第304話Ⅱ-143 終わらない戦い1
■火の国 南方 カインの町
ミーシャが目覚めて一安心した俺とサリナは積み残しの案件を一つずつ片付けて行くことにした。まずは放置していたショーイを連れ戻すのと並行して公文書の配布を火の国南部で終了させた。カインの町にたどり着くとショーイは町の周りを囲もうとしていた黒い死人達をほぼ一人で壊滅させて、カインの町では英雄扱いされていた。町長の家に入ると町の若い娘たちに囲まれて酒を飲んで楽しそうにしていた。
「どうする? もう、この町に永住するのか?」
「何言ってんだよ。お前が迎えに来てくれないから仕方なく此処にいたんだよ」
「・・・。そのにやけた顔を見ていると信じられ無いけどな。それよりも、町長の妻に成りすましてたやつはどうなった?」
「俺が斬り倒した中には女はいなかったな。男が化けていたとも思えない。町長の奥さんは森の奥で死体が見つかったけどな」
「そうか・・・」
ミーシャを罠に仕掛けた女を逃したのは痛かったが、神殿で捕まえた女から情報を引き出すことでカバーしよう。
「じゃあ、これから北の方に向かうけど、一緒に行くんだな?」
「当たり前だ。俺は勇者のお前と一緒に行くぜ。で、北の方で何をするんだ?」
「ああ、残りの文書を配るのとサリナのお爺ちゃんを探しに行くんだよ」
「お爺ちゃん?って、タロウ様の事か!?」
「そうだ、神殿で行方不明になったんだよ」
俺はサリナ達を救出するためにタロウさんを見つけて、その後にネフロスの神殿を襲撃したことを説明した。
「そうか、タロウ様と会えたのか・・・」
「だけど、俺達が逃げ出すときに居なくて」
「うん、あの人は大丈夫だよ」
「ん?お前もママさんと同じように心配していないのか?」
「ああ、あの人はマリアンヌさんよりも強い魔法と俺の父と同じぐらいの剣技を併せ持つ勇者の一族だからな」
ショーイはママさんとは違ってタロウの事を尊敬しているようだが、あまり心配していない点では変わりが無かった。
■炎の国 北方 スローンの町
車と空飛ぶ船を使い分けながら3時間ほどでサリナ達を罠にはめたスローンの町へと移動した。黒い死人達に加担していたやつらをつるし上げるつもりでいたのだが、町へ入る手前で街道を逃げて来る大勢の集団に出会った。
「どうした? 何処へ行くんだ?」
大勢を乗せた荷馬車を車で止めて、御者台の男にたずねた。
「魔、魔獣だ! ここより北西の町は全滅だ! み、見たことも無い魔獣が人を食いまくっている!」
「お前はスローンから来たのか?」
「そうだ」
「町長はどうした?」
「町長は森へ様子を見に行って、俺達の目の前で魔獣に・・・」
俺が罰を与えなくとも、天罰が下ったと言う事だ。しかし、見た事の無い魔獣・・・、うん、心当たりがないことも無い。荷馬車の男達を先に行かせて、離れた場所から船に乗り込んで上空から周囲を確認しながら神殿の方向を目指した。途中にあるスローンの町では切り裂かれた衣服と血痕が通りのあちこちに残っていたが、動く人間は一人もいなかった。動いているのは・・・、ラプトル達だった。
「おい、あれはお前がいつも使っている奴だろ?」
「そうだ、殺したのをリンネの死人使いで操っているんだけど。あれは生きている奴」
「何であんな化け物が・・・」
「うん、神殿の奥から出てきたんだよ」
俺達の責任というわけでもないだろうが、神殿に行かなければ出て来なかったような気もする。
「どうするんだ? かなりの数が居るし、見たところ動きが早いぞ。さすがに全部斬るのは難しいな」
「そんな危ないことはする必要は無いよ。上から撃ち殺せば良いだけ」
「そうか・・・、確かにそうだな。敢えて危険を冒す必要も無いか」
ショーイは少し不満そうだったが、作戦の妥当性を理解した。だが、神殿まではまだ30kmぐらい離れている。この場所でこの数と言う事は、このあたりにいるラプトルの数はバーンの南と同じかそれ以上だろう。俺の銃やサリナの魔法で狩っていくとしても時間が掛かりすぎる。
-人手が必要だ、火の国の女王に兵を出させるか?
出してくれるかもしれないが、普通の兵士なら新しいエサになるだけだ。新しい武器を渡してやればマシになるだろうが、火の国の兵士に銃などを貸してやる気はこれっぽちも無い。以前と違って誰にも銃を使わせないと言うつもりは無かったが、使わせるのは信頼できる人間だけだ。信頼できる人間・・・。
選択肢は一つしか思いつかなかったので、ボートを転移ポイントがある場所に向けて飛ばし始めた。
■火の国王都 バーンの王宮
火の国の大臣となった黒い死人達の首領は水晶球を通じて、もう一人の首領と話をしていた。
「女は捕まったのか?」
「ああ、最初からそのつもりだったようだが」
「相手の結界に捕らえられて出て来れるのか?」
「それは判らん。だが、神殿と死人の多くを破壊されてあの女の力はほとんど残っていなかった。あそこで戦っても勝てなかっただろう」
「勇者達はどうしているのだ? この町には殆ど寄りついていないようだが」
「それも判らん。あ奴らの動きは早い。ここに報告が来た時には遥か彼方よ。それ故に、魔獣どもを放ってここには近づけんようにしてある」
「神殿を復活させることはできるのか?」
「できる・・・が、さらに多くの生贄が必要だ」
「ふむ。だが、この町を捧げる準備にはまだ時間が掛かるぞ」
「判っておる。だからこその魔獣どもよ。さすがの奴らも全部を倒すには時間が掛かるだろうから、この神殿には容易には近寄れんよ」
「そうだろうな。だが、神殿の信徒も巻き添えになっておるのだろう?」
「いや、あいつ等は先に
「そうか・・・、それは良かった。奴らも幸せだろう」
「ああ、そうに違いない」
大臣は首領との交信を終えて執務室の椅子へ深く持たれて腕を組んだ。神殿を復活させるには膨大な生贄の数が必要だ。幸いなことにこの町には数十万の人間が住んでいる。準備には時間が掛かるが、魔法陣さえ完成すれば一瞬で必要な力を得ることが出来る。女王には説明していないが、説明する必要も感じなかった。女王にも贄になってもらえば良いだけの話だからだ。
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