第269話Ⅱ-108 追跡3

■カインの町近郊の森


「ショーイ、しばらく頼むぞ!」

「ああ、止めるぐらいなら何とかなる!」


 ショーイは風の剣士と言われるだけあって、刀を振るって立て続けに風のやいばを飛ばしている。相手が生き物なら確実に仕留めているだろうが、炎の人形は刃が当たると動きを止めるがすぐに元の人形に戻って近寄ってくる。結果的にショーイはじりじりと交代しながら刀を振ることになっている。


 俺はストレージからブローニングM2重機関銃と弾帯を取り出して、ショーイの背後に位置する森に銃口を向けて三脚をセットした。銃口の先に魔法士がいるのをわかっている訳では無い。わからないから、闇雲に全方位に危険な銃弾をばらまくつもりだ。


 地面に片膝をついてレバーを引いて初弾を装填してから水平方向を意識してダブルハンドルの中のトリガーを引き続けた。12.7㎜弾が発射される爆音が静かだった森に響きわたる。イヤーマフをつけるのを忘れたことを後悔しながら、銃口を右から左に向けてゆっくりと回転させた。銃弾を受けた木々は大きく揺れながら幹の一部がはじけ飛んで行く。当たらなくても火線のそばに居れば魔法を使う余裕がなくなるだろうと言うのが俺の予想だった。むしろ、当たらない方が良いと思っている。何とか生け捕りにしたいが、1発でもあたると致命傷になる確率が高い。


 しかし、約45度の角度で回転して100発程撃ったが、炎人形は消える気配が無かったので、三脚の向きを変えて弾帯を再装填してさらに右回転をしながら銃弾をばらまき続ける。飛び散る薬きょうがライトの中できらめくが、振り返っても炎人形が消える気配が無かった。ショーイは引き続き刀を振り続けているが、炎人形にダメージは与えられないままだ。


 重たいブローニングM2をもう一丁ストレージから取り出して、今までと逆方向の炎人形がいる背後に向けて再度構えた。1分間で600発もの銃弾を発射できる重機関銃の銃身は既にかなりの高温になっているうえに、重たいので持ち運ぶよりは新しいものを出した方が効率は良い。


 引き続き水平方向で高さ1メートルほどに狙いをつけて引き金を絞りながら、左から右に回転していく。100発程発射したところで、突然炎人形が視界から消えた。


「よし! あの辺りだ!」

「えっ!? なんだって?」


 俺はショーイに銃弾を撃ち込んだ森の奥を指さして叫んだが、重機関銃の轟音で二人ともかなり耳がバカになっているようで、ショーイは俺の言っていることが聞き取れなかった。


「魔法士はあの辺りにいるはずだ!」


 立ち上がって、指をさしながらショーイに近づくと理解してくれた剣士は、飛ぶように走り始めて森の中を進んで行った。俺もサブマシンガンに持ち替えてその後を追いかける。燃え続けている小屋の炎が照らす明かりで、木々の間を走って行くショーイの背中ははっきりと見えるが、どんどん遠くなっていくのも分った。お世辞にも走るのが速い俺ではないから当然の事だった。


 小屋の炎の明かりが届かないほど走り続けたところでショーイは走るのをやめて、あたりを見回している。俺は暗視ゴーグルを降ろして、あたりを警戒しながらショーイに追いついた。


「どうした? どっちに行ったか分かるか?」

「いないな、こんなに遠くのはずは無いんだがな。追跡は無理だな」

「どうしてだ? お前なら気配を感じることが出来るんじゃないのか?」

「どうしてって、あのバカでかい音のせいだよ! あんな音が鳴り響いてた日にゃ、耳もおかしくなるさ! まだ、頭の中がガンガン言ってやがる」

「そうか!」


 確かに12.7mm弾の発射音を聞き続ければ、意識を集中して気配を感じるのが難しいのかもしれない。“気配”と言うのが具体的にどんなものかはわかっていないが、耳を使って感じる部分もあるのだろう。もっとも、耳の被害が大きいのは俺の方で今も怒鳴るように話しているのが自分でもわかっていた。


「でも、死体が無いってことは当たってないんだろうな」

「そうだろうな、見てみろよあの木を」


 ショーイが刀でさし示した若木は幹がはじけ飛んで、50㎝ほどの高さで無残に折れていた。他にも傾いている木が何本もある。


「しかし、すげえ威力だな。あれも銃ってやつなんだな?」

「ああ、人を殺すには威力がありすぎるがあれも銃だ」


 この世界に分厚い鉄板はほとんどないが、12.7㎜弾は3㎝程度の鉄板なら貫通させることも可能な破壊力を持っている。人間に当たれば手足を引きちぎるぐらいの衝撃となるはずだ。


「だが、音がうるさすぎるぞ。あれでは、こっちが満足に戦えねぇ」

「そうか。じゃあ、できるだけ使わないようにするよ。ところで、あの炎人形は手ごわかったのか?」

「うーん・・・、どうも相手も本気を出している感じはしなかったな。あいつは火を飛ばせると思うんだが、そういう攻撃はしてこなかったからな」


 -本気を出していない? どうしてだろう・・・


「わかった。とりあえず、マリアンヌさんのところに戻って、町の人に馬小屋で聞いた話を伝えておこう。小屋の奴らは死んだけど、仲間が他にいるかもしれないし、井戸に見張りを立て貰った方が良いだろう」


 頷いたショーイと一緒に燃える小屋まで戻って、放置している重機関銃と見える範囲の空薬きょうの山をストレージに収納してから小屋の炎に向けて俺は水魔法を使った。


「ウォーター!」


 掛け声とともに巨大な水球が小屋の上に出現し、一気に小屋の上へと流れ込んだ。


「おい! 凄いじゃないか! サトルはいつの間に・・・」

「ああ、毎日練習しているからな。水や火を出すだけなら、大きいのも出せるようになったんだ」

「へーぇ、大したもんだな」


 ショーイに言ったのは嘘では無い。俺は毎日欠かさずに魔法の練習をすることにしていた。実戦で使いこなせるとは思わなかったが、昔の勇者ノートに書いてあるように素直にこの世界の神を信じる心を持つように心がけて練習を続けていた。それに、武器の整理も常に行っているし、自分のストレージの中で射撃訓練も繰り返していた。銃器は使い慣れないと本番で役に立たない。要は魔法も武器も反復練習が重要だと言うことだ。


 -継続は力なり。


 自分に言い聞かせながら、小屋の炎が消えるまで何回も魔法で水をかけた。

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