第319話Ⅱ-158 ネフロス国2
■ネフロス国 密林
亀さんもお猿さんも近寄らなくなった装甲車で北に向かって10㎞ほど移動したところで停止した。密林から山地に地形が変わりつつある場所で傾斜があるが視界は開けているし、神殿に対して背後が山地で安心感がある場所だ。
「よし、ここをベースキャンプにしよう」
「ベース・・・キャンプ?」
「まあ、仮の家みたいなもんだな」
「ふーん、お家ね。サリナは何をすればいいの?」
「お前はミーシャに教えてもらって銃の練習をしておけよ。それと、いつも通り変なのが出てこないか見張っておいてくれ。俺の準備が終わったら、昼飯にしよう」
「うん、わかった! 練習と見張りね! 任せてよ」
サリナにはサブマシンガンとグレネードランチャーにそれぞれの弾薬を山ほど渡して、勝手に練習させることにした。ミーシャは笑顔でサリナに構え方や、狙いのつけ方を教え始めた。俺の方は鋼鉄製のシェルター、大型キャンピングカー、それに障壁とするための大型のコンテナを周りに設置した。やはり金属製の壁に囲まれていると安心できるのだ。射撃練習中の二人は機嫌よく撃ちまくっていたので、ストレージに入って装備を整えて風呂に入った。鏡で背中の傷を見たが、傷跡は全く残っていない。だが、破れた服には大量の血痕がついていたから、サリナが言う“死にかけた”は嘘では無かったのだろう。出血のせいか少しフラフラする気もする。
-魔法万歳! だが、ここでは・・・。
コンバットスーツに着替えて、ボディアーマーを3人分用意してストレージから出た。サブマシンガンの軽い発射音が聞えている。作業をするためにキャンプテーブルを取り出して、C-4爆薬とドローンを並べてダクトテープで固定していく。30セットほど作って満足したので、ストレージの中で雷管セット、リモコン類と一緒に保管しておいた。
-常に備えよ。
準備が完了したことを察したのか、シルバーが近くに来てお座りしている。
「お腹が空いたのか?」
『ワンッ』とは言わなかったが、しっぽをブンブン振ってYESと言っている。金属製の大型トレイに10㎏のドッグフードを入れてやると、ガツガツと食い始めた。こっちも昼食にすることにして、サリナとミーシャを呼んでパンとサンドウィッチの昼食にした。3人とも手元に銃を置いた状態で辺りを警戒しながら食べ始める。
「サトル、これからどうするつもりなのだ?」
「神殿に行く・・・、だけど、もう少し情報を集めた方が良いと思っている」
「情報? 何を知りたいんだ?」
ミーシャはカツサンドを頬張りながら不思議そうに首をかしげる。
「この場所は俺達が居たドリーミアじゃないだろ? 地形が違うっていうのもあるけど、魔法も使えないし、神殿の中も判らない。せめて密林やこのあたりの山岳地帯がどうなっているかを知ってから神殿に行きたいんだ」
空を飛べない以上は逃げるときの地理を把握するのは重要だ。
「そうか、うん。判った」
「猿は近づいて来ていないか?」
「ああ、感じる範囲には居ないな。どこか遠くに行ったようだ」
とりあえずの危機は無いようだが油断は禁物だ。
「サリナは銃の練習はどんな感じだ?」
「大丈夫! バンバン撃てるし、マガジン交換も早くなった!」
「サトル、サリナの言う通りだ。こいつはま、マシンガンを使うのが合っているみたいだな。大体の場所に弾を集めるのが得意みたいだぞ」
なるほど、ミーシャみたいに一発ずつ正確にと言うよりは、魔法と同じでぶっ放すのが性に合っているのかもしれない。
「そうか、だけど油断するなよ。どんな敵がいるか判らないからな。3人で助け合わないとな」
「うん、任せて! 頑張るから!」
