第4話Ⅰ-4 エドウィンのギルド

■エドウィンの町


町にはすんなりと入ることが出来た。

兵士の前で心の中ではビクビクしていたが・・・


町は城砦都市だ。全体が城壁で囲まれて、入り口には槍を持ち、剣を腰に帯びた兵士が内向きと外向きに二人ずつ立っていた。


町に入るものは兵士小屋のカウンターで市民証(?)を見せるか、入市税を払う必要がある。

俺は銅貨3枚を払って町に入った。市税の受取書で7日間は出入り自由となる。


俺がびくついたのは兵士がいわゆる・・・獣人だからだった。

二足歩行で人と同じフォルムだが、顔は毛が生えていて猿に近い気がする。


それでも当たり前のように言葉を話している。

まさに異世界だ、現世での先入観を捨てないとこの先苦労するかもしれない。


ここで生き残るためには情報が必要なことを痛感する。

ということで、ビルが言っていた組合ギルドに早めに行ってみたい。


中心部の建物はほとんど石造りで3階建てぐらいのものが多い。

通りすがりの親切な女に聞くと、ギルドは大通りの突き当たりにある教会の横にあり、行けば直ぐわかるらしい。


獣人は他に見かけない。

兵士に特化した種族なのだろうか?


親切な女の言う通り、ギルドは教会の横にあった。

教会より大きな五階建ての建物だった。


中に入ると広いホールになっている。

テーブルが20卓程入っていて、飲み食いしている人達がいる。

突き当たりは長いカウンターだが、右と左で世界が別れていた。

左はカフェ?レストラン? 食い物を受け取る場所で奥は厨房だ。

右は役所みたいな受付で、綺麗な・・・わけでは無いお姉さんが二人座っている。


俺が入って行くと、ホールに座っている奴らはちらりと俺を見たが詮索するそぶりは無かった。

着ているマントのおかげだろう。

この世界のドレスコードと大きなギャップが無いようだ。


腹は減っていないので役所のお姉さんに歩み寄った。


「こんにちは、ここにくれば仕事を紹介してもらえると聞いたのですが?」


「旅の方ですか? こちらの組合には加入されていないのですよね?」


「はい、まだ加入していません」


「でしたら、加入料に銀貨2枚が必要です。それと毎年銀貨1枚の更新料も掛ります」


ギルド自体の仕組みがわからないが、そのぐらいは仕方ないだろう。


「お金はありますから大丈夫ですが、どんな仕事があるのですか?」


「貴方でしたら・・・、力仕事よりは雑用か商いの方が向いているかもしれませんね」


「今でしたら、畑の手伝いと領主屋敷の掃除、それから露天商のお手伝い等があります」


どれも魅力は無いな・・・


「討伐系の仕事は無いんですか?」


「討伐? 獣退治でしょうか? ありますが貴方には難しいと思いますよ」


綺麗でないお姉さんは俺のフォルムを上から下まで眺めてそう言う結論を出したようだ。

俺は身長も横幅も筋力も普通の高校生だからそう見られても仕方ないだろう。


「いえ、今後のために知っておきたいんですよ」


「・・・そうですか、この辺りでしたら狼に懸賞が掛けられています。狼一匹辺り銀貨2枚になります」

「先ほどの領主館の掃除と露天商の手伝いは幾らになるんですか?」


「どちらも1日で銅貨3枚です」


「では、領主館の清掃のお仕事を明日お願いできますか?」


領主館なら何か情報がもらえるかもしれない。


「はい、でしたら組合員証をまず発行しますので、銀貨二枚とこちらの書類に記入をお願いします」


書類の文字も意味が理解できた。

組合規約に同意するため、名前、年齢、出身地、種族(?)を書くものだった。


銀貨2枚と種族の欄を空欄にした書類をカウンターに置いた。


「種族は 『人』でよろしいですよね? 良ければこちらで記入しておきます」


「もちろんです、よろしくお願いします」


種族の呼び方が違うかと思ったが同じで良かった。


「では、こちらが組合員証になります。右手の人差し指で血判をお願いします」


「血判!?」


「ええ? 証明書には必要になりますが?」


どうやら、この世界の証明書(?)ではもれなく付いてくるルールのようだ。


