第64話Ⅰ-64 魔法練習&狙撃練習
■第2迷宮
同行する二人に了解を取らないまま黒の旅団を結成した俺はロッペンを先に行かせながら塔の外に出て行くことした。
不可侵条約に合意したとはいえ、何処まで信じて良いのか判らない以上は警戒を怠れない。ソ連のような国も沢山ある訳だからな。
俺とミーシャで交互に牽制しながら堀を越えて迷宮の外に出た。
迷宮を外から見ていると、昨日の夜に思いついたことを試してみたくなった。
ミーシャに白の
「あの窓みたいに開いているところに水のロッドを使って風魔法をぶつけてくれよ」
俺は3階の開口部から見えている立てかけられた木の板が外から倒せないかが気になっていたのだ。
「あそこかぁ・・・届くかなぁ? でも、やってみるね!」
「おお、強めの風でドカーンとやれ」
「これには合図はいらないの?」
「そうだな、合図は『ジェット!』でやってくれ」
「わかった! 『じぇっ、じぇっと!』ね」
サリナはいつもどおり素直に水のロッドを3階の窓へ向けて掛け声を放った。
「じぇっと!」
ロッドを持つ右手の辺りから、うなる音と共に風が走るのを感じた。
塔からドアを思いっきり叩いたような大きな音が聞こえ、その後にもう少し小さな音が響いた。
開口部からは3階の部屋の中が見えるようになっている。見事に風で立てかけた板を倒すことが出来たようだ。
「おお、凄いぞサリナ! 俺のイメージ通りだ、今度は反対側に行ってやって見よう。ミーシャ、辺りを警戒しながら付いてきてくれよ」
「わかった。背中は任せておけ」
塔の周りを半周して、今度は4階の窓を狙わせる。
さっきと同じように放たれた風は窓に当たったが板は倒れなかった。
続けてあと二回やってみたが、やはり倒れない。
サリナの風魔法がまだ弱いからなのだろうか?
「お前、水を飛ばす魔法はまだ使ってないよな?」
「水はまだやってないよ」
「じゃあ、今度は水を炎のようにあそこに飛ばしてみろよ。炎と同じように水の神と風の神に祈ってからな」
「ワテル様とウィン様だよね・・・、でも水ってどんな風に飛ぶんだろう?」
「それは、放水・・・」
確かにこいつらは消防や暴動鎮圧で放水しているところは見ていないから、水が飛ぶって言う光景が頭に浮かばないのかもしれないな・・・
俺はタブレットを取り出して、動画サイトで放水のシーンをサリナに見せてやった。
「これは何? 人がいっぱい入ってるけど・・・小さい人形の魔法?」
-そこからかい!
「人はいいから、この先から飛んでいるのが水だ、これを頭の中に焼き付けてから神様にお願いしてみろ」
俺はホースの先から勢い良く飛び出す放水を指差して、サリナに説明した。
「これが水なの? うーん、遠くまで飛べば良いッてことだよね!?」
「そうだ、合図は・・・『ジェットウォーター!』でいこう」
「じぇっとおーたー?」
-ちょっとチャウけど、まあええやろ。
しばらく、口元でぶつぶつ言っていたサリナはロッドを構えなおして目を瞑ってから、4階の窓に向けて叫んだ。
「じぇっとおーたー!」
掛け声と同時に、ロッドの先から映像どおりの水が迸った!
しかし、4階に届いた時には放水の勢いがなくなっていて、木の板を向こうに倒すことは出来そうに無かった。
「サリナ、ありがとう。もう良いよ」
「もう良いの? サリナはちゃんと出来たのかな!?」
「ああ、お前は凄いよ、ちゃんと出来ているからな」
「やったー! サトルが褒めてくれた!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねてご機嫌なサリナを見ながら、俺はサリナの魔法力が足りないのか、それとも、やり方が違うのかを悩んでいた。
§
白の刃牙団の追跡を気にして、徒歩で約3km森の中を移動してから、4輪バギーを呼び出して、北の荒地まで移動した。途中に出てくる魔獣は全てミーシャが倒してくれた。ミーシャがバギーから降りて矢を放つ度に、俺も背後を警戒していたが、一度も銃を撃つことがないまま、2時間弱で森を抜けることが出来た。
そのまま東へ1時間ほど移動してバギーを止めさせた。
キャンピングカーの中でサンドウィッチを食べてから、午後演習の事前準備としてバギーで移動しながらターゲットを1km先と50メートル横に設置しておく。
「サリナは、あの的に向かって風の魔法を何回も飛ばす練習をしてくれ。あの的なら風の強さがわかりやすいはずだ」
50メートル向こうには高速道路にあるような大型の吹流しを立ててある。
かなり強い風でなければ吹流しは伸び上がらないだろうから、力の目安になるだろう。
「あそこね!? 『じぇっと!』でいいんだよね!?」
