第81話Ⅰ-81 赤との小競り合い

■バーンのギルド


 俺達の前には5人、階段の上からは二人下りてきている。サブマシンガンのセレクターを動かし、オートで連射できるようにして右手でグリップを握る。左手にもスタンガンを持っておいた。後ろにはミーシャがいるから、大きな心配はしていないが備えは重要だ。


 5人が階段を塞ぐように立っているから誰も階段を通れないが、俺達の張り詰めた空気を感じて、文句を言わずにみんな立ち去って行く。


「お前達が黒の旅団と言い出しているやつらか?」


 5人並んだ真ん中の一番大きい奴が話しかけてきた、こいつがリーダーのようだ。毛深い虎の顔立ちと立派な上半身で腕組みをして、腰には剣を装備している。


「そうだけど、何か用?」

「うちの団長が話をするから付いて来い」

「断る。用があるならそっちから来いよ」

「なんだと、このちびが舐めてんじゃねぇぞ!」


 リーダーの右隣からチンピラのセリフが飛ぶが、こっちに迫ってくるようなことはしなかった。ちびと言った男は2メートルを超える身長だから間違ったことを言っているわけではない、素手で戦えば100%殺されそうだ。でも素手ではないし、階段の途中で止まった俺達との距離は2メートルぐらい離れている。


「俺には用が無い。用があるほうがくるべきだろう?それとそこは邪魔になるからどけよ。どかないと足が千切れるぞ」


 半分冗談で言ったつもりだったが効果はあったようだ、前にいる5人は大きく後ずさった。俺は死ぬほど怖かったが、怖くない振りをしながら、後ろに下がったおかげで出来た隙間を通ってギルド会館の出口に向かった。ロッペンとの約束があったのだが、この場から立ち去る方が先決だろう。


 外に出るまで襲い掛かられることも無く、3人とも無事に出ることが出来た。俺は全身から力を抜いて大きく息を吐いた。怖かった・・・、魔獣のほうが躊躇ためらうことなく銃を撃てるから気楽で良い、人相手だと先手必勝がつかえないから厄介だ。


 少し歩いてから振り返ったが、付いて来る奴らは居なかった。しかし、町の中では奴らが何処で見張っているかがわからないから油断は出来ない。それに町の外に出て俺達が馬車に乗り込むのを見られたくも無かった。手の内はできるだけ隠しておくのが俺の信条だ。まだ朝だが宿に入って作戦を練ることにしよう。この世界の宿屋にチェックインタイムは無い。部屋が空いていれば入れてくれるはずだ。


 前に泊まった宿と同じところにしたが、2ベッドの部屋で銀貨1枚と銅貨2枚に値上がりしていた。受付のオヤジは前回同様に三人で部屋に入る俺を意味ありげな目で見て金を受け取る。2階の部屋は表通りに面した部屋で通りを通る人や馬車がせわしなく動いていくのが上から良く見えた。2階にはこの部屋を含めて通り側に5部屋と向かい側に4部屋の9部屋ある造りだ。1階に下りるには受付の横から上ってきた階段だけで、非常階段は当然無かった。


 サリナ達にペットボトルのカフェオレを出してやって、赤の旅団についての相談をする。


「ミーシャは赤い奴らと抗争になったら、躊躇ちゅうちょ無く撃てるかな?」

「それは、どう言う意味なのだ?襲われれば確実に相手を仕留めるぞ?」

「それは殺すってことだよね?」

「もちろんだ、相手が殺しに来るのだからな。サトルは何を気にしているのだ?」


 なるほど、そこの迷いは全く無いわけか。


「俺の世界では、襲われたからと言って相手を殺してはいけないって言う決まり事があるんだよ」

「変わった決まり事だな。黙って殺されろという事なのか?理解できないぞ」


 確かに・・・、よく考えれば現世の方が間違っているのか?いや、そうでは無いか、現世では法や国の力で治安が守られているからだな。


「この国で人殺しをしたら誰が捕まえるの?」

「兵士だろう、理由無く人を殺せば死罪になるはずだ。しかし、襲われて身を守るものを捕まえたりはしない」


 自分の身は自分で守る。それについてのお咎めは無しか。


「サリナは赤の旅団と戦えるのか?」

「もちろん! サトルやミーシャは私が守るからね」


 こいつもやる気満々で俺だけ腰が引けているということだな。これはあれだ、教育や文化の違いということだ。どちらが正しいとかの問題ではなく、この世界と現世では人の価値観が全く違うのだから、この世界で生きていくならこの世界の価値観に合わせるしかないのだろう。気乗りはしないが、対人戦で命を奪うことも覚悟しておくことにしよう。


「サリナの武器は炎のロッドで良いとして、ミーシャはそのハンドガンで良いの?」


 サリナは魔法特訓で火加減を完璧にマスターしてくれた。レアからウェルダンまで自由自在で100メートル圏内なら無敵だろう。


「ああ、この銃も最高だな。魔獣を撃つには力不足だが、旅団相手ならちょうど良いだろう。お前が殺したくないと言うなら、歩けなくするだけも容易いし、なんと言っても弾が無限にあるのだぞ!」


 ミーシャが興奮しているのは圧倒的な弾数と連射する速度だ。矢を連射するのも早かったが、オートマチック拳銃には流石に適わない。それにマガジンには17発の9mm弾が入り、タクティカルベストには12個の予備マガジンを入れている。正直入れすぎだと思うが、ミーシャ理論では矢や弾は持てるだけ持つのが流儀のようだ。今までの矢筒はせいぜい20本程度しか入らなかったから、矢の補充と言うのはミーシャにとっては大きな課題だった。それが一気に解決したことに喜んで、岩場では走りながら撃ちまくり、マガジン交換も走りながら出来るようになっている。エルフとオートマティック拳銃・・・最高だが非常に危険なモンスターを作ってしまったのかもしれない。


「そうか、じゃあ良いけど、あいつらがいつ襲ってくるか判らないから、そのつもりで覚悟はしておいてくれ、他に何か必要な物があれば今の内に装備を整えるけど、何か居るものがあるか?」

「サリナは大丈夫! サトルは何か欲しいものが無いの?」

「俺か?俺は必要なものは何でも持っているからな」

「そうなんだ・・・」


 サリナとミーシャが残念そうな表情を浮かべた。


「どうした?」

「いや、サリナと話していたのだが、私達もサトルのおかげで、かなりの魔獣を討伐できているから報酬も多かったのだ。だから、何かお返しが出来ないかと思ってだな・・・」


 なるほど、こいつらもシグマで報酬を受け取っていたが、確かに大金だった。特にミーシャはジュラシックハントのおかげで金貨100枚以上になったはずだ。しかし、気持ちは嬉しいが物はいらないのだ、何でもあるのだから。だが・・・、やっぱり物より思い出だな!


「いや、気持ちはありがたいけど、欲しいものは無いんだ。その代わりに俺も長く国を離れて寂しいから、心を癒してくれるかな?」


「何!? サトルのお願いならサリナは何でも聞くよ!」

「ああ、私もお前のためなら命を差し出しても構わない」


 そこまで言われると逆に頼み難くなった・・・

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