第343話 Ⅱ-181 消える町1

■ 神殿の外


 俺達はタートルの力に助けられ、神殿の外へと出た。いまだに元亀の存在が敵か味方かは判断付きにくいが、少なくとも黒い死人の首領を一人確保することが出来たのはこいつのおかげだろう。今は何をおいてもムーアの町へ急いで向かわなければ・・・、いまでも町が無事かどうかは判らないのだが。


 神殿の外に出た俺は少し広い空地でムーアの町へ向かう新しい乗り物をストレージから取り出した。


「サトル。これは新しい船なの?」

「船じゃないけど、俺の世界で空を飛ぶための乗り物だよ」


 サリナは白く輝く最新のビジネスジェット-ガルフストリームを見て目を輝かせている。他のメンバーはそれほどの感動している様子を見せるでもなく、不思議そうな表情を浮かべていた。


「これは何処から乗るの? 船みたいに上が開いてないよ?」

「ああ、これはタラップを・・・」


 風の腕輪で少し飛び上がりながら、機体左側にあるタラップを下ろすレバーを引いて階段を地面まで下ろした。


「凄ーい! 階段が出てきた!乗っても良い!」

「ああ良いよ・・・ってもう乗ってるじゃねえか!まあ良いか、みんなも早く乗ってください」


 乗り物好きのサリナは俺の返事を待たずに階段を駆け上がっていた。みんなも俺に続いて機内へと入って行く。サリナはさっそく機内の探検を始めてコックピット、客室、ギャレー、トイレ等の扉を開け倒していた。


「あら、これは船よりもずいぶんと居心地が良さそうね」


 ママさんは本革のリクライニングシートを触りながらニッコリとほほ笑んで俺の方を見ている。


「気に入っていただけたなら良かったです。じゃあ、急ぐのでみんな早く席についてください」


 タラップを機内から引き上げて扉をロックすると同時に船を垂直に上空へと持ち上げた。高性能のビジネスジェットではあるが、もちろんオスプレイやハリアーのような垂直離着陸(VTOL)が出来る機体ではない。飛ぶ力は全て俺が使っている風の腕輪のおかげだ。それでも、船ではなく飛行機を乗り物として選択したのは空気抵抗等の点から船よりも早く飛べる可能性があると思ったからだ。ミーシャとサリナを連れてコックピットへと移動する。


「ミーシャ。ムーアの町はどっちになるかな?」

「ああ、太陽がこちらで、ボルケーノが右だから、もう少し左に向けてくれ」

「判った」


 ミーシャの言う通りの方向へ向けながら機体を上空にさらに持ち上げなら加速させていく。


「うわぁッ!」


 急加速でGがかかって、コックピットで立っていたサリナが床で転びそうになった。


「サリナ、ミーシャと一緒にここに座って方角があっているか確認してくれ、方角がずれて行くようだったら教えてくれ。俺は後ろで少し話しをしてくるから」

「判った! 任せてよ!」


 俺に何か頼まれると、それだけでご機嫌のちびっ娘は言われた通りにコックピットに座って、周りのボタンやレバーを珍しそうに触っている。電源はおろかエンジンも始動していないから触っても問題ないだろう。マッハ1程度で飛べるジェットエンジンは宝の持ち腐れだが、今は風の精霊様の力でそれ以上の速度が出ているかもしれない。横に見えていたボルケーノ火山は一瞬ではるか後方へと置き去りになった。


 キャビンに戻るママさんとメイ以外は離れて座っていた。メイはママさんの腕に自分の腕を絡ませているが、怯えた感じでも無かった。聞きたいこともたくさんあるはずだが、特にうるさいことも言わずに大人しくしてくれている。タートルは最後尾のボックス席に座っていたので、向かい合わせになったシートへ座った。タートルは外を眺めたまま、口を開いた。


「これはお前の世界の乗り物だな。空を飛ぶための物なのか?」

「そうだ飛行機だな。お前の世界ではこんな形では無いのか?」

「ふむ。重力に縛られてはおらんからな・・・、形はずいぶんと違うな」

「そうか・・・」


 重力に縛られない乗り物がどのようなものか判った訳ではなかったが、宇宙を飛ぶのも大気圏内を飛ぶのも同じことなのかもしれない。


「それよりも、ムーアの町の件だが、暗黒結界を作る宝玉オーブは何処にあるか分かるのか?それに黒い死人の首領の居場所は?」

「うむ。宝玉オーブについてはムーアの近くにあることは間違いない。結界の外から操っているはずだ。首領はその宝玉オーブの近くにいることも間違いない・・・が、具体的な場所は判らん」

「その宝玉オーブはさっきの水晶玉と同じようなものなのか?」

「それは判らんな。同じようなものかもしれんが、もっと小さなものでも大きなものでも・・・、四角だろうが、三角だろうが形も決まりはない。石板かもしれんしな」

宝玉オーブなのに球ですらないのか? そもそも宝玉オーブとは何なのだ?」

「星の力あるいはせいの力を使うための触媒のようなものだな。何か成し遂げたいことを星の力を使って実現するために必要となるものだ。」

「星の力?それはどういう力なんだ? ブラックホールや時空を動かす力のことか?」

「それらも星が叶える力だな、それにお前たちが使っている“魔法”とよばれるものもその一つだろう」

「魔法も? あれは神の力では無いのか?」

「神か・・・、同じことを指しているのであろう。それは我らの認識では全て星の力であり力だと思っている。星の意志はその星によって異なるが、大きな精神力があれば星の力を引き出すことが出来る。あるいは多くの“生”を捧げることでもな・・・。宝玉オーブがあれば星へ使いたい力を伝えやすくすることが出来ると言うことだ。その宝玉オーブに強く大きな精神力が込められていればなんでも良いが、この星の水晶球には精神力を込めやすい何かがあるのかもしれんな」

「わかった。暗黒結界について何か教えてくれることは無いか?」

「ブラックホールという概念が判るのであれば、そのブラックホールへつなげる入り口と考えればよい。星の力でその時空へと入り口から結界内の全てを送り込む。それにより宝玉オーブには更なる力が蓄積されることになるだろう」

「・・・」


 町一つの人間の命を生贄にして力を得ると言う事か、憂鬱な気持ちになったが表情には出さずに席から立ち上がって機体後部のトイレへ入った。顔を洗ってトイレの中からストレージへと移動して、先ほど捕えた黒い死人の首領がいる空間を呼び出した。残り一人の首領を見つけるためにはこいつから情報を引き出すしかないだろう・・・。

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異世界へ全てを持っていく少年 -現世の全てをストレージに入れてくれ!- 初老の妄想 @shorou_mosou

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