「ああ、あの垂れている布がしっかり持ち上がるようになったら美味しいお菓子を食わせてやるからな」
「判った、頑張るから、アイスが良い!!」
「いいよ、アイスを用意してやる。俺とミーシャは遠くに向かって撃つ練習をするから、魔獣が来たら教えてくれよ」
「任せて♪ 全部できるから!」
サリナを自主練習させておいて、俺はミーシャと1km先に置いてあるターゲット代わりのマネキン人形5体を狙うために50口径の対物ライフルと三脚に乗せたフィールドスコープを用意した。
「ミーシャはここからあそこの人型をした物が見えるの?」
俺の目には1km先の荒地に立つマネキンはあるかどうかもはっきりしない。
「見えると言うのはどう言う意味なのだ?」
「そうだね、いくつ有るかはわかる?」
「もちろん、さっき置いてきたまま5つとも並んでいるぞ」
やはり、ミーシャは1kmぐらいなら裸眼でかなり細かいところまで識別できるようだ。
「俺が弾を撃った方向も判るんだよね?」
「ああ、近い距離は見えないが200メートル以上あれば、どちらに行ったかを目で追えるな」
「じゃあ、いまから撃つから弾が上下左右どっちに行ったか教えてくれるかな?」
「いいぞ、お前は一発目を右上に外すことが多いから注意しろよ」
「・・・」
今までのもしっかり見ていてくれたという事でしたか・・・
地面に引いたマットの上に
右頬に乾いた風がゆっくり当たっている。
銃口をターゲット方向に向けてからスコープの中でマネキンを探した。
「右側から狙っていくからね」
スコープの中の十字線がマネキンの左胸に重なった瞬間にトリガーを引いた。
遮るものない荒野にサプレッサーで抑え切れない低い音が響き渡る。
だが、弾はかすりもしなかった。
「少し左のだいぶ上だな」
ミーシャの指摘で弾が下に行くようにスコープを調整する。
もう一度、同じマネキンを狙って撃ったが外れた。
「今度は下だな」
今度は自分でも手前の地面に当たったのが見えた。
スコープをもう一度微調整してから撃ったがまた外れた。
「高さは良いが、左だな。もう30cm右を狙え、ここよりも向こうは風が強くなっているぞ」
ミーシャ様の仰せのままに、十字線をマネキンの右30cmにずらしてトリガーを引く。
スコープ内でマネキンが吹っ飛ぶのが見えた。
「おお、やっぱりミーシャは凄いね、風が本当に見えているんだ」
「もちろん見えている。お前の銃はあのぐらいしか横に流れないが、この風で矢を放てば200メートル先でも左に1メートル近く流れていくからな」
俺はミーシャの協力により2体のマネキンを追加で破壊した。2体とも2発目で命中したので、俺としては大満足だった。
この銃は1km用として武器の部屋においておくことにする。
さて、ここからが問題だ、ミーシャに撃たせてみようと思っているのだが・・・
「ミーシャも試しに撃ってみるか?」
「よ、良いのか!? 是非撃たせてくれ!」
前から俺が撃っている時に熱い視線を感じていた、俺も勘違い野郎にはなりたくないので、俺ではなく銃に興味があるのも判っていた。
同じ型の対物ライフルを用意して、ミーシャに伏射の姿勢を教えた。もっとも教える俺も見ようみまねでやっているだけなのだが。
「このレバーを引くと矢を
「そうか、判った。最初だけ弾を
微妙に表現が変になっているが、問題ないだろう。
「その筒の中の十字線で狙いを定めてから撃つと当たりやすくなってるから」
「これか・・・、なるほど大きく見えるのだな・・・、だが何のためなのだ?無くても見えることには変わりないだろうが?」
やはりそう来たか。何となくそんな気がしてた。裸眼で遠くまで見えて、弾の行方がみえるなら・・・スコープが無いほうが狙いやすいのかもしれない。
「外したほうが狙いやすいなら外そうか?」
「外せるのか!? ならば、是非頼みたい。この筒が邪魔になって弾が飛ぶ方向が見えないような気がするのだ」
-人類でそんなヤツはおらん!
希望通りにスコープを外してやった。
「うん、この方が良いだろう。もう、撃っても良いか?」
「良いよ、マネキンを狙って撃ってみて」
俺の返事が終らないタイミングで低い発射音が響いた。
「外れたな、右上を抜けたようだ」
全く見えないが、一人で納得したミーシャはすぐに次の発射音を響き渡らせた。
「うん、このぐらいなのだな」
俺は慌てて、フィールドスコープ越しにマネキンをみると1体しか立っていない。
「ミーシャ・・・」
呼びかけたと同時に次の発射音が聞こえて、スコープの中のマネキンが吹っ飛んだ。
うん、これはマズイかもしれないな。
俺って既に兵站係になったのかもしれない。
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