第2話Ⅰ-2 ストレージ

■ストレージの中


俺はストレージの分別機能を部屋という概念にしてもらっていた。

中の部屋はいくつでも作れてドアは呼び出せば目の前に来るイメージだ。

異空間だから物理的な概念は無いのだろうが、感覚としてわかりやすくしておいた。

現実空間からストレージ自体を呼び出す時も、頭でイメージすれば目の前にドアが出てくる。

当然大きくしたり小さくしたりできる。


入っているものの検索はタブレットだ、ネット上の情報もアップデートはされないが検索することができる。

欲しい物が決まれば欲しいとイメージするだけで要求した場所に出てくる。

ストレージの中では魔法使いか超能力者のようだ。

頻繁に使うものはあらかじめ呼び出しておいてストレージの『よく使うもの』と言う部屋にいれることにした。

もちろんイメージ上の話だ。


通常空間に取り出すときは手を突っ込んで取り出してもいいし、大きなものはストレージが繋がっている通常空間に置くこともできる・・・俺の目にはストレージの空間が消えて欲しいものだけが残ったように見える。


到着した日はストレージ機能の確認と中を整備することでほぼ1日を費やした。

引越しのようなものだな。


大き目の空間を『俺の部屋』と見做して、ソファ、テーブル、ベッド、TV、冷蔵庫等を配置した。

神から中に電気は無いと言われたので自家発電装置を別の部屋で3台動かしている。

ガスはプロパンを考えたが配管ができないのであきらめた。

火を使えるようにカセットコンロは用意してある。

ちなみにTVは写らないがゲームやDVDは見ることができる。


一番の問題と気づいたのは水、正確には水道だった。

ペットボトルの飲料水はいくらでも出せるが水道と言うものがある訳では無い。

個別のパーツは幾らでも呼び出せるが、つながった水道システム・・・では漠然として出てこない。ガスの配管と同じだ。


そうするとそのままでは風呂やウォシュレットが使えない。

だが、この空間には全てがある、なにか代用品を見つけよう。


『ごみの部屋』も作ってある。

要するに汚物やごみを纏める部屋を一つ用意して、使った水はそこに流れるように分別した。


水周りを除けばストレージの中で充分快適に過ごせるだろう。

夜寝る時に襲われる心配も無い。


食事はインスタントから豪華な食事まで何でも選択可能だ。

欲しいものを検索するだけで呼び出せる。


もちろん服もあるから、衣食住は現世界のまま暮らせることが確認できた。


しかし、俺が神への願いをストレージにした本来の目的はそう言うことでは無い。

魔法や意味不明なチートスキルを選ぶ奴も多いのだろうが俺には興味が無かった。


現世では主に2次元で生きていた俺は異世界で銃を撃ちまくりたかったのだ。

いつもネットで検索して夢想していた銃器。

あの全てがここにはある!


