第39話Ⅰ-39 襲撃
■バーン南東の第一迷宮
サリナの叫び声に振り向いた俺は、左側の開口部から見えていた青空が塞がれて、部屋全体が暗くなっていることに気づいた。
慌てて穴から飛び出してアサルトライフルを構える。
「あそこ! ミーシャとお兄ちゃんが!」
サリナが指差した部屋の中央では足から引きずられていくミーシャを、ハンスが後ろから抱きついて止めようとしてた。
-クソッ、俺のミーシャに!
俺が腹を立てたのはハンスにではない、ミーシャの足に太い糸を絡ませて壁の外から気持ち悪い足で手繰り寄せようとしているヤツ-巨大な蜘蛛-にだった。
外に面した開口部は幅2メートルぐらいあるが、そこからは入って来られない大きさだ。
さっき皆殺しにした大蜘蛛は赤ちゃんだったのかもしれない。
俺はアサルトライフルの5.56mm弾をフルオートにして、糸が出ている口と思う場所に叩き込んだ。
全弾命中したはずだが、相手が大きすぎて手応えが無い。
それでも、針で指された程度の痛みがあったのか、俺を敵と認識してこっちに太い糸を飛ばしてきやがった。
こっちに意識が向いたおかげで、ミーシャたちは向こうに引きずられなくなっている。
糸は俺から半分ぐらいのところまでしか届かなかったが、図体にあわせて糸が桁外れに太い。粘着力もミーシャが捕らえられたぐらいだ、手や足では振り払えないのだろう。
それに知恵もあるようで、糸を飛ばす口のある場所を俺にもっと近い場所へ持ってくるために移動を始めやがった。
だが、知恵があるのは相手だけではない、こちらには高校生レベルだが知恵も、そして強大な火力がある。
-俺のミーシャに手を出した過ちをタップリと思い知らせてやる。
ストレージから
ターゲットになる場所は10メートルも離れていない。
相手の影が開口部に出てくると同時にトリガーを引きまくった。
50口径から噴出す銃弾の炸裂音が部屋の中に低く響き渡る、サプレッサーで抑えきれない轟音だ。
さすがにダメージを与えている。
蜘蛛の体が震えて、12.7mm弾が着弾した場所から黄色い液が飛び散っている。
10発を撃ち尽くし、マガジンを交換して穴から見えている胴体のほかの部分にも打ち込んでいく。
硝煙が立ち込め、発射音が部屋の中に続いたが、蜘蛛はまだ下に落ちていかない。
動物なら急所がわかるが、虫の急所は良くわからない。
だが、やはり目の辺りだろう。
そう信じて3個目のマガジンに付け替えて、大きな牙が開いている上にあった大きな4つの目を一つずつ狙って撃った。
1発、2発、3発全て命中し、3つの目をつぶしたところで蜘蛛の足から力が抜けたのが判った。
足が引っかかって下には落ち無いようだが、完全に沈黙したようだ。
-スッゲェ疲れた・・・だが、他にも!?
反対側の開口部を見に行ったが、上にも下にも横にも同じ蜘蛛は居なかった。
だが、外側の見えない範囲にいるかもしれない。
安全なところまで後退すべきだろう。
足を引きずるミーシャをハンスに抱えさせて、登ってきた通路まで後退した。
サリナにミーシャの治療を任せて、部屋の中を警戒する。
もう来ないようだ。
「ミーシャ大丈夫か?」
「ああ、・・・サリナは本当に凄いのだな。服も溶けて焼け付くような痛みだったが、一瞬で痛みが消えた。感謝する」
「任せてよ♪ みんなはサリナが守ってあげるから!」
「よし、良くやった!これからも頼むよ、まずはこの迷宮の外に出よう」
サリナは俺に褒められて心底嬉しそうな笑顔を浮かべたが、ハンスは表情を曇らせた。
「サトル殿、先ほどの木箱の中身はあきらめるのでしょうか?」
「いえ、木箱は持ってきましたから大丈夫です。中身は後で確認しましょう」
俺はサリナの叫び声を聞いて、振り向きながら木箱をストレージに投げ込んでいた。
蓋を開いた時には布切れしか見えなかったんだが・・・
上りと逆の順番に迷宮の出口を目指して、俺が先頭で降りはじめた。
下りも段差の大きい階段状の通路はハードだった。
後ろ向きになってから下の段に両足を下ろしていく。
後ろの三人は俺に遅れずについてきている、サリナにはハンスが手助けして降ろしてやっていた。
ミーシャは段差など無いように軽々と降りてくる。
愛しのハーフエルフは降りる姿も格好良かった。
階段状の通路を下り、はしごを渡した部屋も通過して、大広間の入り口まで無事に戻って来た。
中を覗くと大広間の中には、今日も何かがいる。
いつも外から入ってくるのだろうか?
大型の獣のようだ、昨日と同じ要領で発炎筒を5本投げ込んで視界を確保する。
赤い光の中に浮かんで見えたのは、今日もサンドティーガー2匹だった。
近くにいなければ、全く恐怖を感じなくなって来た。
無造作に出て、アサルトライフルを短く連射すると2匹ともすぐに動かなくなった。
近寄って銃弾を頭に打ち込みトドメを刺してから、もう一度周囲を見回して安全を確認する。
迷宮だからと言って、無限に魔獣が湧き出してくるわけでは無いようだ。
少し安心しながら出口を目指す。
出口の明かりが見えてくると、体の力が抜けていく。
時間は4時間ほどしか経っていないが、危険に身をさらす戦闘はプレッシャーが半端無い。
それでも、出口の手前で一度立ち止まって外を確認してから洞窟を出た。
だが、確認が甘かったようだ。
外に出て日の光を浴びた俺の太ももに激痛が走った、足を見ると木の矢が刺さっている。
襲撃だ!
それも人による襲撃だ!
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