第38話Ⅰ-38 第一迷宮探索 後編
■バーン南東の第一迷宮
サリナに顔を治療してもらい、俺は首元まで覆われるフルフェイスのマスクとゴーグルに装備を変更した。
この先の部屋では少しでも肌を露出させるのはリスクがあるだろう。
大きな石段を後3つ登れば次の部屋の入り口だが、部屋の中からはライトが無くても見えそうな自然光の明かりが通路まで漏れて来ている。
最後の一段によじ登って部屋の中を覗ける位置まで頭を持っていった。
予想通り、部屋の中は蜘蛛の巣が天井から壁に掛けてびっしりと張り巡らされていた。
チラッと見つけただけで、さっきより大きいヤツが何匹もいる。
外に面した位置に大きな穴が何箇所も開いていて青空が見える。
風も吹き抜けているようだ、蜘蛛の巣がたなびいている。
そこまで視界に入れてから一旦通路に頭を戻した。
ちょっと厄介だ、天井高が高いので手榴弾を床に転がしてもダメージは小さいだろう。
スタングレネードも蜘蛛相手なら効果が薄いかもしれない。
催涙弾も風が吹き抜けていると天井までガスがこもらないかもしれない。
ここは銃弾の数で勝負するしかないだろう。
でかいといっても所詮蜘蛛だから外殻は硬くないはずだ。
連発できるショットガンで撃ちまくる、それで行こう。
頭の中で一人作戦会議を終了した俺は、32連のドラムマガジンがセット可能なオートマチックのショットガンをストレージから取り出した。
三人にはそのまま待つように合図を送って、入り口の横で銃をもって深呼吸をした。
息を止めて部屋に飛び込んだ!
一番近くにいた黄色と黒の縞々に向けてトリガーを短く絞る。
金属の分厚い板をぶっ叩いたような音が耳元で3回なる。
縞々は張り巡らされていた糸と一緒に吹っ飛んだ。
天井の縞々を片っ端から撃ちまくる。
アサルトライフルやサブマシンガンよりはるかに野太い発射音が続くたびに蜘蛛が天井と壁に弾き飛ばされる。
それでも、何匹かがネバネバ糸を飛ばしてきたが、無視してマガジンが空になるまで撃ち尽してから、すぐに通路へ退避した。
ショットガンをストレージに戻して、サブマシンガンを持って部屋に再突入する。
近場はほとんど駆除できたはずだ。
10メートルぐらい先の天井に沢山固まっていたので、フルオートで横になぎ払った。
マガジンをリセットして更になぎ払う。
部屋の中央まで進んで、動きがあるヤツを見つけては短く連射して止めを刺した。
マガジンを9本使ったところで満足できた。
もう、動くやつはいない、おそらく20匹を超える大蜘蛛を倒したはずだ。
天井の蜘蛛の巣も蜘蛛ごと吹っ飛んだのでだいぶ減っている。
それでも、気持ち悪い糸で部屋中が覆われていることには変わりが無い。
サリナ達を部屋に呼び入れて部屋の中をを確認する。
撃ちながら見たときには次の部屋へ繋がる開口部は無かったはずだ。
外に繋がる大きな穴はあるが・・・、俺は高いところが嫌いなのであまり覗いていない。
ストレージから3本のほうきを取り出して3人に渡した。
「出入り口が無いか、天井とか壁の蜘蛛の巣を取り除いて調べてよ。それと外の穴から違う場所に繋がってないかも見て欲しい。俺は魔法の道具を整備するからさ」
3人に仕事をお願いしたが、全員すぐに動き出した。
まあ、このぐらいやってもらっても全く問題ないはずだ。
ここまで一人で戦っているのだから、俺は既に充分頑張った。
大掃除をしている間に気持ちの悪い蜘蛛の糸がついた装備を交換する。
新しいヘルメット、ゴーグル、フェイスマスクをつけるとスッキリした。
お掃除のおかげで蜘蛛の巣は壁にはほとんど残っていないが、残念ながら次に繋がる開口部は見えてこない。
怖かったが、外に繋がる穴から下を見ると随分と高い場所まで上がってきたことが判る。
穴から見える範囲ではこの場所が迷宮では一番高いようだ。
苦労して上まで来たがハズレということなのか?
どこかで見逃した分岐点か、縦穴の途中に横穴があったとか?
