第330話Ⅱ-169 神殿突入4

■ネフロス神殿


 転移魔法で移転した先は薄らとした煙と鼻を突く異臭に包まれた円形の部屋だった。盾で作った円陣を攻撃してくる相手はいないし、部屋の中に他の人間もいなかった。部屋には扉が3か所あったが、1枚の扉は部屋の内側に倒れていて異臭と煙が入ってきている。


 -俺がドローンを爆破した部屋かな?


「閉じている扉の先には何があるんだ?」

「左は居住区とか仕事をするための部屋、右側は食堂と倉庫がある」

「人は居るのか?」

「わからないが、ほとんどは祈りの間にいるはずだ」


 連れてきた神官は壊れた扉を指さしていた。


 やはり祈りの間は俺が爆弾ドローンを突入させた部屋だろう。念のために残りの二部屋の扉の前には大型の耐火金庫を積み上げて中に入れないようにしてから、開いた扉の側面に移動して祈りの間を覗いた。


 ―ふむ。やりすぎたか?


 部屋の中で動いてる人間も何人かいたが、床に突っ伏している人間が殆どだった。動いている人間―3人が傷ついた人間を部屋の片隅へ集めようとしているようだ。


「神官長は死人しびとなのか?どいつだ?」


 俺は重要な情報を確認し忘れていたことに気が付いた。この祈りの間の状況だと、生きている人間は無事で済まなかったかもしれないが・・・。


「神官長は死人ではない、だが死ぬことも無い」


 ―どこかで聞いたような・・・。


「不老不死という事か? 巫女みこと同じなのか?」

「そうだが!? 巫女様を知っているのか?」

「ああ・・・」


 ムーアで捕えた黒い死人達の頭が自分の妹-巫女は不老不死だと言っていた。


「不老不死と死人はどう違うんだ?どちらも死なないんじゃないのか?」

「・・・死人は一度死んだ人間を生き返らせている。感情や思考もあるし、生きている人間と同じ部分も多いが、子供を作ることは出来ない。不老不死は不死と言っても年老いたり、病気で死ぬことは無いし、子供を作ることも出来る」

「病気では・・・そうなのか? じゃあ、神官長の首を刎ねれば死ぬのか?」

「そんな恐ろしいことを!? だが、傷つけられてもすぐに怪我は治るし、血もほとんど出ない」


 -生者だが、再生能力が高い? それとも他に何か・・・。


「で、どいつなんだ?」

「・・・壁にもたれて坐っている方がそうだ」

「あの赤い法衣を着ている奴か?」

「そうだ・・・」

 

 連れてきた男が教えてくれたのは右側に在る壁に背中をつけて座っている神官で、法衣の襟が赤くなっているのが他の魔法士と異なっていた。ケガをしているようでも無かったが、どこか痛みを我慢しているような表情で周りにいる魔法士に何か指示をしていた。


「ミーシャ、サリナ、あの赤い服の男以外は全員倒したい。俺が部屋に入ったら容赦なくやってくれ。鉱夫の皆さんはここでこの男を見張りながらメイを守ってください」

「わかった。私があの赤い男の周りを片付ける、サリナは部屋の左側に居る男達を頼む」

「うん!任せて!」


 ミーシャが小声でサリナと役割分担をして銃を構え直したのを確認して、俺が先頭に部屋へ踏み込んだ。部屋に入ると異臭がさらに強くなり、ゴーグル越しでも目がチクチクとしたが痛みを無視してアサルトライフルのレーザーポインタを赤い法衣の下に向けて、3発トリガーを引いた。7.62㎜弾が床に伸ばした足を正確にとらえて太腿が揺れた。だが、神官長は激痛に顔を歪めることも無く、驚いた表情で俺達を見て立ち上がろうとしている。


 神官長の周りにいた魔法士や神官たちはミーシャが正確に眉間を撃ち抜いて、糸が切れた人形のようにその場に崩れて行く。背後ではサリナがサブマシンガンを撃ちまくっている銃声も聞えてきた。


 神官長は持たれかかっていた壁に手をついて、立ち上がろうと・・・違う! 壁の中に入ろうとしてた! 右手の肘ぐらいまでが壁の中に吸い込まれ、立ち上がるのではなく這うようにして壁の奥へと進もうとしていた。全力でダッシュして距離を詰めたが、思ったより早く壁の中に入って、あっという間に腰から先が見えなくなっている。


 -間に合わない! こいつを逃すと、ドリーミアに・・・


 残り5メートルで既に足しか見えなくなって、俺が諦めそうになったところで俺の横を風が吹きぬけた。


 -シルバーだ!


 シルバーは一蹴りで神官長の足を咥えるところまで飛んで、壁の中に入りかけていた神官長を引き摺り出してくれた。そのまま俺の前までズルズルと引き摺って来る。


「シルバー!ありがとう、そのまま咥えておいてくれ!」


 シルバーは尻尾を振って返事をしてくれたので、俺はミーシャ達と一緒に部屋に残って動いていた魔法士達の殲滅を始めた。一通り銃弾で相手を動けないようにしてから、死人しびとは全てストレージに、血を流している奴は両足を撃ち抜いて動けなくして置いた。


 シルバーの所へ戻ると、神官長は抵抗することも無く足を噛まれたまま横たわっていた。


「さて、お前が神官長・・・、魔法で俺達をドリーミアから連れて来たんだな?」

「・・・」


ダンマリか、どうやって口を割らせて、俺達を戻させるか・・・。こいつの力が無ければ戻れないのは間違いない・・・。

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