ストレージの整理にめどがついた俺は名前だけ聞いたことがある武器を検索し始めた。

スペックの細かい仕様は判らなくても、気に入った物を呼び出した。


最初に選択したのはH&Kと言うドイツにあるメーカーの銃器だ。


1.アサルトライフル H&K  HK433

2.サブマシンガン  H&K  MP7

3.ハンドガン     グロック17


これにあわせた銃弾、マガジン、タクティカルベスト、ホルスター等を検索して呼び出していく。   


自分の中で満足したものが目の前に並んだ。

それから4時間ほど掛けて、用意した銃弾の装填、機構の確認、マガジン着脱等の練習を繰り返した。

それぞれの武器は構造的に難しいものでは無かったが、銃弾の交換もスムーズに出来なければ命に関わる。


ここがどんな異世界かまだわかっていない。

日本で当たり前の法律は通用しないし警察なども当然無いはずだ。

武器だけが頼りだから準備は万端で無ければならない。


もちろん、このストレージの中にいれば安全だがこの中から外を撃つ事は出来ない。

銃を使いたければ自分の体を異世界に投じるしかないのだ。


2日目はストレージ内でフル装備を整えてから外に出て銃の練習を始めた。

マガジンはそれぞれの銃に10セット用意してある。


最初はアサルトライフルHK433にした。

目の前の木をフルオートで撃ってみる。


-バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!・・・・-


イヤーマフの外から乾いた連続音がして幹が削れていく。

空薬きょうが宙を踊るように飛んでいく。


このHK433は30発のマガジンだが、銃は1秒当たり11発以上の弾を発射する。

要するに3秒足らずでマガジンが空になる。


距離は30メートルぐらいで打っているから結構当たっている。

銃の反動はおもったより小さかった、肩に当てた銃床が強く震えるイメージだ。


フルオートでマガジンを三つ空にしてから、もう少し離れてセミオートでも練習した。


-バッ!バッ!バッ!-

-バッ!バッ!バッ!-

-バッ!バッ!バッ!-


トリガーを絞るたびに細かく連射する。

すぐにマガジンが空になれば危険だろう、普段はセミオートで持っておいたほうが良いかもしれない。


更に距離を置いて単発での練習も繰り返す。

100メートルぐらいでも何とか当たるが精度が低い、もっと練習が必要だ。


全てのマガジンが空になるとHK433はかなりの熱を持つようになった。


次ぎはサブマシンガンMP7を試してみる。

全長50cm程度で非常にコンパンクトなこいつには40発入りのマガジンをセットする。

右肩に銃床を当ててフルオートでトリガーを絞る。


-パラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!・・・・-


約3秒で40発を撃ち終える。

打ちながら左右に振り回して弾の広がるイメージを掴んでいく。


最後にハンドガンも練習する。

グロックは樹脂で作られている部分が多くて想像以上に軽く感じた。

10メートルぐらいならほぼ当たるが、それ以上の距離だと心もとない。


しかし、この世界で銃同士の戦いは無い。

それぞれの銃の役割を距離別に掴めば充分なはずだ。

全身が火薬臭くなって来たところで弾が無くなった。


昨日頑張って弾込めしたマガジンもあっという間に打ちつくしてしまう。

弾は無限にあるが用意するのに時間がかかることがわかった。


それでも、ここがどんな異世界か判らない以上、銃器は早めにマスターしておきたいと考えて、夜はひたすら弾をマガジンに込め続けた。

最初の3日間は飛ばされた場所から動かずにひたすら銃の練習をしていた。

銃の反動は小さいと思っていたが、二日目には右肩と脇の辺りが痛くなっていた。

しかし、痛みを忘れるぐらい銃を撃つのは楽しかった。


だいぶ銃の操作に慣れてきたので4日目に移動を始めることにして、ストレージから太いタイヤのマウンテンバイクを持ち出した。

オートバイにしたいところだったが残念ながら運転したことが無い。

クラッチのない原付なら何とかなるだろうが、道ですらない場所を走るのはリスクが高い。


俺はグロック17をヒップホルスターに入れてマウンテンバイクで走り出した。

ここがどこかわからないが行き先は北を目指すことにする。

ハンドルにセットした方位コンパスに従ってひたすら北へ進んで行く。


5kmごとに休憩して1日に30kmぐらいマウンテンバイクで走った。

休憩の時に銃の練習をして夜には弾を込める。

違う種類の銃や大型の武器も色々試してみたが、慣れを重視してH&Kのセットに戻している。

夜は飯を食いながら試す武器を検索して翌日に備える。


そんな生活が6日目を迎えているが、未だに人や人工物を見かけることは無い。

これは俺のしつこいリクエストに対する神の意趣返しだろう。


人が全然居ないところへ俺を飛ばしたのに違いない。

だが、小さな無人島で無かっただけましだと思うことにした。


そのうち誰かに会えそうな気がする。

今のところは希望的な勘だけど。

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