第52話Ⅰ-52 第3迷宮の地下

■第3迷宮内部


屋根のある通路になっている箇所は下りる階段がこちらと向こう側から繋がっている。

一段が50cmぐらいあるが、30段以上あるから15メートルは地下に下りることになる。


上から見える範囲に魔獣は居なかったが、下りたところから右に通路が延びていることがわかった。


「サリナ、あの燃えている魔獣を見つけたら、すぐに水をぶつけてくれ。それから、地下で暗くなったら、炎を何個か出して明るくなるようにしておいて」


「燃えてるのは水、暗くなったら炎、・・・わかった! ちゃんとできる!」


サリナは自分の魔法が役に立つことがわかって、テンションMAXになっている。

やる気が空回りしないことを祈ろう。


地下でも引き続きミーシャ先頭で進んでもらうことにした。

一番下まで日の光が差し込んでいる大きな階段を軽やかに飛んで降りていく。

エルフには精霊の加護があると言っていたが、ミーシャ自身の妖精のような身のこなしに目を奪われて俺は出遅れた。

慌てて、階段を下りていくと、右側の通路は真っ直ぐ斜め下に繋がる洞窟だ。

高さも幅も3メートルぐらいの穴が真っ暗で見えない先まで伸びていた。


サリナが俺のほうを見てから洞窟の奥に炎を出してくれた。

30メートルぐらい先まで見えるようになったが曲がり角のない真っ直ぐな穴が奥に続いていた。

ミーシャが弓に矢を当てた状態で洞窟の中に入っていく。

20メートル間隔ぐらいでサリナは次々と炎を進行方向に出してくれる。

沢山用意したライトは今のところ重りにしかなっていない。

しかし、備えあれば憂いなし。そう思うことにしよう。


奥に進むにつれて洞窟は少しずつ広くなって来た、天井は5メートルぐらいになったと思う。

ひたすら真っ直ぐ続く洞窟を進んでいたミーシャが足を止めた。

サリナを呼んで、何かささやいている。


後ろから見ていると少し先で洞窟の天井が急に高くなっていたようだ、その先にサリナが大きめの炎を放った途端に洞窟中に甲高い悲鳴が響き渡った!

全員が手榴弾対策でイヤーマフ聴覚保護器をつけているが、それでも頭が割れるように痛くなる耳障りな音だ。


ミーシャは先頭で天井に向けて弓を射かけ始めた。

俺がサリナの横まで行って見た天井には炎の周りをわめき散らす大量の蝙蝠が飛び交っていた!

前のデカイ蝙蝠ではない、サイズは普通だが数が多い。

50cmぐらいの翼を広げている奴らが、天井を埋め尽くしているようだ。

ミーシャは矢で1匹ずつ確実にしとめているが効率が悪すぎる。


俺はストレージから、バードショットが入ったショットガンを取り出して、ミーシャの横から天井に向かってぶっ放した。

ほとんど狙いをつけずに天井の各方向へ向かって連射していく。


12ゲージの散弾が発射される轟音が蝙蝠の甲高い悲鳴を打ち消して行き、次々と地面に黒い塊が落ちていく。

32発入っているドラムマガジンを打ちつくすと、天井に動く蝙蝠はいなくなった。

しかし、バタバタとのたうち回る奴らが地面には残っている、マガジンを付け替えて床をきれいにしておいた。


蝙蝠を片付けた天井が高くなっている場所は通路の突き当たりで円形の部屋のようになっていた。

教室より少し狭いぐらいの広さだろう。

サリナの炎と全員のライトの光を頼りに確認したが、見える範囲に次の通路に繋がりそうな穴は無かった。

しかし、前回の迷宮も隠し穴が見つかったのだ、ここに無いとは限らない。

ハンスに後ろから何か来ないか見張らせてストレージから工事用の照明機材と自家発電機を取り出した。


4つの投光器で照らされた空間は真昼のように明るくなった。

完全に明るくなった壁の中で、俺は探していた場所をすぐに見つけた。

一箇所だけ壁が平らになっている場所があるのだ。

前回同様に石板を何枚も積み上げて隠し穴を塞いでいるようだ。

暗闇では見えなかっただろうが、これだけ明るくすると周りと違う場所がくっきりと浮かび上がっていた。


高さ1メートル、幅2メートルぐらいだろう。

コンバットナイフを縦のラインに入れてみたが、前の壁よりもここの壁は周りが硬くてナイフでは全然削れない。


前回使った電動ハンマーを取り出して、石板にノミをあてて石板の角を砕いていくことにした。

騒々しい音が洞窟内に反響し始めたが、隠し穴を塞いでいる岩が少しずつ割れて飛び散っていく。

5分ほどで満足行く大きさの穴が出来上がったので、手榴弾を二つ隙間に押し込んで動かないようにして、その上を土嚢でも押さえておいた。

土嚢を置いたのは前回より密閉された空間なので、爆発の衝撃を受けたくなかったこともある。

手榴弾のピンにつないだ釣り糸を伸ばしながら部屋の入り口まで後退して壁際に隠れた。


釣り糸のテンションを確認してから一気に引っ張る。

1.2.「3」で爆風と轟音が狭い洞窟内に反響した。

空気の逃げ場が無いため、俺達がいるところまで強い爆風が吹きつけて体が揺さぶられる。

収納するのを忘れていたライトも吹っ飛んだが仕方が無い。


土ぼこりが収まるのを待ってから天井の高い部屋に入った。

照明は二つ生きていたので、隠し穴があったところにもう一度光を向ける。

残念ながら前回ほど上手く岩が割れていなかった。

石板は割れてはいるが隠し穴を塞いだままだ。

割れた部分は少しだけ取り除けたが、嵌まり込んでいる石板はビクともしなかった。

しかし、もう一回手榴弾を使うのは危険だろう、中にお宝があれば一緒に吹っ飛ぶかもしれない。


地道に電動ハンマーで石板を割って行くことにした。

最初は時間が掛かったが、半分に割れた石板を1枚取り除くと、後は手で取り除けるようになった。

ハンスも呼んで割れた石板を上からどんどん外していく、隠し穴の中には前回見つけたのと同じ様な木の箱が見えてきたが、今度は横長で随分大きいようだ。


石板があった場所に高さ50cmぐらいの空間ができたところで、俺は屈んで隠し穴にもぐりこんだ。

中にあった木箱は横幅が1メートル以上ある。

楽しみを皆で分かち合うことにして、木箱を穴の外で待つハンスに渡した。


隠し穴から出て、気分を盛り上げるために木箱に照明を当ててから3人の顔を見る。

3人とも俺が開けるのを当然のように待ってくれている。


目の前にある木箱にも外側に蝶番やねじの跡は無かった、蓋は木の板が置いてあるだけのようだ。


大きな蓋に手を添えて持ち上げた木箱の中には・・・、埃で薄汚れた布しか見えなかった。

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