第280話Ⅱ-119 救出
■スローンの町 近郊の森
エルフの里経由でサリナ達が捕えられている洞窟に戻ってきたのは16時過ぎだった。道中の車で、タロウさんは俺と会うまでのことを色々と話してくれた。タロウさんがママさんと別れてからの事ばかりだったが、タロウさんは次の勇者の情報を求めて旅を続けていたそうだ。その旅の中で魔竜復活にはネフロス教が何らかの関与をしていると聞き、勇者の情報と合わせてネフロスと黒い死人達の情報も集めるようになったらしい。
今日まで勇者に関する情報は何も得られなかったが、ネフロスと黒い死人達の情報とその悪行は嫌と言うほど耳に入ってきた。実はお城にいた娘たちは黒い死人達に攫われた女たちをタロウさんが面倒を見ていると言う事だった。実家に帰れるものは帰したのだが、いろんな理由で戻りたくないと言う女を住まわせるためにあそこに拠点を作って、ゆっくり暮らしていると・・・。
-だが、裸で昼間から風呂に入る必要があるか?
俺の方もこの世界に来てから、勇者の魔法具を探して、黒い死人達と戦いながら火の国との戦争をして、ママさんとリカルドを解放したことを伝えたが、その長い会話の中でママさんが口を開くことは無かった。いや、正確には“喉が渇いた”というセリフは聞いたような気がする。
エルフの里に戻ってもミーシャが目覚めていると言うことは無かった。俺はベッドで眠る白い肌を眺めるだけで我慢し、ノルド達に看病を任せてサリナ救出のために戻ってきたところだ。
-まずは、サリナ。そして、ミーシャ。一人ずつだ・・・
戻ったスローンの森は雨が上がっていて、濡れた土の匂いが立ち込めている。転移ポイントの聖教石を回収して、洞窟のほうへと向かうと既に薄暗い森の中で
「あなた方は・・・ギャッ!」
俺は松明を持っている男が町長だと分かった瞬間に、その太ももをグロックの9mmで撃ち抜いた。
「あ、足が! 痛い、痛い!」
「町長、どうしたのですか!? グぅッ!」
横にいた男にはテイザー銃で高圧電流を流してから手錠をかけた。この男も町長と同じネフロスの信者かどうかわからないから処分は保留にしておく。
「お前には後で話を聞くから動くなよ。まあ、死んでも構わないと思ってるけどな」
地面に転がる町長に手錠をかけて放置して、後ろで見ているママさんとタロウさんを促して洞窟の入り口へと向かった。
洞窟は前回来た時と何も変わっていない、20メートルほど行くと固い岩盤で行き止まりになっている。俺のストレージには地面と不可分になっている自然のものは取り込めないから、破壊するしかないのだが・・・。
「この先にいるはずです」
「なるほど、下がっていてください」
タロウさんは俺を下がらせると足元の地面に手をついた。すると、コンバットブーツの靴底から振動が伝わり、目の前にライトで照らされた岩の壁が地面に吸い込まれていくように見えた。まるで柔らかいもののように岩盤が地面に吸い込まれて、洞窟が奥に向かって広がっていく。
-スゲェ!
相変わらず理屈はさっぱり分からないが、魔法で通路が伸びるならそれで良し。10メートル、20メートルと伸びていくと突然壁の向こうから燃える火の光がこちらを照らした。見えている炎は少し高くなった天井近くで燃え続けているものだったが、その明かりに照らされた空間は大きな広間のようになっていて、その奥の方には・・・ん!?
「おい! サリナ! リンネ!」
「あッ!? サトル! どうして! ウァー!」
俺達が見たのは素っ裸で炎の前に突っ立っているサリナとリンネだった。裸を見られたサリナはその場にうずくまって腕で大きな胸を抱えている。可哀そうだったので、後ろを向いてやり、ストレージから取り出したバスローブをママさんに渡した。
「とりあえず、これを着せてやってください」
「フフッ・・」
タロウさんと会ってから初めて笑顔を見せたママさんは俺の横を通って、洞窟の奥へと進んだ。タロウさんも俺の横に来て裸の二人を見ないように洞窟の入り口の方向へ向いている。
「サリナは大きくなりました・・・」
タロウさんがサリナを最後に見たのは7年ぐらい前の事だそうだ。聖教会の人間から情報をもらってハンスとサリナが隠れている場所をこっそり見に行ったことが何度もあるらしい。
「でも、年の割に背が低いですよ」
「ええ、良いのです。胸は立派に育っていますから」
「・・・」
このジイさんも何を言っているのやら・・・。
「もう良いよ! サトル、助けに来てくれたんだね!? ありがとう!」
振り向くとバスローブを着た二人がママさんと並んで俺を見ていた。二人とも髪の毛が少し濡れているようだ。
「ああ、ちょっと心配だったからな」
「心配? 黒虎が知らせてくれたんじゃないの?」
「黒虎? 何の話だ?」
「違うのかい? あたしがあんたの元へ黒虎を二日前に向かわせたんだよ」
リンネの黒虎とは行き違いになってしまったようだ。あまり目立たなければ良いが、街中で見つかると大変な騒ぎになっているかもしれない。
「いや、そうじゃない。それよりもお前たちはなんで素っ裸だったんだ?」
「うん? お風呂! お風呂に入っていたの!」
「風呂?」
「魔法の練習をしてね、それでお風呂も作ったの」
「?」
何を言っているのかがさっぱり分からなかったが、奥を見ると水が溜まっている場所が見えたので、どうやらここに居る間に穴を掘ってお湯をためることにしたようだ。
「黒虎じゃなかったら、どうして? なんで、ここに来てくれたの?」
「ああ、それは・・・。ミーシャが・・・。とりあえず、出てから話そう。外にお前たちをここに閉じ込めた奴らがいる」
「うん。わかった! そいつらはぶっ飛ばさなきゃ!」
「それで、二人とも怪我は無いんだな?」
「大丈夫! でもね・・・」
「腹が減ったんだろ?」
「うん! 何でわかったの?」
「それは・・・。ちょっと待て」
俺は洞窟の出口までたどり着いて足を止めて外の様子をうかがった。
「どうしたの?」
「転がしておいた町長達が居なくなった」
ライトで地面を照らすが、手錠をかけて転がした二人は跡形もない。自分達で逃げたのか?だとすると、人間ではないはずだが、二人は生きた人間だったと思う。ならば仲間が連れ去ったとみるべきだろう。熱感知カメラを取り出して暗闇になりつつある森の中を見ていくと、50メートルほど先に赤い反応がいくつも見つかった。50人ぐらいが草や木の陰に隠れてこちらを取り囲んでいるようだ。
「よし、サリナ。憂さ晴らしにお前の魔法でぶちかましてやれ。俺がこのあたりを明るくしてやるから、相手が見えたら殺さない程度に吹き飛ばせよ」
「わかった! 任せてよ、練習の成果を見せてやる!」
横にいるサリナは少しやせたようにも見えて、大きな目がさらに大きくなった感じだ。その大きな目をキラキラさせて、ポーチから炎のロッドを取り出している。俺は照明弾を発射する迫撃砲を洞窟の入り口に置いて限りなく真上に飛ぶようにセットした。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
-カーン! -ヒューッ!
発射管の中に落とされた照明弾が甲高い音を放った後に上空へ高く舞い上がった。敵がどいう奴らか分からないが、俺達を敵に回すと無事では済まないと思い知らせてやる。
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