第3話Ⅰ-3 初めての商売

■どこかの森の中


サイクル&ガンの生活が15日目を迎えた。

最近はソロキャンにも挑戦している、外でバーベキューや湯を沸かしてインスタント麺を食べるだけで結構のびのびした気分になれる。

食材は選び放題なので肉や野菜にカニやエビなどの高級食材も食いまくった。


毎日風呂にも入っている。

温泉の湯をそのまま呼び出して浴槽に入れることにしたのだ。

具体的な温泉旅館の名前と湯量の確定ができれば呼び出せた。

これも試行錯誤した結果だ、最初は漠然と温泉とか箱根温泉等で呼び出そうとしたがダメだった。

シャワーはポータブルなものを見つけたので、それを使っている。

ウォシュレットも携帯型で我慢した。


生活は俺のプラン通り快適だった。

しかし、さすがに誰とも会わない日が続くと不自由の無い生活でも段々虚しさを覚える。

俺の選択は間違っていたのか・・・


そう思いはじめた19日目に道を見つけた!


車が通れる幅では無いが地面がしっかり踏み固められて草が生えていない!

間違いないだろう、人がいるのだ!


道を見つけたぐらいで喜んでいる自分にちょっと引いたが、無人の異世界で完結するリスクもあるわけだったのだから仕方ない。


左右を見渡したが道の上に人は見当たらない。

だが、これからは人に会う可能性がある。


装備を変更することにした。

被っていたヘルメットとサングラスを外してストレージへ。

服は綿のコットンパンツに上はオリーブ色の綿シャツに着替える。

防刃ベストを着てその上にタクティカルベストを重ねた。

靴は革製コンバットブーツのままで大丈夫だろう

最後に、茶色いコスプレ用のマントをまとって全体を隠す。


この世界のことが判るまでは、できるだけ目を引かないようにしたい。

異物である俺が目立てばろくなことは無いはずだ。


武器はグロック17とMP7をホルスターに入れて、テーザー銃、スタンガン、コンバットナイフも装着する。


俺が銃を撃ちたいのは別に人殺しをしたいわけではない。

あくまでもやりたいのはモンスターハントだから、死なない武器も持っておきたかった。


自転車をクロスバイクに交換して道が下っている方向へ走り出した、方角で言えば北西になる。


1km先で木がなくなって視界が開けると大きな道に合流した。

轍も残っている、この世界なら街道に相当する大きさの道かもしれない。


街道の先を見ると動くものがある、双眼鏡を引っ張り出して確認すると・・・


馬車だ!


異世界に到着してから20日以上たって第一村人発見という事か。


-引っ張りすぎだろ、神。


俺はクロスバイクをストレージに戻して、馬車が来る方向へ歩き出した。

ベストの中には交換できそうなものを幾つか隠しておく。


一頭引きの馬車には御者が乗っている、見たところ荷馬車のようだ。

歩いている俺を馬車の男は興味深そうに見ていた。


「こんにちは。聞きたいことがあるんです」


俺は近づいてきた馬車の男に手を振って声を掛けてみた。


「どうした、歩き旅とは珍しいな」


親切な男は馬車を止めて俺の問いに答えてくれた。


「ええ、森の中で連れ合いとはぐれてしまいまして」


「森? 獣にでも襲われたのかい?」


「ええ、色々ありまして、ところでこの先に町はありますか?」


「ああ、歩いて1時間ぐらいのところにエドウィンがある。この辺りは初めて来たのか?」


「はい、かなり遠いところから来たんですが、道案内がいなくなって」


「そうか、俺はこれから隣町まで行商に行くから、悪いが乗せてってはやれないぞ」


「いえ、歩いて行くから大丈夫です。行商ですか・・・、ところで何か仕入れたいものはありませんか?」


「ほお、お前も商人なのか? だが、何も持っていないようだが?」


「マントの下に色々隠してるんですよ」


「・・・ふーん。俺は食べ物関係の商いをやっているんだが、今は塩と砂糖が手に入らなくて困っている。南の方でモンスターが増えてるから不足してきたんだ」


「塩と砂糖ならどっちが高いのですか?」


「本当に商人なのか? 砂糖に決まっているだろうが」


「いや、国によって色々とあるじゃないですか。砂糖ならありますよ」


俺は後ろを向いてマントの影からストレージを呼び出す。


「これなら幾らになります?」


振り向いてマントの下から出した赤いパッケージの上白糖1kgを馬車の男に渡す。


「なんだこれは?・・・ この変な色が砂糖なのか?」


そうか、ビニールの包装を見たことが無いからか。


「少し、味見をしてみてくださいよ」


ナイフで角を少し切って、男の手の上に袋の中の砂糖を出した。


「・・・! なんだこの砂糖は真っ白じゃないか! ・・・そして甘い! お前さん、これをどこで手に入れたんだ!?」


「さる高貴な方から譲っていただきました」


「それで、幾らで譲ってくれるんだ?」


「そうですねぇ・・・」


ここはダンマリが良い気がする。


「銀貨5枚でどうだ?」


「さすがにそれでは・・・」


もっと行けると言うことだな。


「じゃあ、銀貨7枚でどうだ?」


もう一声だな。


「銀貨8枚、これで何とかしてくれ!」


「いいですよ、ありがとうございます。その代わり色々と教えてくれませんか?」


「情報か。やっぱりお前は商人だな。いいぜ、何が知りたいんだ」


「はい、僕は遠くの国から来たオサムと言います。知りたいのは・・・」


オサム(偽名)は疑われない範囲で色んな事を聞き出した。

聞きだした話では・・・


エドウィンの町は領主が治める町で、入るには入市税の銅貨2枚が必要になる。

町の宿屋は素泊まりで銅貨3枚だそうだ。

男の名前はビルと言った、エドウィン以外に4ヶ所ぐらいの町を回りながら商いをしていた。

仕事を探しているなら組合(ギルド)に行けば、色んな仕事を斡旋してくれる。


この辺りはモンスターが少ないが夜は狼がたくさん出るらしい。

南に行けば行くほどモンスターの数が増えていく。

はっきりと聞けなかったが、国(?)の名は水の国と言うらしい。

そもそも国の定義が現世と同じかが判らなかったが。


もっと聞きたいことはあったが、ぼやかして質問するのは難しかった。

ビルも出立したがったので銀貨の一部を細かくしてもらい受け取る。

もらった情報に礼を言ってビルを見送った。


両替してもらって嬉しいことがわかった。

この世界も10進法だったのだ、俺の手元には7枚の銀貨、9枚の銅貨、そして10枚の鉄貨(?)が残っていた。


通貨価値ははっきりしないが、宿に15日以上泊まれるなら銀貨8枚は5万円以上の価値はありそうだ。

この世界の砂糖がそれだけ高級品なのだろう。


俺はストレージからクロスバイクを取り出してエドウィンを目指すことにした。

やっと異世界らしくなって来た。

これからが楽しみだ。

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