「あそこ!」
ちびっ娘がほうきを持って走ってきた。
「出口があったの?」
「違う、なんか変だから一緒に来て!」
サトルがサリナに連れて行かれた突き当たりの壁には、弾き飛ばされた蜘蛛と体液が足元に散らばっていた。
だが、壁は他と同じで茶色い岩の上にうっすらと砂がくっ付いているだけで、他との違いは見当たらない。
「どこが変なの?」
「ここ!ここだってば!」
サリナはほうきの柄で壁を縦にこすった。
こすった跡を見ると、少しでこぼしているが真っ直ぐの窪みが出来た。
サトルはコンバットナイフで窪み跡に刃を立てた。
刃先が2cm程入る。そのまま下に動かして行くと、硬い砂の塊が落ちていった。
ゴリゴリと何度も下まで繰り返すと、高さ1.5メートルぐらいのしっかりした線になった。
ライトを当ててよく見ると、壁に厚さ3cmぐらいの岩が何枚もはめ込んだような状態になっているのがわかった。
隠し部屋か何かの予感がする。
「サリナ! お手柄だよ! 隠し扉かもしれないぞ!」
「本当に! やったぁ!」
無邪気に喜ぶちびっ娘を無視して、どうやって開けるかを考えていた。
映画的にはC4あたりのプラスチック爆弾で砕くところだろうが、壁の奥行きや破壊力がわからない。
そもそも使ったことがないから、怖くて使えない。
床に座って、タブレットで工事道具を検索することにした。
イメージはあるのだが、なんと言う名称かがわからなかった。
見つけた!
電動ハンマーとか、コンクリートブレイカーと言う名前らしい。
工事現場でアスファルトとかコンクリートを割っていくアレだ。
すぐにストレージから自家発電装置と一緒に取り出した。
用心深い俺は3人を反対側の壁付近まで下がらせてからガスマスクを装着した。
部屋にはガスがこもっているかもしれないからな。
ノミのようになっている電動ハンマーの先端を窪みの線にあわせて削っていく。
面白いように土の部分が削れて行くが、壁の奥行きがかなりあるようだ。
20cmぐらいハンマーの先端が入ったがまだ向こう側まで届かない。
しばらくやったが、奥行き20cm、縦1メートルの細い溝が出来ただけだった。
もっと大きな工具がで行くべきか・・・
面倒になって来た、壁も分厚いようだし、やはり映画的に行くことにしよう。
ストレージから釣り用の太い糸を取り出して、手榴弾のピンに結んでおく。
電動ハンマーで溝の幅を広げて手榴弾が動かないように押し込んだ。
4人で通路まで退避してから、釣り糸を手繰ってピンまでのテンションを確認すると一気に引っ張っる。
1.2.「3」で立て続けに爆音が鳴り響いた。
砂埃が落ち着くのを待って奥の壁まで戻ると、岩の板が半分ぐらい吹っ飛んで塞がれていた穴の形が判るようになっていた。
高さは1.5メートル、幅は1メートルの四角い穴を厚さ3cm位の岩の板を積み重ねて隠していたようだ。
崩れた岩の板を上から順にはずしていく。
ハンスも片手で手伝ってくれた。
岩が半分ぐらい取り除かれたところで、穴の奥にそれを見つけた。
いかにもって感じの古めかしい木箱だ。
既に屈めば穴の中には入れるが、アレをとりに行くとゲーム的には何か起こりそうな気がする。
火薬が無いから爆発ってことは無いだろうが・・・、考えていても仕方ない。
中に入ってみてみることにしよう。
ライトの光をサリナ達に差し込んでもらい、中腰で穴の中に入った。
穴は2メートルしか奥行きが無いので、2歩ぐらいで地面に置かれた大きな木箱が目の前にきた。
ライトで照らすが、糸や床に仕掛けがあるようには見えなかった。
縦50cm、横80cm、高さ30cmぐらいに見える木箱は外側に
蓋を少しだけ持ち上げ、横から覗き込んでライトの光を入れてみる。
仕掛けは何も無い。
当たり前だ、ピアノ線で爆弾が仕掛けられている映画の世界では無い。
呪いが掛けられているかもしれないが、それなら防ぎようも無いだろう。
いい加減ビビリの自分に嫌気が差して、木の蓋を普通にとってみることにした。
だが、蓋に手を掛けた俺の後ろでサリナの叫び声が聞こえた。
「サトル!」
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