第36話Ⅰ-36 第一迷宮探索 前編

■バーン南東の第一迷宮


翌朝はスマホの目覚まし時計で目覚めることが出来た。

キャンピングカーの中では静かな物音がしているが、魔獣たちに取り囲まれてはいないようだ。

せっかく用意した指向性地雷は無駄になったが、備えあれば憂いなしだ。


顔を洗って装備を整えてからキャンピングカーの中に入った。

昨日は早く寝たからだろうか、3人とも既に目を覚ましていた。


パン中心に軽めの朝食を用意してやり、食べながら今日のプランを説明しておく。


「全員の安全が最優先だから、危ないと思ったらすぐに逃げる。ミーシャは後ろを特に注意して、何か来たら大声で教えて欲しい」


「承知した」


「ハンスとサリナには盾を渡しておくから、ハンスはサリナを守ってください」


「わかった、感謝する」


「サリナは!?」


こいつは、戦力外なのだが。


「サリナは・・・周りを良く見て敵が居たらすぐに教えてくれ」


「判った! 任せて!!」


兄が居るせいなのか、今日は一段とテンションが高いようだ。


ハンスにはイヤーマフ(聴覚保護器)が使えないので、大き目のヘルメットだけで我慢してもらった。上に向かって立っている耳はヘルメットの下でふさがるはずだから、多少はマシだろう。

凄い音が鳴り響くことだけは事前に伝えておいた。

4人の装備とライトチェックをして、いよいよ迷宮探索を始めることにした。


キャンピングカーから迷宮の間に、そして迷宮の入り口から広間には魔獣は見当たらなかった。


広間には何匹か居たが暗くて正体はわからなかった。

今日は4人ともヘッドライトとベストの胸にライトを着けていて、サリナとミーシャは手にもフラッシュライトを持たせている。

それぞれが見つけた広場の魔獣にむけてライトの光をあわせてくれた。


二人が見つけた魔獣に俺のアサルトライフルにつけたライトの光を重ねて、短い連射を繰り返した。

乾いた発射音に合わせて空薬莢がリズミカルに飛んでいく。


マガジンを3回交換するまで撃つと、ライトの届く範囲にいた7つの影が全て動かなくなった。

左右へライトの光を送りながら慎重に広場の奥へ進んでいく。

倒れているのは昨日見た大蟻だった。

1メートルぐらいの体のあちこちに開いた弾痕から液体を垂れ流している。


広場全体を確認しても他に動く物は見当たらない。

この広場の開口部の内3箇所は昨日確認済みだ。

二つは上で繋がっていて、結局ここに戻ってくる。

もう一つはハンスを見つけた地下へのスロープ。

残りが昨日確認していない二つの上に向かうスロープだが、まずは右にあるスロープを登ることにした。

ロールプレイングゲームをやる時も、迷路ではいつも右を選択するようにしている。


スロープの先を確認したが魔獣は居なかった。

ライトの光を向けながら緩やかに右へカーブするスロープを上り始める。

地面は平らではない、時には膝より高い段差で手を突いて上っていく必要がある。


50メートル以上進んだ先が上の部屋に繋がっているようだった。

部屋には外からの光が入っているのか、スロープにもうっすらと光が差し込んでいる。

銃口を向けながら部屋の中を確認する。

チラッと見た限りでは教室ぐらいの広さがあった、サソリちゃんが床と壁に10匹以上ワサワサしている。


後ろの三人に耳を押さえる合図をして、4発の手榴弾を地面に並べピンを抜きながら4発投げ込んだ。


目を瞑って下を向いた瞬間に1発目が炸裂した、顔に爆風を感じると立て続けに爆音が3回続く。


目を開けると砂埃で何も見えない。


1分近く待ってから部屋の中に入ると、サソリだった物のはさみや足が壁、床、天井に張り付いていた。

もちろん動くサソリは残って無い。

一つ学習できた、教室ぐらいの広さなら手榴弾4発ぐらいが適切なのだ、左右に撒いてやれば丁度始末できる。何事も経験だ。


しかし、結果に満足した俺は部屋を調べて失望した。

この部屋にも上に上る開口部が無かった。

厳密に言うと天井の一部に四角い穴が開いていて、暗い空間に繋がっているのだが、ここから上るのは登山経験が無いと難しいだろう。

光が差し込んでいた小さな穴も人が通れるサイズでもない。


仕方がない、戻るしかないのだろう。

せっかくなのでフェイスマスクとサングラスを交換してから1階の広間へ戻った。


大広間には待ち構える魔獣は居なかった。

念のため、行き止まりのスロープに赤いケミカルライトを置いてから最後のスロープにむかった。


左回りのスロープはさっきと同じぐらい進むと、同じぐらいの広さの部屋に、同じサソリが・・・、4発投げ込んで解決した。


中に入ってみると、ここには上に繋がるスロープがある。

いや、スロープと言うより不規則な階段と言っていいだろう、30cmから50cmぐらいの段が続いている。


上りきった突き当たりは真っ暗な部屋に繋がっていた。

頭だけを出してアサルトライフルのライトを向けるが動くものが見つからない。

何もいないのか? 長年のゲーム勘が素直にそれを受け入れられない。

発炎筒に火をつけて、部屋の中に投げ込んだ・・・が、発炎筒が消えた!

床にライトを当てると穴になっていて、1メートルぐらい先で下に落ちたようだ。


不用意に中へ入ると落ちるかもしれないから、どう動くかを事前に考えて・・・


だが、考えている俺の肩をサリナが叩いた。

いつの間にか俺の横に来て上を指差している。

部屋の中の天井の方だ、天井も高くて光が充分に届いていない。

だが、俺とサリナのライトが重なった先に見えるのは、天井にぶら下がるハウンドバッドだった。

ライトの光がお気に召さなかったのか、翼を広げて天井からこちらに向かってこようとする。


狙いも定めずにアサルトライフルをフルオートで連射した。

マガジンを付け替えて天井を見るとさっきの場所にはいなかったが、打ち落とした手応えも無かった。まだ、必ずどこかにいるはずだ。


蝙蝠の耳のよさを信じて、今日もスタングレネード(音響閃光弾)を選択した。

サリナを下がらせて三人に目を瞑らせた。


今日は1本だけもって、ピンを抜いて1秒待ってから部屋の中に投げ込んで目を塞いだ。

1秒後に肌を振るわせる爆音とまぶたの向こうがピンク色に見えた。


アサルトライフルの銃口を向けながら片膝を突いて部屋の中を伺う。

いた! 部屋の左奥で黒い影がバタバタしている。

短い連射を3回叩き込むと動かなくなった。


天井の4隅へライトを向けるが、他には居ないようだ。

立ち上がって足元をにライトを当てる。


足元からは右も左もライトの光が返ってこない。

発炎筒が落ちた場所は穴ではなく床全体が無かったからだ。

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