第41話Ⅰ-41 お宝は?
■バーン南東の第一迷宮
サリナによる死なない程度の治療を終えた俺はこの場から立ち去る方法を考えていた。
こいつらに俺の素敵な馬車は見せたく無い。
敵に手の内を見せれば足元をすくわれるかもしれないからだ。
目隠し? 縛り上げる? ・・・
難しく考えるのをやめた、脅しておいて迷宮の反対側からバギーに乗れば見られることも無いだろう。
その場から一歩も動かず目を瞑っておくように言われると、赤の獣爪団員たちは立てない獣人も含めて素直に指示に従った。
300メートルほど歩いて移動して、ストレージから4輪バギーを呼び出した。
昨日練習したピックアップトラックはハンスを寝かせるつもりで練習していたので、今となっては不要になったが、何事も備えあれば憂いなしだ。
バギーはハンスの肩幅には窮屈だったが、何とかシートベルトを付けさせて置き去りにしたやつらから見えない方向-東-に向かってバギーを走らせた。
怪我人がバーンまで帰れないかもしれないが、そこまでは責任を持つつもりは無い。
今日もバギーの運転はサリナに任せている。
ハンスはサリナが運転していることに驚きと喜びを感じているようだ。
東に向かって20分ほど走って迷宮が見えなくなったところでバギーを止めさせた。
俺はかなり疲れていた。
矢を受けた傷はサリナのおかげで痛みは無いが、出血があったので軽い貧血を起こしているようだ。
全身が埃まみれで喉もイガイガするから、シャワーを浴びてゆっくりしたい。
周囲には岩しか無い荒野の真ん中で、キャンピングカーを呼び出した。
三人分の着替えとバスタオル、飲み物をタップリ用意してやってからストレージでシャワーを浴びた。
着替えてスッキリしたが、疲れを更に感じた。
ソファーで少し横になるつもりが、いつの間にか眠っていた・・・
§
キャンピングカーの方がまた騒がしくなって目が覚めた。
サリナが叫んでいる・・・また、獣か?
だが違った。
「お腹すいたよー!!」
ストレージから出ると外はすっかり日が暮れていた。
時計を見ると19時30分で4時間近く寝ていたようだ。
「サトル! もう夜だよ! そろそろ何か食べさせて!」
いつの間にか俺が飯を出すことを当然の権利と考えているようだ。
しかし、今日はこいつが居なかったら死んでいたかもしれない訳だ、何か美味いものを食わせてやることにしよう。
焼肉は面倒なので・・・、子供のご馳走はハンバーガーだな。
俺もジャンクっぽいものが食べたくなっていたところだし。
プレーン、チーズ、テリヤキ、エッグ、テリヤキチキン、ロースカツ・・・サトル好みのメジャーじゃないチェーン店メニューから30個ほど取り出してみた。
飲み物はコーラから始めてもらい、口に合わなければ他のものに変えてもらうことする。
三人とも目の前に積み上げられた紙包みと俺の顔を見比べている。
俺は黙って普通のハンバーガーを包みから取り出して、かじって見せて3人にも同じようにすることを目で促した。
サリナは目の前の包みを取ってさっそく同じようにかぶり付いた。
「・・・凄い! お肉とパンが一緒で口の中で甘い味が広がる!食べるのも楽チン!」
ミーシャとハンスも手に取った。
「・・・これは鳥の肉か?だが、甘辛い味と白い物に少し塩味が・・・だが食べたことが無い美味さだ!」
ミーシャはテリヤキチキンとマヨネーズのコラボに魅せられている。
「これは、肉をすりつぶした・・・卵も入っているのですね。誰がこんな組み合わせを・・・思いつた方は天才ですね」
ハンスはエッグバーガーぐらいで天才扱いしていた。
「色々種類があるから、少しずつ試してみてよ。気に入ったのがあれば追加で出すからさ」
ハンスは紙包みの色違いに気がついて、全てのハンバーガーをあっという間に試してしまった。一つのハンバーガーが3口ぐらいで胃袋に入るので当たり前なのだが。
ハンスは、ロースカツとてりやきが、
サリナは、てりやきとチーズが、
ミーシャは、てりやきチキンが、それぞれお気に入りに登録された。
サリナとミーシャも5個食べていた。
気分が悪くならないのだろうか?
ハンスが何個食べたかは判らないが、4人で50個近い個数になった。
全員の胃袋が落ち着いたところで、ハンスお待ち兼ねのお宝確認をすることにした。
テーブルの上にストレージから取り出した木箱を置く。
木箱を見ただけで緊張して3人とも黙って俺の手元を見ている。
効果音なしで木箱の蓋をいきなり持ち上げた。
4対の目が見ているのはボロボロの布切れだった。
だが、布の下に何かあるようだ。
布をめくると出てきたのは・・・木の棒?
「伝説のロッドです! おそらく炎のロッドです!!」
ハンスが興奮して椅子の上で飛び上がりそうになったが、固定されているテーブルに阻まれた。もっと激しく動かれるとテーブルが壊れるところだ。
サリナとミーシャも興味深そうに見ているが、ハンスほどは興奮していない。
俺にはもの自体が良く判らなかった、40cm位の木の棒の先に金具のような物で何かが固定されているだけだ。
-これが伝説の? ロッド?
「触っても良いでしょうか?」
「どうぞ、少し汚れているようですからこれで拭いてみてください」
俺はハンスにウェットティッシュを何枚か渡してやった。
ハンスは片手で慎重にロッドを持ち上げて先端を光に透かしてみている。
「炎と・・・風、間違いないでしょう炎のロッドです」
-そうか、片手では拭けないな。
「サリナ、お前が拭いてやれよ」
「うん、お兄ちゃん、貸してみて」
「大切に扱えよ」
ハンスはサリナが差し出した両手にロッドを授けるように置いてやった。
ウェットティッシュを使って数百年(?)分の埃を丁寧に払っていく。
使われたティッシュが真っ黒になって、テーブルの上に10枚以上積み上げられていった。
埃が綺麗に取り除かれた棒は確かにロッドなのだろう。
棒の先端についているのは二つの綺麗な石だった。宝石なのだろうか?
いずれにせよ、良かった。
せっかく持って帰って空振りよりは、俺にとって要らない物でも見つかるほうが良い。
「無事に見つかってよかったですね、じゃあ、ハンス達はこれを使える勇者をこれから探しに行くんですか?」
「いえ・・・使える人には既に心当たりがあります」
俺はいやな予感を感じながら思わず聞いてしまった。
「誰なんですか?」
「サトル殿とサリナです」
「そんな、あほな!」
おかしい、どこで俺の異世界は歪んでしまったのだろう・・・
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