第195話Ⅱ-34 野戦 6

■森の国 西の砦 近郊の森


 この国とは違うところ? 何かとんでもない事を言い始めたレントンの言う場所は違う国?あるいは違う世界・・・、まさか俺が居た地球のような異世界を差しているのだろうか?


「違うところと言うのは具体的に何処なんだ? そこがどんな場所か知っているのか?」

「それは知らない。だが、この国では見た事の無い物をたまに首領の使いが持ってくるが、それは洞窟の向こうから持って来ていると・・・、お前が持って来ているものとは全然違うが、お前が持って来ているのも、この国とは違うところからなのだろう?」

「俺の事はどうでも良いんだよ。見た事の無い物っていうのは具体的に何だったんだ?」


 レントンの言う見た事が無い物が俺の銃のように圧倒的な武力を持つものなら、今まで以上に注意が必要だ。


「俺が見せてもらったのは、方角を指し示す道具と見たことも無い大きさの白い紙に書かれたこの国の地図、それに遠くが見える筒だ。森の国とエルフの砦を攻撃する前に見せてもらったんだ。それに、燃える砂を大量に渡された」


 燃える砂? 火薬か何かだろうか? それ以外はコンパス、地図、望遠鏡? そのぐらいなら態勢に影響ないが、他に危険な物が無い保証も無いな。


「首領はそれを使ってお前に指示をしたのか?具体的に何を指示したんだ?」

「それは・・・」

「どうした? いまさら、何を隠すことがあるんだ?」


 レントンはミーシャの方をちらりと見てから話し始めた。


「西の砦を攻略した後は、傭兵は本隊から離れてエルフの里を襲えと言われていた。エルフを根絶やしにしろと・・・。風上で燃える砂を大量に使って森を焼き払いながら、風下に逃げてきたエルフを皆殺し・・・」

「何!? なんで、お前達がエルフを襲う必要があるんだ?」

「エルフは長寿の民・・・生の象徴、死を崇拝するネフロスの教えとは対立する存在だと・・・、そういう風に聞いた」


 さっぱりわからん。自分達が死の神を崇拝するからと言って長寿の種族を排除する?


「その指示は結局どうなったんだ? お前を捕らえたから、立ち消えになったのか?」

「それは、将軍に聞いてもらった方が良いだろう」

「将軍? そうか、お前は戦の間は暗闇の中だったからな。将軍、レントンが言っていたことをお前は知っていたのか?」

「・・・、詳しいこと判らんが、砦攻略の後は本隊だけがクラウスに向かって、傭兵がエルフの里に向かう事にしていた。だが、わが王からはエルフは捕らえるようにと命を受けている。むろん、抵抗するものはその限りでは無かったが、いずれにせよ、この戦況ではそれどころでは無くなった」

「燃える砂はどうなったんだ?」

「食料などと一緒に後続部隊が運んでいたはずだが、兵站の馬車はお前達がどこかへやったんだろう」


 何処かへ? サリナの方を見ると目をそらしたから、風の魔法で吹き飛ばしたのだろう。まあ、褒めてやるところだが調子に乗るから一旦放置だな。

 だが、エルフを排除しようとしたのはネフロス-黒い死人達の考えという事は間違いないようだ。しかし、やはり長寿と言うだけでエルフを殲滅しようとするのだろうか?他に何か理由があるのでは?


「ミーシャ、エルフは黒い死人達に恨みを買ったり、過去に諍いを起こしたことがあるのか?」

「いや、私が知っている範囲では無いな。だが、われらの一族と敵対する種族が古から居るとは聞いている。ひょっとするとそれと関係があるかもしれないが、詳しいことは長老しか判らないな」


 敵対する種族? 一体何だろう? せっかく戦が終わったと言うのに、なんだか全然安心できない。だが、今まで以上にネフロスと黒い死人達への警戒が必要なのは間違いない。レントンからいろいろ聞けたが、核心部分は謎のままだ。やはり、ゲルドの持っている情報が必要だ。だが、話せるようになったとして、こいつは素直に情報を提供するだろうか?


 俺は小さめの檻に入れたゲルドの頭部を見つめた。ゲルドも気が付いたようで、口まで土に埋まった状態で目線だけを俺に合わせてきた。


「どうだ? そろそろ話せるようになったか?」


 俺はそう言って、檻を持ち上げて頭部の修復状態を確認するために中の土を地面に落とした。驚いたことに、あごの下あたりで切れていた首が伸びて、鎖骨ぐらいまでの胴体が作られていた。


「凄いな! やはり、土で再生できるんだな!?そろそろ、話せるんじゃないか?」

「お前はいったい何者なのだ?」


 ゲルドは表情を変えずに濁った声で俺に質問を返してきた。


「おお! もう、話せるんだな? 俺は通りすがりの者なんだけど、火の国の王とかお前達黒い死人達が悪いことをするのを見逃せなくてね。ついつい、成り行きで戦う事になったんだよ。それで、お前はゲルド-ショーイの両親を殺した奴で間違いないんだよな?ネフロスの司祭でもある?」

「そうだ、その通りだ。ショーイの両親については、残念には思っている。だが、信じる神が違う故に仕方が無かったのだよ」


 ゲルドは淡々と話している。今のところ何かを隠す必要もないと考えているようだ。ショーイは黙っていられずに頭部の入った檻の前に乗り出してきた。


「仕方がない!? お前は俺の父と教会で一緒にいたんだろ? アシーネ神を信じていたんじゃないのか?」

「それは、勇者の情報を得るために教会に入っていただけだ。私はお前の父親が生まれる前からネフロスの神に身を捧げている」

「なぜ、勇者の情報を得る必要があったんだ?それに、俺の両親をなぜ殺す必要があったんだ?」

「それは・・・」


「気をつけろ!何かが来るぞ!」


 突然、ミーシャが叫んで森の上に向けてアサルトライフルを構えた。俺は屈みこみながら同じようにホルスターに入れていたサブマシンガンを上空に向けて、ミーシャの銃口が狙っている方向を見た。


 最初は黒い点にしか見えなかったそれはみるみる大きくなって、俺達のいる場所を暗い影が多い始めた。


 -雲? 雷雲?  いや、何かが・・・


 晴れていたはずの空に突然黒い雲が沸き起こり、雲からは稲光と共に何かが出て来ようとしていた。

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