ちびっ娘はデニッシュのパンをボロボロとこぼしながら、カフェオレと交互に口にしているが、嬉しそうに俺を見ている。魔法が使えなくてもやる気は十分のようだ。俺達の食事が終わったころにシルバーが近寄って来て、鼻で俺の腕を押した。
「なんだ? まだ、食べたいのか?」
今度は違ったようだ。急ごしらえのキャンプ地の外にある装甲戦闘車の傍まで行って、こちらを振り返った。
-ついて来いと言う事か・・・。
シルバーは山すそを西に向かって早足で歩き始めた。俺達は装甲車に乗ってその後ろを追いかける。木が少ない場所なので車両の傾きを無視して草木を踏みつぶしながらついて行く。20分ほど進むと木が密集した林の手前でシルバーが止まって振り返ったので降りて近くまで行くと、しっぽを軽く振ってから林の中に入って行った
。俺、サリナ、ミーシャの順で左右を警戒しつつ木をかき分けながら進んで行くと、ミーシャが止まる様に小さな声を出した。
「足跡があるな。少なくとも二人、いや一つは人間では無いようだ。何度も通っている」
ミーシャはかがみ込んで地面を横から見るようにして俺に教えてくれた。シルバーは止まっているがしっぽをご機嫌で降っているところを見ると、敵がいるのでは無いようだ。
「シルバーは俺達を誰かの所へ連れて行きたいんじゃないかな?」
「なるほど。うん、たしかにそうかも知れないな」
シルバーは頷かなかったが、再び木を押し除けながら歩き始めて、岩山に倒木が倒れている場所の手間で止まった。お座りをして盛大にしっぽを振っている。
「ここか・・・、誰かいるんだろうな」
倒木は斜めに岩にもたれかかっていて、木の枝等がその上に乗っているが、人の手で入り口を隠そうとしているようにも見える。倒木の横から回り込むと狭いが入って行ける隙間がある。
「ライトをつけようか」
さて、シルバーは誰に俺達を合わせたいと思ったのだろう・・・。
■ネフロス神殿
「おい!猿人たちは何をしているんだ! 全然帰って来ないじゃないか!」
「猿人たちは怖がって近寄れないみたいです」
「クソッ、あの役立たずどもが、服従の呪いを使え!」
兵長は戻って来ない猿人たちに業を煮やして、魔法士の水晶球でその動きを確認させた。水晶球に写ったのは、木の上で遠くを眺めている猿人たちの怯える様子だった。兵長の指示で魔法士はあらかじめ抜いてある猿人たちの毛を壺の中から取り出すと、机の上にあったランプの炎へその毛を投じた。水晶球に写っていた猿人たちは痙攣を起こしたように硬直して地面へと落ちて行った。地上でも首に押されたネフロスの紋章から焼けるような激しい痛みでもだえ苦しんでいる。
「これで、奴らもやる気になるだろう。10分ごとに毛を焼いてやれ!」
「かしこまりました」
「それから
「装備というと、剣でしょうか?」
「そうだな・・・、盾と剣で2体ずつだ」
「4体となりますと、魔力を集めるのに時間が掛かります」
「なるだけ急がせろ! あいつらは
「承知いたしました」
兵長は5体の
「神官長、兵装ゴーレムを使います。猿人や
「うむ、しばらく時間を稼げ、我も手を打つのでな」
「わかりました」
神官長も状況は理解していた、首領たちからの情報もあり。相手はこの世界の兵士等では全く歯が立たないことも判っている。それでも相手はたった3人だ。何度も襲えばそのうち隙が出来る。その為にも・・・。
神官長はネフロス紋章の壁をすり抜けて、もう一度暗闇の空間へと入った。相手が神殿から遠ざかったこのタイミングであれば、結界をつなぎ直すことも出来るからだ。浮かんでいる水晶玉の一つを手に取ると祭壇へ移動して祈りを捧げ始めた。
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