第281話Ⅱ-120 手掛かり

■スローンの町 近郊の森


 連続で発射した照明弾はゆっくりと上空から舞い降りてきて、森の中を徐々に黄色い光で染めて行った。木の陰に隠れている奴らは空を見上げて動揺しているのが見える。その隙にストレージからドラム缶を5つ出して遮蔽物として並べてから、プラスチック弾が入ったショットガンを構えて、目についた相手に向けてぶっ放していった。


 -ギャッ! グゥッ! アゥッ!


 響く轟音の間に顔や手足に直撃を受けて悲鳴が次々に上がっていく。距離が30メートル以上あるから大した怪我にもならないが、目に当たれば失明する威力はある。横にいたサリナも出遅れずに見つけた奴に風魔法をバンバンとぶつけている。当たった奴は5メートルほど吹き飛ばされて受け身も取れずに地面や木に叩きつけられているから、力加減はばっちりだ。それに狙った相手だけを飛ばしているようだった。以前なら、生えている木と一緒に地面ごと吹き飛ばしていたのだから、練習の成果と言うのは本当のようだ。


「サリナ、良い感じだな。右のほうを頼むぞ!」

「うん♪ 任せてよ。 エイッ! ソレッ!」


 ちびっ娘はロッドの先から空気の弾丸を発射するように次々と放っていくので、10人ほど撃った後は任せることにして、後ろで見ているリンネを呼んだ。


「全員、生け捕りにしたいんだ。虎たちに咥えさせて、ここに連れてこさせてくれ」

「あいよ」


 ストレージから黒虎を順番に出すと、リンネの指示で森の中に次々に走り出していく。虎系の魔獣を50匹ほど出したところで最初に放った虎達が森の中にいた奴らを次々と引きずってきた。男達は必死で泣き叫んでいるが噛んでいる方は全く意に介さずに鋭い牙を足に深く食い込ませている。男達は町にいた奴らではなく黒い死人の配下だった。手に剣を持った奴もいれば、手ぶらだが、腰に鞘だけが残っている奴もいる。いずれにせよ、剣で俺達と戦おうとした愚か者と言う事だ。


「もう、見えるところに立っている人はいないみたい」

「そうか、よくやったな」

「うん♪ 魔法上手くなったでしょ!?」

「ああ、洞窟の中で練習していたんだな」

「うん! リンネが色々と教えてくれたの!」

「そうか、リンネがな・・・」


 念のために残った敵がいないか赤外線カメラで周囲を索敵したが、目の前で虎達につかまっている奴ら以外に大きな生物はいないようだった。その中には手錠をかけた町長もいるが、口から泡を吹いているから気絶しているのだろう。


 照明弾が地面に落ちてすっかり暗くなったので、ミニバンを2台出してヘッドライトの明かりを男達に向けた。転がっている奴らは必死に虎の牙から逃れようとあがいているが、動けば動くほどしっかり食い込むようで、森の中は男達の悲鳴が何重にも重なっていた。


「サリナ、食べながらで良いから周りから他の敵が来ないかリンネと二人で見張っておいてくれ」

「うわ! ハンバーガーだ! やったー!」


 俺がキャンピングセットと一緒にハンバーガーを山積みにすると、ちびっ娘はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。俺も少しだけ嬉しい気分になったが、やるべきことをやらなければならない。一番近くに転がっている男の腕を踏みつけながら質問した。


「お前たちのリーダーはどいつだ?」

「た、頼む!こいつを何とかしてくれ!」

「素直に話せば、何とかしてやるよ」


 男は黒虎に右足のふくらはぎを噛まれて、動く左足と両手で虎の口から逃れようとしているが、黒虎は寝そべって素知らぬ顔をしている。


「た、隊長は・・・、あ、あそこだ。あの頭を丸めた大きな男だ」

「名前はなんて言うんだ?」

「が、ガイだ・・・、おい、教えたんだから、こいつを・・・」

「ああ、そのうちな・・・」

「ちょ、ちょっと待てよ!」


 わめく男を放置してガイと言う名の坊主頭の男に近寄った。確かに立派な体格をしていて、黄色い虎の顔を動く方の足で必死で蹴っている。だが、虎は痛みを感じてもおらず、男の足首を口で抑えこんだままだった。


