて改めてみると、背は低いが確かに下から見上げる目とその下には豊かな膨らみが・・・、だが15歳だ、現世なら二人旅は犯罪だな。


「俺もまだ来たばかりで、すぐには無理だよ。それで魔法ってどうやったら上達するの?」


「使えば使っただけ上達します。でも、使う機会が・・・」


そりゃあそうだろう。目の前にけが人がワンサカいる訳無いわな。


「悪いけど、他を当たってくれるかな。ごめんね」


俺はサリナに別れを告げた、残念そうにしていたがギルドの中へ戻って行く。


まだ、南方行き早いだろう。

もう少し情報を集めないと動けない。

夜は予定があるし、日が高いうちにこの町の店を周りたいと思っている。


俺が情報収集のために探していた店はすぐに見つかった。

武器と防具の店だ。

この世界の装備と相場を知るのが目的だった。


見せの中には剣と槍が箱に立ててあり、壁際の棚に防具と弓等が並べられている。

店主はいたが俺をチラッと見ただけで興味を失ったようだ。


剣の箱から持てそうな大きさの剣を取り出してみる。

刀身が1メートル弱の剣は思ったより重かった、鞘から抜くと両刃で10cm程度の幅だった。

両手で持ってみたが振り回せる自信は無かった。


「そいつは金貨一枚だが、アンタには無理だろうぜ」


見てないようで見ている店主から声がかかる。

金のことを言っているのか? 俺の実力を言っているのか?

いずれにせよ正解だと思った。


店主に笑顔を見せて剣を箱に戻した。

反対側の防具から盾を取り上げ・・・ようとしたが重くてやめた。


「そいつもアンタには無理だろうぜ、ちなみに金貨1枚と銀貨5枚だ」


盾は金属製だが鉄では無いようだ、青銅なのか?


「これよりもっと強くて重さが半分以下の盾なら幾らで買ってくれます?」


「そんなもんは無いだろうが、あれば金貨5枚は出してやるよ。アンタは商人なのかい?」


「ええ、色々と扱っています。魔法で強化した盾もあるので明日持ってきますね」


「へぇー、期待せずに待ってるよ」


店主の冷ややかな声を聞きながら店を出た。

俺としては盾を買い取ってもらえることがわかっただけで収穫だ。

武器は売るつもりが無いが、金に困れば現世の盾を売れば良い。

ジュラルミンとかケブラー等で最高のものが見つかるだろう。


■エドウィン近くの森


町から一旦離れて森に入った俺はストレージ内で狩りの準備を始めた。


MP7にサイレンサーとレーザーサイトを取り付ける。

服も暗い色のカーゴパンツとシャツに着替えた。


風呂に入り、夕食が終った20時にエサの生肉ブロック3kgを森の開けた場所に置いた。

風下に50メートルほど離れてストレージに隠れる。


外は月明かりだけで真っ暗だ。

この世界では大きい月と小さい月の二つがあったが、明かりの無い森では何も見えない。

もちろん、道具を使わなければの話だ。


俺は暗視装置で5分おきに外を見ていた。

暗視装置の中に獲物が現れたのは21時45分だった。


狼が三匹いる。


三匹が肉を取り合っているようすを見ながら、ストレージから出て地面に敷いたマットの上で片膝をついた。


レーザーサイトのポイントを一番右にいる狼のケツにあわせてトリガーを絞った。

右から左に弾幕でなぎ払う。


-プシュッ!-プシュッ!-プシュッ!-プシュッ!・・・・


-キャウン、キャイン-キャイン-キャイン-


犬と同じ鳴き声がサプレッサーで抑えられた発射音に重なって聞こえる。


空になったマガジンを入れ替えて暗視装置で獲物の様子を確認する。

動かない固まりが3つ出来ていた。


もうワンチャンあると信じてエサを新しい肉に置き換えて、24時まで外を見ていたが死体の横には来なかったようだ。

発射音の影響なのか?火薬の匂いか?死体があったからか?

理由は判らないが一網打尽は難しいようだ。


俺が寝る前にストレージの中で見たギルド組合員証にはシンプルに書いてあった。


狼3 累計実績:銀貨6枚


勝手に記録するならモンスターを回収しなくて良いのは非常に助かる。

ゲームで後処理が無いのと同じ感覚だ。


やっと異世界での狩りが始まった。

お楽しみはこれからだ。

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