第102話Ⅰ-102 ハンスの行方
■王都セントレア
イースタンのお屋敷からは馬車で宿まで送ってくれた。王都の大通にはところどころにオイルランプが吊り下げられている。それでも、足元はほとんど見えないぐらいの暗さだが、馬車に吊るされたランプの明かりだけで、御者は確実に馬車を進めていく。エルとアナはすでに眠そうにしていて、サリナの両側からもたれ掛かっている。
イースタンの屋敷で『お前はどうしたいんだ?』という問いかけに、サリナはしばらく黙った後で短く答えた。
『大丈夫だから』
ハンスの事を言っていたのだろうが、今一つよくわからない。いずれにせよ、ミーシャにも詳しい話をしておかなければいけない・・・
「ミーシャ、実は・・・」
ミーシャはハンスが行方不明であること、悪の死人達に捕らえられた可能性があること、それは狼の情報が関係していること、それらを聞いて予想通りの回答をくれた。
「そうか、それは申し訳ないことだ。私は明日からハンスの足取りを追うことにするぞ。サリナ、私の頼みで兄が捕らわれのたなら、詫びのしようもない」
「ミーシャ、違うの・・・お兄ちゃんは他にも用事があったから・・・、だから、ミーシャは行かなくても大丈夫。サリナが一人でお兄ちゃんを助けに行くから・・・」
「そう言うわけには行かない。エルフの誇りにかけても私が必ず探し出す」
「良いの、サリナ一人で大丈夫だから」
「確かにお前の魔法はすごいが、戦いの経験が足りない」
「でも、危ないし・・・、私のお兄ちゃんだから私が行かなきゃ!」
『じゃあ俺が!』って言うと、 『どうぞ、どうぞどうぞ・・・』そんなミニコントみたいな感じになりそうだが二人とも真剣だ。
「どうするかは、イースタンが情報を集めてから決めれば良いんじゃない?ひょっとすると、無事に明日帰ってくるかもしれないしね。いずれにせよ、今日できることはなにも無いから、今日は早く寝た方が良いよ」
俺が無駄な議論に終止符を打つと同時に馬車が宿に到着した。5人で同じ部屋に戻ってから、ストレージに入った。大きな湯船に龍神温泉の湯を入れて、美肌効果を感じながら全身の力をゆっくりと抜いて仰向けに体を浮かせる。目を瞑って明日からの事を色々と想像する・・・、選択肢は多いが、実際に俺が選べそうなのは多く無かった。
§
イースタンの屋敷は翌日の昼前に訪問した。門番は顔を見ただけで通してくれて、今日も馬車に乗って綺麗に整えられた庭を眺めながら屋敷に入れた。
昨日の応接間に通されて、ベルベットに刺しゅうが施された豪華なソファに5人で座ってイースタンを待つことになった。
「サトル様、お待たせしました。先ほど、早馬で使いに出していたものが返ってまいりましたので・・・」
イースタンはがっしりした体格の男を一人連れていた。
「この者が聞いた話では、ハンスはシリウスの宿に泊まった後の足取りが判らなくなっているそうです」
「宿から連れ去られたのでしょうか?」
「いえ、部屋に荷物も残っておらず、大きな物音を聞いた者はいないようですので、日が昇る前からハンスが宿を出たのではないかと」
「アジトになっている砦に向かったという事ですか?」
「恐らくは・・・」
やはり、アジトに行かないとその先が分からないのだろうか・・・
「イースタン殿、馬の手配を頼めないだろうか?できれば、途中で換え馬をしたいので、2頭お願いしたい。金はそちらの言い値で構わん」
「もちろんできますが、ミーシャ殿が行かれるのですか?貴方なら黒い死人達のことはご存知のはずですが」
「ああ、もちろん知っている。だから、早く行く必要があるのだ。あいつ等は人でも簡単に殺す奴らだ、獣人のハンスは・・・」
「ミーシャ、危ないから駄目だよ」
「サリナ、お前の兄は私がこの命に代えても助け出す。安心して待っていろ」
-聞いていても仕方ない。ミーシャの考えが変わることは無いだろう。
「じゃあ、俺が一緒に行くから俺の馬車に乗って行けばいいよ」
「いや、それはダメだ。お前は勇者としてお前のやりたいことだけをやれば良いのだ」
-ミーシャまで変なことを言い出したな・・・
「俺は勇者じゃないし、俺のやりたいこと?それってどういう意味なの?」
「勇者はその心のままに過ごしてもらうのが大事だと、ユーリに昨日教えてもらったのだ。だから、迷宮の件は付き合わせて申し訳なかったと思っている」
-心のまま?
「何を言っているのかが俺にはわからないけど、ミーシャと一緒に行きたいから行くってことならそれで良いんだろ?」
-『一緒に行きたい』・・・告白したようで、ちょっとドキドキする。
「そうか、それがお前のやりたいことなのであれば、私が止めることではない。むしろ感謝しよう」
「サリナも一緒にいくんだろ?お前の兄貴なんだから」
「・・・良いの? サトルは私と一緒が嫌なんでしょ?」
既に目を潤ませて俺を見上げている。こいつの兄貴を助けに行くのだから、ここに置いて行く必要はない。
「ああ、もちろんだ。お前が助けてやるんだ。それに、お前と一緒が嫌なんじゃないよ。ずっとは一緒に居られないだけだ」
「そっか。ありがとう、サトル・・・」
サリナは俺を見上げて寂しそうな笑顔を見せた。俺はここでミーシャやサリナだけを行かせる決断?覚悟?度胸?・・・、いずれにせよ、そんな事が出来るほどドライな性格でないのは、最初から分かっていたことだ。
「戻ってくるまで、エルとアナの面倒はお願いしますね」
「ええ、それはもちろん」
イースタンは心配しながらも二人を預かってくれることに同意して、砦が記されたシリウス周辺の地図を渡してくれた。
さて、どんな悪者かは知らないが、まずはシリウスまで行ってみるとしますか、そこから先は・・・、行ってみないと判りません!
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