俺はお姉さんが差し出した大きな押しピンのような針を使わずに、自分のコンバットナイフで指先を慎重に切った。

少しピリッとしたところで指先から血が滲んできた。


お姉さんがカウンターに置いている組合員証は15cm四方ぐらいの薄い皮のようなものだった。

俺はお姉さんに指差された場所-名前の横-に血が付いた指を置いた。


「!」


組合員証全体が俺の血判で色が変わった。

くすんだ茶色だったが、白い紙の色になっている。


「証明書は初めてご覧になるんですか?」


お姉さんは不思議そうに俺を見ている。


「はい、私の国には無かったですね」


正直になった方が得だろう。


「そうでしたか、この国で知らないものは居ないと思っていましたので。では、簡単にご説明しますね。証明書にはサトルさんの活動記録が自動的に記録されていきます。血判によりアシーネ神がアカシックレコードから必要なものを転記してくださるので、嘘や記録モレはありません」

「いまは、何も書かれていませんが、領主館の清掃が終れば明日それが記録されます。明日は領主館に行ったらこの証明書を館の人に見せてください」


証明書も魔法の一種と言うことなのだろうか?


「この紙に書き切れなくなったらどうなるのですか?」


「新しいものだけが残り、古いものは実績値として受け取った報酬の累計だけになります。それと実績値に応じて証明書の色が変化していきます」

「最初は白、次は黄色、緑、橙、青とどんどん色が変わっていきます。我々組合では色の違いを階級クラスと呼んでいて、階級クラスに応じたお仕事をお願いするのが基本です」


「なるほど、ちなみにさっきの狼退治はどの階級クラスのお仕事なんでしょうか?」


「数にもよりますが、一人で一匹退治するなら緑階級クラスでしょうか?でも、どうしても狼退治をやりたいなら仲間を見つけられたほうが良いと思いますよ」


パーティーメンバーと言うことか。


「後ろの掲示板にもお仲間募集と個別リクエストが幾つかありますから、帰る前に見ておけば参考になると思います」


俺はあまり綺麗でないお姉さんにお礼を言って掲示板へ向かった。

掲示板の前には一人だけしか立っていない。


掲示板も求人と仕事紹介の二つに分かれているようだ。

仕事紹介にはさっき聞いた領主屋敷の掃除、畑仕事等が小さな紙で貼り付けてある。

大体が1日で銅貨2~3枚の報酬ばかりだ。


狼退治はここのギルドから懸賞金が掛けれらていたが、その下に国からの懸賞が書いてある。


オーク  1匹/金貨1枚

ゴブリン 5匹/銀貨1枚

サンドスネーク1匹/銀貨5枚

スカイスネーク1匹/金貨3枚   ・・・


全国区のモンスターが沢山書いてあるようだ。


-カシャ-


持ってきたスマホで写真を撮って置いた。


求人は少なく3枚だけ張ってある。


-橙クラス以上の戦士急募! 南方へ遠征予定! 

-橙クラス戦士募集中! ただしオーク討伐経験必須!

-戦士募集中! 緑クラス以上限定!


バイトの求人広告のようだが、戦士が不足しているのだろうか?

それとも魔法使いが不人気なのか?

魔法についても情報が必要だ、俺の武器がどの程度アドバンテージがあるのかを知っておきたい。


カウンターに戻って、綺麗で・・お姉さんに聞いてみた。


「もう一つだけ教えてください。魔法を使える人の求人はあまり無いのですか?」


「魔法士ですね。魔法士は戦いではあまり役に立たないので、大きな組織でないと雇わないと思います」


あまり役に立たない?

戦いで魔法は使わないのだろうか?


「どんな魔法を使えると求人があるのでしょうか?」


「やはり、火の魔法と治療魔法は最低限必要だと思いますね。ですが、複数使える魔法士自体が少ないので求人にまで上がってこないみたいですね」


「いまは戦士が人気なんですよね?」


「ええ、みんな南へ行って一旗上げようと思ってるみたいです。でも、貴方は無理しないほうがいいですよ」


優しいお姉さんの言葉にもう一度礼を言ってギルドを後にした。


俺は戦士? で良いのかな?


考えながら通りに出ると後ろから声がかかった。

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