第48話Ⅰ-48 第3迷宮前夜

■第3迷宮 北の荒野 


角がある虎を退治した俺達は無事に第3迷宮と思われるところまでピックアップトラックを進めることができた。

到着したのは16時過ぎでまだ空が少し暗くなったぐらいだったが、双眼鏡で迷宮付近を偵察した俺は早々に北へ5kmほど撤退してからキャンピングカーを呼び出した。

車の周りには念のためにサリナとハンスにクレイモア地雷を12個設置させておく。


遠くに見えた第3迷宮は第1迷宮と違って塔のような高い構造物ではなかった。

見た目は・・・、200~300メートルほどの土壁だ。

回り込んでいないので、反対側がどうなっているかがはっきりしないが、見えた範囲では外周は円形で高さ3~4メートルぐらいの壁が200メートル程続いているようにしか見えない。


見える範囲に入り口のような壁の切れ目が2箇所あったが、その辺りには色んなヤツがうろうろしていた。

迷宮の近くで野営するのはリスクがあると判断して5kmほど北に移動したのだ。


双眼鏡で見えた魔獣の中にさっきの角がある虎は居なかったが、ファンタジーな魔獣が2匹みえた。

見間違いかもしれないが・・・体から炎が出ているように見えたのだ。

フォルムはライオンっぽいが、タテガミのように見えているところが大きな炎に見える。

さっき魔獣図鑑で確認したが、炎が出る魔獣は載っていなかった。

それでも、ここは異世界だ。

火を吐くドラゴンや燃えるライオンが居たとしてもおかしくないだろう。


いずれにせよ、近づいて勝負したい相手ではなかったので、明日太陽が昇ってから遠距離でチャレンジするつもりだ。

それと、入る前に迷宮全体の偵察もしておきたい。

地下へ潜る迷宮かも知れないが、入り口から見えた壁の中は明るかった。

天井が無くて入り口の奥にも同じような壁があるようだ。

壁が何重にもなっているのだろうか?


夕食はステーキを色んなソースで三人に出してやったが、明日の準備のために早めに切り上げて、一人でストレージへ入って翌日の準備をすることにした。


明日の偵察には・・・、なんといってもドローンだろう。

使ったことがないので色々調べたが、操作自体は難しく無いようだった。

送信機があるタイプなら、2~3km離れた場所からでも操作できるみたいだから、襲われない距離から迷宮の大きさ等が確認できるはずだ。

自動で高度調整とか障害物回避ができる高級ドローンに決めて、充電しながら操作方法を確認した。

マニュアル的には誰でも操作できそうだ、教えればサリナでもやれるだろう。

時間のあるとき教えてやることにしよう。

サリナもミーシャも俺の魔法(?)は不思議すぎるはずなのだが、すっかり慣れっこになって来ている。異世界人の順応度もたいしたものだ。


そういえば、ミーシャの矢も探してやらないといけなかった。

検索すると、現世ならアーチェリー系の矢が弓道よりも飛距離が出るようだ。

カーボン素材の矢に一番重たい矢じりが付いているものを何種類か選んだ。

矢じり自体は交換できるようだったので何種類か別の矢じりと、面白そうな弓もあったので、一式取り出してからストレージを出た。


ミーシャとサリナはベッドで雑誌を眺めていたが、俺が弓と矢を持ってきたのを見てミーシャが通路に立ち上がった。


「ミーシャ、この矢はどうだろう?」


「これも軽いな・・・、だが、そうか。かなりの重さが矢じりなのだな、これなら今までの矢より飛ぶかも知れんな。しかし、この矢は何の木で出来ているのだ?軽く柔らかいが弾むような感じだな」


「それは、カーボンの木だね。俺の国にしか生えてない」


炭素繊維は説明が難しいから木で勘弁してもらおう。


「矢じりはこっちの方が良いな、抜けにくくなるはずだ」


やはり、テーブルに置いていた狩猟用のかえしが付いている矢じりがあっているようだ。


「矢に付いている矢じりにはにかわや糸が付いていないが、この矢じりはどうやって取り付ければいいのだ?」


俺はネジになっている矢じりを回して付け替えてやった。


「なんと! これだけで取り付けられるのか!」


なるほど、ネジも大発見だったか。

ペットボトルの蓋と同じだが気が付かないのだろう。


「その持っている弓のようなものはなんなのだ?」


「これは、世界で一番有名なベトナム帰還兵が持っていた弓だよ」


俺はコンパウンドボウといわれる滑車が付いている弓を渡してやった。

俺自身にも構造がまったく判っていないものだが、映画の戦場では大活躍していた。


ミーシャはすぐに構えてつるを引いている。


「うむ、形は変だが短いのに力がある弓だ。なんと言っても軽いのが良いな」


そうなのだ、ミーシャが持っている弓は持たせてもらったが大きくて重い。

いつも背中に背負える革帯へ矢筒と一緒に弓を掛けているが、狭い通路では邪魔になっていた。


「これも貸して貰えるのか?」


「うん、使えるならそれはミーシャの弓だね。弓の強さは何種類かあるから、加減が合わないようだったら言ってよ、別の弓を出すから」


「そうか、そうなのだな。それは、とても楽しみだ。出来れば今から使っても良いだろうか?」


「流石に外は真っ暗だからダメだよ、明日まで待ってもらわないと」


「そうだな、うむ、明日の朝まで待つことにしよう」


子供がサッカーボールを貰って夜の公園に行きたがっているかのようだ。

ミーシャも大人びているかと思えば、急に子供っぽいところを出してくる。


今の弓とどちらを使うかは明日、本人が選べばよいだろう。

矢はミーシャが選んだ物に狩猟用の矢じりが付いたタイプを、後で武器の部屋に並べておこう。


弾薬類は昨日準備済みだから、これで一通り用意は出来ただろう。

明日は夜明け前に起きて、まずは偵察からだ。

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