第50話Ⅰ-50 燃えるライオン

■第3迷宮


ピックアップトラックで最短距離の入り口へ回ると、残念ながらそこには門番が居た。

例の燃えるライオンだ。

あまり動かないヤツのようで、百貨店前においてある置物のように座っている。

入り口の中には、黄色と黒の虎もチラチラ見えるが外で偉そうにしているのはこいつだけだ。


双眼鏡でサイズを推計すると全長4メートルぐらいはある。

ライオンにしてはでかすぎるが、この世界ではいつものことだ。


遠距離なら対物ライフルの出番だろう、500メートルの地点で車を停めて50口径のライフルをストレージから取り出した。


マットの上で伏射の姿勢をとってからボルトレバーを引く。

スコープの中で、オスワリをしているやつを探して・・・見つけた!


十字線が体の中心部にあった瞬間にトリガーを引く。


サプレッサーでは押さえきれない12.7mmという巨大な弾丸の炸裂音が荒野に響き渡った・・・が、外れた。


スコープはちょうど500メートルの位置で調整しているのだが、まだまだ修行が足りない。

ライオンはこちらに気づいたようだ、立ち上がって・・・大きくなった!?

スコープで確認すると、炎がタテガミだけじゃなく全身から噴出しているようだ。


-落ち着け俺。


それでも、こちらへ走ってくる様子が無いので、もう一度スコープの十字線をさっきより少し下に合わせてトリガーを引いた・・・OK! 命中だ横倒しになって炎が小さくなった!

だが・・・おかしい、最初と同じようにタテガミのあたりだけが燃えているようだ。

倒れても火が消えていない、絶命していないのだろうか?


銃をストレージに戻して、ピックアップトラックを迷宮100メートル地点まで進めて4人とも降りた。


全員既にフル装備になっている。

ヘルメット、ライト、サングラス、フェイスマスク、イヤーマフ、防刃ベスト、タクティカルベストを服の上から装着した。


サリナとハンスにはポリカーポネート素材のライオットシールドを持たせた。

サリナは右手にロッドを、左手に透明のシールドを持っていて、中途半端なファンタジー感が更に酷くなった。


ミーシャは矢筒を背負い、弓に矢を当てて既に撃てる体勢をとっていた。

俺はいつものアサルトライフル、サブマシンガン、ハンドガンを装備して、手榴弾等はベストに沢山入っている。

これなら行けそうだ。


ミーシャを先頭に、サリナ、ハンス、俺の順番でゆっくりと燃えるライオンに近づいていく。


ミーシャは50メートルぐらいの距離から矢をライオンに放った。

吸い込まれるように、頭と思われる場所へ矢が刺さる。

しかし、まだ燃えているせいでカーボン製の矢はすぐに変形していった。


それでも、矢が刺さってもピクリともしないという事は、死んでいるのは間違いないのだろう。


-死んでも燃え続ける?


10メートルまで近寄って様子を見たが、俺の12.7mm弾は胴体を前後に引き裂いていた。

置き去りになった後半身(?)は火が消えいて、灰のように黒くなっている。


ライオンの頭部を含む前半身(?)はこの位置から見るとタテガミだけでなく、全身が薄い炎で包まれていることがわかった。


アサルトライフルの弾丸をフルオートで叩き込んでみても火は消えない。


-気にする必要は無いのか?


だが、やはり気になる。


「サリナ、この火の上に水を掛けてみてよ」


「水? できるかな? 浮かしたことしかないから・・・」


「だったら、神様に大きな水球をライオンと同じ場所に出してくださいってお願いしてみろよ」


「同じ場所・・・、わかった! やってみる!」


サリナは少し目を瞑ってから右手をライオンに向けて伸ばした・・・


サリナが炎と重なる場所に水球を出した途端に、熱したフライパンに水を落としたような音がはじけて、大きな水蒸気の塊が発生した!

俺の顔にも水蒸気の熱風が襲いかかる!


「ウワァ!」「アッ!」「熱ッ!」


思わず後ろを向いて顔をそらしたが、熱風はすぐに収まり、水蒸気の湯気も風で流されていった。

高温の物体に水を掛けたことで一気に爆ぜたのだろう。

だが、効果はあった。ライオンの頭から炎が消えている。


しかし・・・、黒い虎のような形のこいつは炭に、いや土のようになっている。

ストレージから木刀を取り出して首の辺りを突くとボロボロと崩れていく。

生き物ではなかったようだ。


「サトル! ここ! ここ!」


ライオンの頭だった場所を見ていたサリナが興奮して指差している。


その場所を見るとライオンの額に赤いものが光っていた。

コンバットナイフで額の横を突き刺してえぐると、ボロボロと黒い土が落ちて行き、最後に赤い石が土と一緒に地面に落ちた。


石を手にとってみたが、縦横2cmぐらいの透明感がない真っ赤な石だ。

赤い石も気になるが俺がもっと気になったのはボロボロと落ちる土の方だ。

こいつは土で出来ていたのだ、だとすればゴーレムの一種になる。

図鑑には命のない魔獣は載って無かったが、目の前に居る以上は文句を言っても仕方が無い。

戦う上ではかなり厄介だ、口径の小さい銃や弓矢では命のないヤツは動きを止められないだろう。


「ハンスさん、この石ですけど何かわかりますか?」


赤い石をハンスに渡すと俺と同じように光に透かしてみながら首をかしげている。


「聖教石・・・、ではないですね。ひょっとすると魔法石かもしれませんが、見たことが無いのでなんとも言えません」


「そうですか、必要でしたらお渡ししますので」


「いえ、これはサトル殿がお持ちください。その方が無くならないでしょう」


ハンスは俺と俺のストレージのことを信頼しているようだ。

仕組みは判らなくても、実績がそうさせているのだろう。

ストレージの金貨等を入れる手提げ金庫の中で赤い石を一個お預かりすることにした。


「それじゃぁ、いよいよ中に入りますか」


俺はミーシャに笑顔を向けて、迷宮の入り口へ歩き出そうとした。

だが、美しいハーフエルフは俺の目の前でいきなり弓を引いて、迷宮の入り口へ矢を放ったのだ。

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