第49話Ⅰ-49 第3迷宮の全容

■第3迷宮付近


夜明け前に軽い朝食を済ませた俺達は日の出と共に動き出した。

迷宮まで1kmぐらいの場所までピックアップトラックを移動させると、サリナとハンスに付近の警戒をさせてから、俺はドローンのセットアップを始めた。

本体とリモコンの電源ボタンを長押しすると、リモコンに標準装備されている5.5インチの液晶ディスプレイにドローンにぶら下がっているカメラの映像が映し出された。


GPSが見つからないというアラートが出ていたが無視して、リモコンのレバーで飛び立つように操作する。

ドローンの上部についている4つのプロペラがモーター音と共にスムーズに回り、あっという間に宙に浮かぶ。姿勢の制御はしてくれるが、GPSが無いのでレバーを触らないと風で少し流れていくようだ。

俺は50メートルぐらいの高さまで左のスティックで上昇させてから、迷宮に向かってドローンを移動させ始めた。


リモコンのディスプレイには迷宮の壁が写ってくる。壁自体は分厚いようで1メートルぐらいの厚みがありそうだった。


上から迷宮を見て、俺はすぐに気づいた。

間違いない、この迷宮は人為的に作られたものだ。


壁自体は土の塊で人工的な直線は殆ど無いが上から見るとはっきりわかる。

迷宮全体が円形の迷路になっていたのだ。

上空から見たカメラの映像で屋根の無い通路が行き止まりになっていたり、遠回りさせるための分岐点が何箇所も作られていることが手に取るようにわかる。

通路の一部には屋根が掛かっていて、なにか仕掛けがあるのかもしれないが、ほとんどの通路には天井が無い。

そして、中心部がゴールに思える、中心には円形の建物(?)がある。

誰かが、おそらく勇者が迷路を作ってその中に魔法武具を隠したと言うことなのだろう。

しかし、これだけの迷路を重機もなしにどうやって作ったのか?


・・・魔法か! おそらく土の魔法と言うやつだ。


どんな魔法かわからないが名前からしてそれ以外考えられない。

そうすると、最初の迷宮もそうだったのか?

どちらにせよ、直径300メートル程の巨大迷路をつくったのだから魔法でも凄いパワーが必要だったはずだ。


迷宮を作った方法を考えながらディスプレイ越しにドローンを操作していると、ドローンは5分ほどで迷宮の反対側まで飛んでいった。

飛行可能時間は30分なので、右回りにもう一度一周させて迷宮全体を録画した。迷路全体が画面で確認できたので、タッチパネルのHOMEボタンを押す。これでリモコンのあるところまで戻ってくるらしい。


録画を見てから確認するが、入り口は全部で4ヶ所あったようだ。

最短距離の入り口を見つけることにしよう。

もし、上から見ることが出来なければかなり苦戦していただろう。

迷宮の中には虫の代わりに大きめ魔獣がうようよしている、昨日見つけた炎のライオンも3匹ぐらい居たようだ。

迷路は分岐点や死角になる場所が多く、距離をとって戦うのが難しい可能性が高い。

見えない場所では手榴弾を投げまくって、曲がり角ごとにふっ飛ばせば安全が確保できるだろう。


基本プランを頭でまとめて、戻って来たドローンを着地させる。

機体からSDカードを抜いてストレージに入った。


迷路を攻略するために空撮した画像を何枚もプリントアウトして並べた。

紙に線を引けば道筋がわかりやすくなると思ったからだ。


中心部をゴールだと信じて赤いペンで逆引きしていく・・・、通路が2箇所見えなくなっているが、その部分だけがトンネルのようになっているなら、反対側にある入り口が最短のようだ。

少なくともここから一番近い入り口だと右に行っても、左に行っても行き止まりになっている。


攻略ルートを決定してストレージから出て行くと、ミーシャが巨大な熊のぬいぐるみを抱えて戻って来た。

ハーフエルフが体より大きいぬいぐるみを抱える姿も美しい、いや、可愛いと言うべきか。

ぬいぐるみは的になる木が荒地にはなかったので俺が与えたものだ。


「サトルよ。この弓と矢は良いぞ、距離は飛ばないが近い距離ならこの弓と矢は精度が高い」


少し興奮気味に喜びを伝えてくれた。


「気に入ってくれたなら良かった。じゃあ、今日はそっちの弓を使うの?だったら、もともとの弓は預かっておこうか?」


「あ、そうだな。うん、だが、この弓も大事なものなので・・・消えてしまうとだな」


どうやら、弓が見えないストレージに行くのが少し怖いようだ。


「預かるだけだから、間違いなく後で返すよ。どうするかはミーシャ次第だけど」


「もちろん私はサトルを信頼している。うん、だから元の弓を預かっていて欲しい。それと、今日は私にも戦わせて欲しいのだ。前回も何も出来ていないし、せっかく新しい弓を手に入れたのだから、サトルだけでなく私にも撃たせてほしいぞ」


なるほど、新しいおもちゃを試してみたくて仕方が無いようだ。それに、戦士として前回は何もしていないからフラストレーションもあるのかもしれない。


だったら、いっそフォーメーションを変えてミーシャに先陣を切ってもらうか?

迷路の中は長い射程の取れる場所はほとんど無さそうだから、丁度良いだろう。

おれが後ろから援護するっていうので行けば良いかもしれないな・・・


「じゃあ、ミーシャが先頭で矢を撃ちまくるっていうので良いかな?矢は200本までは出せるから、ばんばん打ってよ」


昨日の晩、ベトナム帰還兵のDVDを見ながら矢じりを交換しておいて良かった。


「200本! そんなに沢山あるのか? ならば、是非私に先陣を切らせてくれ。戦士として必ず成果を挙げてみせることを誓おう!」


戦士の決意表明みたいになったが、ハーフエルフの戦いが近くで見られるなら最高だ。


「それと、この熊の人形なのだが・・・、これも貰っても良いのか?」


「サリナも欲しい!」


なんだこいつらは?

二人が幼女化して、俺が父親になった気分がしてきた。


でも、美少女たちが喜ぶならそれでも良いか。

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