第37話Ⅰ-37 第一迷宮探索 中編

■バーン南東の第一迷宮


俺はスロープの通路から部屋に入る前に部屋の床へコンバットナイフを突き立てた。

足場が崩れないか確認するためだ。

自分が立てる範囲が固い床であることを確認してから入り口の左右に発炎筒を置いた。


入った部屋は入り口から1メートル先までしか床が無い。

向こうの壁とそこにある暗く開いた穴-おそらく開口部だろう-までは4メートル以上の大きな穴がある。


向こう側の壁にも庇のように1メートル程の床が突き出しているが、ここから助走なしであそこまで飛ぶのは人間には不可能だ。

獣人なら行けるのか?

下に落ちている発炎筒までの高さも10メートル以上ある。

行き止まりだったさっきの部屋の上に来ているのかもしれない。


ゲームなら弓矢で向こうにロープを飛ばして・・・、なのかもしれないが俺はストレージで代わりの物を探した。

後ろの三人にはペットボトルの水を与えて小休止してもらうことにする。


やはり、はしごだろう。

この世界にはなくても現世にはコンパクトな状態から伸びるはしご見つかった。

3メートルの状態から6メートルまで伸びると書いてある。


二つストレージから取り出して、一旦下の穴に向けて伸ばしてから、向こう側に渡していく、段々手元が重たく感じてきたが、何とか向こう側の床とこちらの床に届いた。

同じ要領でもう一本も両側の床に届かせた。


本来の使い方ではないから強度が心配だ、特にハンスの体重に耐えられるかが問題だが、二本に体重を分散することで耐えられると信じよう。


向こうの壁沿いにも発炎筒を3本投げて、部屋全体を明るくしてからサリナ達を呼び寄せた。


「今からこのはしごの上を四つんばいになって歩いて行くから、はしごを手で押さえて見てて、俺が向こうに行ったら一人ずつ同じように渡ってきて」


少し理解できなかったかもしれないが、サリナとミーシャはハシゴを抑えてくれた。

俺が渡るのを見ればどうすれば良いかわかるはずだ。


二本のはしごにそれぞれ手を掛けて強度を確認したが、俺の体重なら全く問題無いようだ。

安心して、四つんばいになって進んでいく。

向こう脛がはしごの角に当たって痛いが、我慢できないほどではない。

無事に向こうまでたどり着いた。

ハシゴはそのままにして開口部の奥を先に覗く、獣はいなかったが段差が1メートルぐらいある階段状の狭い通路だった。


「じゃあ、次はサリナがこっちに来て」


俺は反対側ではしごを抑えながらサリナを、そしてミーシャ、ハンスも無事に迎えることが出来た。


4人が渡り切ったところで、アサルトライフルを背負って開口部の通路に向かった。

大きな段を一段ずつ飛び上がってよじ登っていく、場所によっては1メートル以上の段差があるので小さなはしごを置いて登っていった。

ハンスは片手でらくらくと登ってきていた、やはり基礎体力が人とはだいぶ違うようだ。


ずいぶん登って疲れてきたころに、いやな感触が手のひらに伝わってきた。

グローブの手のひらがネバネバする・・・、上のほうからは白くて細い糸がライトの光を受けて飛んで来た。

一旦止まって先を確認すると、上のほうには自然光が差しているようだ。


だが、このネバネバの糸があるという事はヤツがいるのだろう。

アサルトライフルを収納して、サブマシンガンを片手に持ったまま段を上ることにした。

一段登るごとに斜め上を確認する。


明かりが漏れている次の部屋が見えてきた、そう思った瞬間に白い糸が上から俺の目に跳んできた!

サングラスが真っ白になって視界を奪われる。


斜め上を見ていたおれの真上に隠れていたやつがいたようだ。

サングラスに覆われていない頬のあたりがひりひりと痛い。

毒性のある糸なのかもしれない。


見えないサングラスを投げ捨てて糸が飛んで来た方向にサブマシンガンを連射すると、息を吐き出すような音とあわせて、俺の上に何かが降ってきた。


肩に乗っかるそれを振り払って、銃口のライトで確認すると、胴体が50cmぐらいある蜘蛛だった。

念のため目と目の間に短く連射して止めを刺しておく。


顔のヒリヒリはズキズキに変わってきていた。

ペットボトルの水で顔を洗ったが痛みは治まらない。


「サリナ、顔が痛いんだけど魔法で治療してくれる?」


「うん、任せて!」


ダメモトでやってもらおう、そう思っていた俺はサリナに謝るべきだろう。

一瞬で痛みが消えた!


- 魔法万歳!! -


「ありがとう、痛みがなくなったよ」


「当然でしょ、サトルは私が守るんだから!」


今となればその言葉に多少の信憑性を感じてきている。

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