第54話Ⅰ-54 第3迷宮の中心部

■第3迷宮中心部


壁に絵-漫画-を残していったヤツは暗にこの穴を水で満たすことを示唆している。

水の魔法を使えという事だろう、ストレージからタンクに入れて持ち出せないことも無いが、ストレージからこの世界に直接水を出すことはできないので手間が掛かる。


先人が期待しているのは『魔法』のはずだ、かなりの量になるはずだが、この穴を満たす水をサリナは出せるのだろうか?


「ハンスさん、サリナが出せる水の量に限界はあるのですか?」


「限界? それはわかりませんが、この部屋を満たすぐらいは造作ないと思います」


-マジッ! この部屋って、結構な広さがありまっせ!?


「疲れて倒れたりもしませんか?」


「ええ、魔法力についてのご心配は要りません。ほぼ無限にあると思っていただいて結構です」


-サリナちゃん、そうだったのか。不思議ちゃんとか言っててゴメン!


「サリナ、この下の緑色の光の下に水を出せるだけ出してみてくれ」


「出せるだけってどのぐらい?」


サリナは穴の底に見えるケミカルライトの光を覗いてから首をかしげた。

確かに出しすぎも良くないかもしれない。


「そうだな、とりあえず3メートルぐらいの水球でやってみるか」


「わかった!」


サリナが穴の底に手を伸ばすと、下から水が壁に当たる音が聞こえてきた。

覗いてみると、ケミカルライトは水没していないが少し揺れているように見える。


「次ぎは今の倍の大きさでやってみて」


「わかった!」


覗いて見ていると、ケミカルライトがどんどんせり上がってきた。

ライトは穴の大きさより一回り小さい板の上に乗っているようだ。


「もう一回」「わかった!」

「もう一回」「わかった!」・・・


何回かやると穴の底にあったライトが手の届く高さまで上がってきたが、板の上には木箱は乗っていなかった。

板を押すと水の上に浮かんでいる感触を示して少しだけ沈む。


「最初の水の大きさでもう一回」「わかった!」


「ウワァッ!」


穴から水と木の塊があふれ出してきた!


水が多すぎたようだ、サリナも俺も腰から下がずぶぬれになった。

だが、穴からは水と一緒に丸い板の下に隠されていた箱と樽が組み合わされた大きな物も現れた。


木箱を上下に挟むように同じ大きさの丸い板が取付けられている。

さっきまで俺達が穴の底として見ていたのは上の丸い板だ。

下の丸い板を支えるように小ぶりの樽が木の枠組みで二つ取り付けられていた。

4コマ漫画に嘘は無かったようだ、水で浮くように作っている。


半分穴に引っかかっている木箱と樽をそのままの状態で水が無い場所まで運んだ。

木箱は大きくないが上下に丸い板が釘で打ちつけられている。

今までの木箱のように蓋は上に乗っているものではない。

横と下から見てみたが引き出しのように出てくる造りでもなかった。

丸板を壊して開けるのだろうか?


試しに上の丸板だけを持ち上げてみると木箱が上にずれた。

なるほど、丸板ごと重ね蓋になっているのか。


ミーシャに手伝ってもらって、1メートルぐらいの丸板を真っ直ぐ上に持ち上げると、木箱の上蓋ごと外れて中が見えるようになった。


木箱の中はいつもの布切れで覆われている。

3人を集めて全員のヘッドライトを木箱の中に当てる。

俺がめくった布切れから現れたのは・・・、ロッドだ。


炎のロッドと同じ大きさだが、先端に取り付けられている石が赤く無いようだ。

タオルで拭いてからハンスに渡してやる。


「これは、水のロッドだと思います。これほど綺麗な水聖教石は見たことがありませんが、間違いないでしょう」


お宝が二つあったが、いずれも神の拳とやらでは無いようだ。

そもそも、神の拳ってどんな物なんだ?


「ミーシャの探している神の拳っていうのはどんな物なの?」


「私は岩をも砕く拳だと聞いているが、それ以上はわからない」


岩をもって、爆薬じゃあないだろうし・・・

しかし、お宝が二つも見つかったんだから成果に満足すべきだろう。


念のため、木で作られた箱一式をストレージにいれて、4コマ漫画は記念にスマホで写真を撮っておいた。


「今の光は何の魔法!」


ちびっ娘がフラッシュに食いついた。


「ああ、これは一瞬だけ光の魔法であの壁を切り取れるんだ」


スマホの画面で壁の写真を見せてやった。


「凄い、スゴイ、凄い! サトルの魔法は凄い!」


-いや、現世では小学生でも使ってまっせ。


興奮してピョンピョン跳ねるサリナを見て、面白くなったのでサリナを動画で撮ってやった。


「何してるの?」


近寄ってきたサリナに動画を見せてやる。


「こ、これはサリナ!? 何でこの中にいるの? 私はここに居るのに?」


「魔法だな、悪いことしたらずっとこの中に閉じ込めるからな」


「イヤァー、サリナは悪い事なんかしないから、その中には入りたくない!!」


真顔で怯え出した、すっかり信じたようだ。


「嘘だよ、冗談だから、この中には俺が見た記憶を保存しているだけ。サリナはこの中に入ったりしないから安心しろ」


「嘘?・・・嘘? なんでそんなヒドイこと言うのよ! サリナは悪いことしないのに!!」


涙ぐみながら怒っている、現世の冗談は良くなかったようだ。 


「ゴメンゴメン、後で美味しい物食べさせてやるから許してくれ」


「美味しい物? お肉? 焼肉かな!?」


「ああ、お宝も見つかったし、今晩は焼肉にしてやる。他にも美味いものを食わせてやるから機嫌を直してくれ」


「わかった!美味しい物を約束ね!」


食い物で解決するなら安い物だ。

いや、食い物はタダだったか。

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