「お前が隊長らしいな」

「・・・、ギャゥッ!」


 返事をしない男の右膝をグロックの9㎜弾で撃ち抜いた。今の俺は相手の事を気遣うつもりはかけらもない。一刻も早くミーシャに術をかけえた奴の情報を得なければならない。


「これで、片足は動かないな。ひざの関節が砕けたはずだ。もう一度聞く、お前が隊長だな」

「そ、そうだ」

「お前たちのアジトはどこにあるんだ?」

「い、今はアジトが無い。ここから西に馬で1日ほどの森の中にキャンプを張っている」

「そうか、そこには首領も来るのか?」

「い、一度だけ来た」

「ふむ・・・、首領たちのいるネフロスの本拠地がどこにあるか知っているか?」

「し、知らない」


 男は答えるときに俺の目を見ることが出来なかった。嘘と言う事なのだろう。俺は躊躇せずに肩をグロックで撃った。


「ガァーッ! チ、チクショウ! この野郎!」

「お前が嘘を言うからだ。ネフロスの本拠地は?」

「ほ、本当に知らねえんだよ! 嘘じゃねえ!」

「そうか、信じられないな。何か知っているんだろ?」

「・・・。わ、わかった! 言うからこれ以上は勘弁してくれ。俺が知っているのはそこに行ったことがある奴から聞いただけだが・・・、本部は火山の中腹から入れるようになっているらしい」

「火山の中腹? お前にそれを教えた奴は今どこにいるんだ?」

「・・・キャンプにいるはずだ」


 まずは、キャンプとやらに行く必要があるようだったが、こいつらがここに居る目的も確認しなければならない。


「ここには何故来たんだ?」

「洞窟に閉じ込めた奴が出てこないか、念のために見張れと・・・」

「なるほど、それをお前に伝えたのは?」

「さっきのキャンプにいる男だ」

「わかった、お前はラッキーだな。とりあえずドライブに連れて行ってやるよ」

「? グゥー!」


 男の首筋にスタンガンで高圧電流を流してから、治療魔法をかけて手と足を拘束した。


「サリナ、ハンバーガーを食ったら、こいつらをスタンガンで寝かせてくれ!」

「わかった! 電池が無いかも知れないから、新しいの貸して!」


 走ってきたサリナにフル充電のスタンガン二つと手錠をリュックに入れて渡してやって、手分けして全員を無力化したうえで手錠をかけて一か所に集めた。


「それで、この人たちはどうするの?」

「そうだな、お前のお爺ちゃんに手伝ってもらおう」

「?」


 サリナはハンバーガーを食べながらタロウさん達と話をしていたから、ここまでの経緯は聞いているはずだ。


「タロウさん、こいつらを囲う大きな牢を作ってくれますか?」

「牢?どんなものですか?」

「出ることのできない部屋で空気が入る小さな窓があれば良いです。壁は厚めでお願いできますか?」

容易たやすいことです」


 タロウさんはにっこり笑うと地面に軽く手を突いた。地面から振動が伝わると男たちのいるテニスコートぐらいの空間の地面を囲むように壁が垂直に立ち上がり、あっという間に男達は土壁の向こうに見えなくなった。屋根はドーム状になっていて、30㎝ぐらいの穴が側面にいくつも開いている。


「これで良いですか?」

「ええ、完璧です。しばらくここに入れておきましょう」

「それで、この後はどうするのですか?」

「こいつを連れて、こいつらのキャンプがあるところに行きます。タロウさんは・・・」

「私ももちろんご一緒します。なんでも言いつけてください」

「ありがとうございます」


 今は一刻を争う状況だ。助けてくれると言う申し出をありがたく受け入れた。檻に入れたガイをピックアップトラックの荷台へ乗せて、西にあると言うキャンプを目指してアクセルを踏んだ。助手席に座ったサリナが俺の方を伺い見ているが、珍しく話しかけてこない。後部座席にはリンネを挟んでママさんとタロウさんが座っているがこちらも無言だった。


「どうしたサリナ、まだ食い足りないのか?」

「ううん・・・、大丈夫」

「そうか、疲れたのか?」

「ううん、元気だよ。お風呂も入ったし、ハンバーガーは美味しかった・・・」

「だったら、どうした?」

「何だか、サトルがいつもと違うような気がして・・・」


 そういう事か、俺がピリピリしているのがこいつにも伝わっているのだろう。尋問・・・というか拷問もいつもより激しかったからな。


「ああ、そうかもな。ミーシャの事は聞いたんだろ? 急がないと、眠ったままだと・・・、ミーシャがな」

「うん、わかってる。私も頑張る・・・」

「ああ、頼むよ」


 会話はそれっきりになり、俺は暗い森を抜ける街道を西に向かって車を走らせ続けた。


 -人は眠ったままで何日生きることが出来るのか?


 今の状態がどういうものかは分からなかったが、何も食わず水分もとらなければ、生き続けることが出来ないことだけは確実だった。多少無理をしてでも、ネフロスの本拠地を叩いて、ミーシャに術を掛けた奴を一刻も早く見つけなければならないのだ。


 -少ない手がかりだが、これを手繰るしかない・・・、ミーシャ頑張ってくれ。

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