第12話Ⅰ-12 油断
■どこかの森の中
良い匂いになった美少女を前にして俺は夕食の用意を始めた。
今日はトンカツ弁当を出してみる。
某有名チェーン店のお持ち帰り用をタブレットで特定したものだ。
弁当とは別に袋入りの千切りキャベツを皿に大量に盛り、トンカツの味付けもパキスタン産岩塩のみにしてみる。
塩だけにしたのはその方がソースより匂わない気がしたからだ。
サリナが食べるか判らなかったが弁当だからご飯もある。
「サトルさん、これはなんでしょうか? イガイガしてますけど、食べても血が出ませんか?」
「大丈夫、口に合わなければ換えてあげるけど、美味しい肉の食べ方の一つだから」
サリナはトンカツの一片をフォークで突き刺して、しばらく眺めていたが、目を瞑って口の中に投入した。
ゆっくり噛み始めて・・・目を見開いた。
「美味しいです! 噛んだらお肉の味が中から染み出してきます! ザラッとするのも最初だけで直ぐ柔らかくなります! これは何の魔法ですか?」
-うん、それはサラダ油様とパン粉様の力やね。
「ご飯と一緒に食べると美味しいよ、飽きてきたらキャベツも食べると口の中がリセットされるしね」
「リセット?」
「ああ、もう一度美味しくなるって意味だよ」
頷いたサリナは俺を真似してトンカツ→ご飯→キャベツ→トンカツと素直に試し始めた。
納得したようだ、声を出さずに黙々と食べている。
「もう一つ食べる?」
「良いんですか!?」
冗談で聞いたんだが・・・、もう一つ同じ弁当をストレージから呼び出してやった。
二人が食べ終わった時に周りは真っ暗になっていた、森の中で俺達だけがランタンで浮かび上がっていた。
そろそろ片付けて・・・、そう思った瞬間に木立の奥から黒い影が飛び出した!
「キャァッ!」
サリナの悲鳴を無視して俺は椅子を蹴ってストレージに飛び込んだ!
さっきまで俺が座っていた椅子と折りたたみテーブルを蹴散らして何かが通り過ぎる。
チラッと見たところマッドボアだろう。
サリナは椅子ごと後ろに倒れていたがケガはなさそうだ。
MP7のレバーを操作して発射可能な状態でストレージを出る。
マッドボア消えた方向から土を蹴る音が聞こえる。
-落ち着け、俺。
肩に銃床をあてて音のする方向へ銃口を向ける。
5メートル向こうの木の間から出てきた!
レーザーサイトのドットを頼りにトリガーを絞り込む。
-パラッ!ラッ!ラッ-ブグォッ-
-パラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!ラッ!・・・・-
顔の辺りに何発か命中したが、走る勢いは止まらない。
それでも、足取りがおかしくなって俺の4メートルほど横を走り抜けて、立ち木に激突した。
横倒しになった後も立ち上がろうとしているが、かなりふらついていた。
俺はテイザー銃(高圧電流銃)を横っ腹に打ち込んだ。
マッドボアは硬直したまま、また横倒しになった。
MP7で狙いをつけたまま慎重に近づく。
尻をつついても動かないが痙攣しているだけで生きている。
俺の射撃は頭部には直撃せず、肩の辺りからたくさん血が出ている。
「じゃあ、やろうか。サリナ」
涙ぐんでいるサリナを無理やり呼びつけて治療魔法をかけさせた。
30秒ぐらいで起き上がろうとする。
テイザー銃で撃ってから、グロックで尻を撃つ・・・また治療をする。
今日は30セット繰り返した。
「どうなの、少しは上達してるの?」
「見て判らないんですか?凄いですよ? 凄く治療できているじゃないですか!」
相変らず凄い以外のモノサシがない。
「どのぐらいの怪我なら治せるの?」
「もう少しで、ちぎれた指ぐらいなら引っ付くと思います」
-マジッすか!?
「それは確かに凄いね」
「だから言ってるじゃないですか、凄いって!」
「だけど、どうやってそれがわかるの?」
「治療魔法ができるようになると、治療する体の中のイメージが浮かんできます。今だったら、昨日は見えなかった切り裂かれた肉が繋がるイメージがしっかりと見えていますから」
そう言うもんなのか?
いずれにせよ、本人に手応えがあるのは良いことだ。
しかし油断していた。
昨日よりも魔物が多いとわかっていたはずなのに、外で飯を食っている場合じゃなかったのだろう。
俺はストレージに入ればいいが、テントではサリナを全く守れない・・・。
とりあえず散らかっているものを全てストレージに収納して、サリナにライト付のヘルメットをかぶせた。
俺はフラッシュライトをMP7に装着して、警戒しながら森の外へ出ることにした。
無事に森を出た俺は平な場所を見付けてストレージのタブレットでキャンピングカーを検索して呼び出した。
ドイツ製の高級車らしい、ベッド、エアコン、シャワールーム、トイレ、キッチン、何でも付いている。買うと数千万円するが、俺はレンタルショップから車両の情報を引っ張っていた。
キャンピングカーを出したのはここでサリナに寝てもらおうと思ったからだが、さっきの着替えとシャワーもこの中でよかったんじゃないか?
なかなか、最初から最適な答えにはたどり着かないものだ。
決して、びしょ濡れプレーを楽しみたかった訳では無い・・・
一人で言い訳しておく。
この中ならマッドボアや狼ぐらいなら大丈夫だろう。
俺は運転できないから単なる箱だけど快適に過ごせそうだ。
ドアを開けて中に乗り込む、キーを回して・・・エンジンが掛からない?
そうか、ブレーキ踏まなきゃ、父親が言っていたことを思い出した。
ブレーキを踏んでキーを回すと、セルが回る音に続いて車が震えだした。
車内のあちこちを触って電気をつけていく。
結構明るくなった。
サリナはキャンピングカーの外から俺の様子を見ている。
「サリナも入っておいでよ」
「こ、このおおきな・・変な箱はどこから出てきたんですか・・・」
驚きよりも恐怖が勝っているようだ。
「んん? だから俺の魔法」
びくつきながら入ってきたサリナをソファに座らせてやる。
クローゼットを開けると布団セットが入っているのでベッドに敷いてやった。
「じゃあ、サリナは一人でそこで寝てよ。水も2本置いて置くから好きに飲んで」
「サトルさんは?」
「俺は自分の部屋で寝るから」
「?」
ストレージの中に入るとサリナが
入り口を少し開けてあるので、向こうの声は丸聞こえだが、こちらの姿は見えないはずだ。
あれ? と言うことは、堂々と覗けると言うことなのか?
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