第42話Ⅰ-42 ロッドの使い手

■バーン南東の荒地


ロッドの使い手がサリナと俺・・・

ハンスの話は、実は半分は予想がついていた。


サリナは本人やミーシャが言っていたように、並外れた魔法力があるのだろう。

治療してもらって俺もそれを信じるようになっていた。

それと、母親の話や魔法を使わせたかった・・・云々を聞いていると、どうもハンスはサリナのために魔法具を探しているんじゃないかと疑っていたから、ロッドの使い手と言うのはありうる話だろう。


だが

俺は・・・、さすがに違うだろ?


神にそんなことは頼んでないし、申し訳ないが魔法よりも強い火力がある。

まあ、そのロッドでどのぐらいの事ができるのかは知らないから、絶対とはいえないが1km先まで届く炎が出るとは・・・思いたくない。


だとしたら、俺にはロッドなんて何の役にも立たない。

そう言うことですよ、ハンスさん。


「ハンスさん、誤解があるかもしれませんが私が使っている魔法はこののものとは全く異なるものですから、いろいろ出来たとしても手から火を出すことは出来ませんよ?」


道具を使えばいくらでも火は出せるけど。


「ええ、サトル殿が他のの魔法を使われているのは承知しています。サトル殿は他のから来られたのですよね」


何故、こいつがそれを!?

ここは一旦とぼけるしかないな。


「確かにこのとは全然違うから来たのですが、それと私がロッドを使えると言うのは関係ないですよね?」


「聖教会の記録では前回の勇者達はドリーミアとはから招かれた勇者であると記録されています。異世界から招かれた勇者はこの世界の魔法を発展させて、強力な魔法と魔法具を作られたと。サトル殿が異世界から来られた方であれば、それはアシーネ様の思し召し、ならばサトル殿も間違いなくこの世界の魔法が使えるはずです」


なるほど、俺も勇者召喚でしたか・・・って!

神の野郎!・・・、だが別にそう言うのが無い世界に送ってくれと言っていなかったから仕方が無いの・・・か?


「まあ、ハンスさんがそう思うのは勝手ですけど、私はこの国の魔法が使えませんし、見てもらった私の魔法だけで多くの魔獣が倒せるので、この国の魔法を覚える必要は感じないですね」


「それは・・・確かにそうかもしれません。ですが、一度ロッドの力を試していただきたいのです」


「試す? まあ、考えなくも無いですけど。それよりも、サリナが使えるようになるほうが良いんじゃないですか? 詳しくは聞きませんけど、ハンスさんは最初からそのつもりだったんでしょ?」


魔法にも興味が無い訳ではないが、論点をずらした方が面倒を減らせそうだ。


「確かに、どうしてサリナがロッドを使えるとお判りになったんですか?」


- 勘とカマを掛けてみただけです。


「いや、魔法力が強いって割には魔法を使わせなかったと言っていましたし。魔法をどこで覚えたとか、母親の話になるとサリナは口が重かったですからね」


「そうでしたか。伝説のロッドが見つかった以上、サリナにもサトル殿にもお話をしておくべきでしょうね」


ハンスは俺とサリナに向けて語り出した。


「うすうす感づいておられたかも知れませんが、サリナと母親は先の勇者の血を引く一族です。一族は強い魔法力をもっていますから、各国の王は自分達の手元に置きたがり、今も母親は火の国で軟禁されています。しかし、聖教典によれば魔竜を倒すためには、自らを鍛え、ドリーミアの民の力を集める必要があります。ですから、サリナの母親と我々はサリナに小さいころからドリーミアの各国を見る旅を続けさせていたのです」


武者修行みたいな話だったのか・・・

サリナも驚いていないから、ある程度判っていたんだな。


「しかし、それならサリナに魔法を使わせなかったのは?」


「サリナの魔法力に目を付けられないようにするためです。ですが、伝説の魔法具も見つかり魔竜の復活も近づいています。今となっては隠していても仕方ないでしょう」


「なるほど、それでこれからはどうするんですか?」


「引き続き魔法具と勇者の仲間を探します。そして、来るべき日に備えるつもりです」


「なるほど、でしたらこのロッドはそのまま持って行って貰っていいですよ」


「よろしいのですか? 昨日はサトル殿が管理すると仰っていましたが」


「ええ、お話を伺って気が変わりましたから。サリナに必要な道具なら持っておいてもらった方が良いでしょう」


俺が持っているってことは、サリナ達と離れられないってことだから、俺の身の安全のためにはロッドを渡して、お別れしたほうが良い筈だ。


「ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます。それで・・・」


「ああ、ここから先は同行しませんから別行動でお願いします。バーンの町まで送っても良いですけど、赤い獣爪団じゅうそうだんのことを考えると他の町に行った方がいいかもしれないですね」


俺自身は面倒事を避けるために、バーンには戻らずに一つ北のシグマの町に戻るつもりにしていた。


「駄目だよ、サトルも一緒に行かないと!」


ちびっ娘が駄々をこねているが、わが身の安全の方が大事だ。


「元々、サリナとは南の町まで連れて来るだけの約束だっただろ。それも途中で別れるかもしれないって約束しただろうが」


「でも、サトルも一緒に居た方が楽しいでしょ?」


確かに、少し楽しくなって来たのは事実だ。

近接戦闘は怖かったが、やり遂げた感覚は遠くから撃ち倒すよりも達成感があった。

それでも、こいつらと居ると俺の命に関わる。


「それで、サリナ達と同行しないとすれば、サトルはこれからどうするつもりなのだ?」


ミーシャから鋭い質問が飛んできた。当たり障りの無い回答でご機嫌を損ねないようにと・・・


「そうですねぇ、しばらくは南の方で狩りをしてから他の国へ周ってみようと思ってます」


たった今思いついたんだけどね。


「そうか、特に予定が無いならもう少し迷宮探索で魔法具を探してくれないだろうか?」


確かに決められた予定などある訳も無い、しかし、昨日もミーシャのお願いだったんだよな、そこまで行きたい理由は聞いておく必要があるな。


「ミーシャは魔法具を探したい理由があるの?」


「ああ、私は神の拳を探しているのだ」


「神の拳? それも伝説の魔法具なの?」


「森の国ではそう伝わっている。その神の拳でエルフの森を勇者の一人が救ってくれたとな」


「見つけてどうするつもりなんですか?」


「それは聞いていない、エルフの長と森の国の女王からの依頼で探しているのだ。だが、もし見つけられないとエルフの森は再び長い眠りにつくと聞かされている」


「再び?ってことは、前にも長い眠りについたことがあるんですか?」


「ああ、先の勇者がこの国に現れるまでの300年近くはドリーミアからエルフの森は切り離されていたのだ」


切り離されて? 聞いていてもサッパリ判らん・・・だが、愛しのエルフにはそんなに長くは眠って欲しくないな。


「ハンスさんは、その神の拳のことを知っているんですか?」


「ええ、記録に残っていますが、その魔法具はサリナの一族とは別の勇者がお使いになっていたはずです。ですからその魔法具は私達が探しているものとは別のものです」


本当にあるのか・・・、ミーシャのお願いは強力だからな・・・

ケガぐらいはサリナガ何とかしてくれるだろうし・・・


「じゃあ、その神の拳が見つかるまで一緒に迷宮を周ってみますか!」


「やったぁ! サトル大好き!」


ちびっ娘は踊り出しそうな勢いで、ソファーの上で弾んでいる。


自分の意志の弱さが恨めしい。

つくづくそう思う。

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