第51話Ⅰ-51 エルフの戦士
■第3迷宮
ミーシャが矢を放った入り口からは3匹の虎が飛び出してきていた。
先頭のヤツには最初の矢が刺さったが、後から2匹続いている。
俺はアサルトライフルの銃口を後のヤツに向けた。
2匹目にはミーシャの矢と俺の5.56mm弾がほぼ同時に当たった。
最後の・・・ヤツには既に矢が刺さっていた。
マジッすか、ミーシャさん!
俺はアサルトライフルの銃口を地面に向けて呆然とミーシャを見つめた。
アサルトライフルを構えた時は俺の斜め前にミーシャが居たので、その動きは視界に入っていた。
流れるように矢筒から矢を取り出すと、一瞬で弓を引いて狙いを定める間も無く矢を放っていった。
矢が放たれた後も無駄は一切無い、次の矢が自動的に弓にセットされるかのように矢筒から取り出した矢が弓にあてがわれていくのだ。
俺が銃を構えて撃つ間に二本の矢を放っている・・・、エルフは敵に出来ないな。
それに、命中精度も半端無い。
入り口までは30メートルぐらいでかなり近いところまで虎が来ていたとはいえ、矢は全て目を射抜いていた。
俺の銃も当たってはいるが連射の力だ。ピンポイントを狙うなら、静止してスコープやドットサイトを使わないと50メートルでも5cmの円には絶対当たらない。
当たらないことには自信がある。
「ミーシャは矢を射るときに狙いは定めないの?」
「なにを馬鹿なことを、狙わずに当たるわけがないだろうが」
「だけど、射る時にほとんど静止しないよね」
「静止? 弓をひいて止まると言う意味か?そんなことをしていては獣に襲われて死んでしまうだろうが。矢は放つ位置に引いて、すぐに放つ。これは基本中の基本だ、エルフなら子供の頃に覚えるものだ」
-いや、それはエルフさんの世界ですやん。
「全部目を射抜いているけど、どのぐらいの距離ならそのぐらい正確なの?」
「止まって矢を放つなら100メートル内の距離は絶対大丈夫だろう。もらった矢は正確性が高いが、威力は弱いから骨は貫けん。確実に目を抜かねば死を招くからな」
-あかん、俺の銃では目なんて当たりませんって。
「でも、矢は風の影響とかも受けるんでしょ?」
「風か、風は見えるだろうが?我らエルフは風の精霊の加護を受ける民なのだから」
当たり前のように、とんでもないことを言い続けている。
しかし、これは前衛として期待できそうだ。
エルフの大活躍をカメラに収める準備をしておくべきだった。
§
迷宮の入り口から入る前に、左右に1個ずつ手榴弾を投げ込んだ。
基本的には見えない場所は爆破してから進む方針で行けば、死角から襲われる心配は無いはずだ。
ミーシャは爆発の後にすぐに弓を持って入り口から突入した。
まだ砂埃が舞い上がっているが、右方向に矢継ぎ早に矢を3本放った。
俺達が続くと既に3匹の虎-黄色2、黒1-が横たわっていた。
いずれも、頭部に矢が刺さっている。
反対の左方向には敵は見当たらない。
ミーシャは次の分かれ道があるところまで右側の壁を背にしてどんどん進んでいく、俺は後方を見ながら横歩きで遅れ無い様に付いて行った。
その後も分かれ道の度に手榴弾、獣を見つける度にミーシャの矢、この繰り返しでほぼ安全に迷路の区画を内側に向かって進んで行けた。
俺は一度だけ、後ろから来た虎に向けてアサルトライフルを連射したが、分岐点の手榴弾効果なのか背後を突かれる事はその一度しか無かった。
だが、上空から見た通路に天井のある区画で、突入したミーシャがバックステップで戻って来た。
今までなら、手榴弾を投げた直後に突入して魔獣を見た瞬間に矢を放っていたのに、見た瞬間に戻ってきたのだ。
ミーシャに手招きされて見た先には、またヤツが居た。
燃えるライオン様だ。
俺たちが居る場所からだと右に50メートルぐらい先に天井のある通路が見えているが、その手前でまた座っている。
あまり攻撃的でないのかもしれないが油断は出来ない。
ミーシャの矢は当たっても全く歯が立たないだろう。
俺の対物ライフルなら粉砕できるかもしれなかったが、他に試してみたいことがあった。
「サリナ、お前ここからでもあの燃えているヤツに水をぶつけられるか?」
サリナを呼んで壁の向こうに見えるライオンを指差してみる。
「あそこ? うーん、やってみないとわかんない」
-そりゃぁそうだ
「とりあえず、ダメモトでやってみてくれ」
「ダメモト?」
「ああ、失敗しても構わないから思いっきり水をぶつけてくれ」
「わかった!」
すぐに壁の横からサリナが手を伸ばした、だがヤツも気づいたようだ、立ち上がって体中に炎をまとって、こちらへ走り出そうとしている。
「オォッ!」
思わず声が漏れた、立ち上がったライオンより大きな水球がヤツにぶつかり巨大な水蒸気が爆音と共に舞い上がったからだ。
俺はアサルトライフルをライオンが居た辺りに向けたまま、水蒸気が収まるのを待っていた。今のところライオンがこっちに突っ込んでくる気配は無い。
湯気の向こうから徐々に見えてきたのは、さっきと同じ黒い土となったライオンのゴーレムだった。
近寄って確認すると、額には先ほどのゴーレムと同じ赤い石が埋まっている。
この石がゴーレムを動かしているに違いないと思う。
しかし、炎を消せば動きは完全に止まるなら、サリナには今後も頑張ってもらおう。
魔法も少しは役に立つではないか。
石はストレージに入れて屋根のある通路へむかった。
しかし、通路は俺の予定では通り抜けるだけだと勝手に思い込んでいたのだが、そうではなかった。
階段状に地下へ降りるようになっているのだ。
それでも降りた先はまた上るようになっていたから、昇れば迷路攻略のルートが変わるわけではない。
だが、地下に行かせると言うことは仕掛けがありそうだ。
俺は全員に装備しているライトのスイッチを入れるように指示をした。
暗いところは嫌いだが、ここまでくれば仕方が無いだろう。
潜ってみることにしよう。
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