第247話Ⅱ‐86 王国会議2

■水の国王都 セントレア 大教会


「イージス殿、勇者様も突然の話で驚いておられるようですぞ。この話は時期を改めてはいかがですかな?」

「いえ、このお話は我が国が変わることの証、そしてその変わった炎の国を皆さまが受け入れていただく証になる重要な事柄です。なんとしても、勇者様にはお受けいただきたく存じます。それに、勇者様や他国にとっても我が娘がいれば安心いただけるのではないですか?」

「ふむ、我が子を差し出すことで二心が無いことを明らかにされたいのですかな?」

「その通りです」

「お考えはわかりましたが・・・、勇者様はまだ結婚をされるおつもりが無いと言う事です」

「結婚が早いと言うのであれば、婚約と言う形で進めさせていただき。婚約者として受け入れていただいても結構です」

「なるほど、婚儀は時期を見てと・・・、勇者様はいかがですかな?」


 何だか水の国の王様と火の国の女王で話が進んで行っているが、娘を人質として差し出すと言うことなのだろう。そして、それを受け入れなければ火の国側も俺達を信用しないと言っている・・・のか?


「申し訳ないですが、私の国では結婚は家同士で決めたりするものではありません。ましてや、人質のような扱いで結婚することなどは出来ないですね。ですから、このお話はお断りします」

「まあ! そんな・・・、それは和平の申し出を壊すと言う事ですが、そのおつもりなのですか?」

「いえ、それは別でしょう。私が結婚しなければ和平が壊れるというのはおかしいですよね?」

「ですが、我が国からの申し出を一方的に断られてしまっては、我が国としての立場がありません。勇者様は我が国と敵対するつもり・・・、国内ではそのように捉えるものもいるでしょう」


 ―なんでやねん!そっちの方が一方的や!


「私は敵対するつもりはありませんが、貴国の中でのことはそちらで考えていただくしかないですね」

「ふむ、勇者様は国同士のお付き合いに縛られるおつもりは無いようですが、和平を前提にした婚儀は断らないのが慣例となっております。私の母親は水の国の王家から嫁いで来られましたし、風の国の今の王妃は水の国の王家に繋がる方です」


 横に座っている森の国の王がこの国の政略結婚について解説してくれた。


「そうですか、皆さんの間ではそれで良いのでしょうが、私は王でもありませんし、そんな考え方に縛られるつもりはありません。今のところ結婚するつもりはありませんので、何を言われても考えを変えるつもりは無いです」


 俺自身が結婚なんてものを考えたことがまだなかった。結婚? そもそもするのかな?


「なるほど、それが勇者様の結論なら仕方ないですね。私共からの申し出はすべて撤回させていただきます。炎の国はこれからも奴隷制を続けますし、獣人やエルフを人として認めることは致しません」

「私との婚約が法を変える条件だと言うのですか!?」


 イージスの論法はかなり無理筋のような気がするが、どうして俺との結婚にこだわるのか。何か他に狙いがあるのだろうか?


「条件と言うわけではありませんが、こちらからの和平の申し出をお断りになる方の申し出に従うことは致しません。私も国を代表してこの場に来ているのですからね」

「では、また戦を仕掛けてくると言う事ですか?」

「こちらから仕掛けるつもりはありませんが・・・、我が国のやり方に口出しをされれば、そういう事態になるかもしれません」


 ―和平決裂ってことか・・・、俺の婚約が原因で? この女王も追い払った方が良いのだろうか?


 考え込んでいる俺を見て、水の国の王が話をつないでくれた。


「イージス殿、勇者様も急に婚姻の話を受けて、戸惑っておられるのでしょう。何も今すぐにすべてを決める必要もないでしょう。婚姻の話はもう少し時間を掛けられてはどうですか?」

「時間を・・・、そうですね。確かに今すぐお返事をいただくのは無理があったかもしれませんね。では、しばらくメアリーと一緒に過ごしていただき、後日お返事をいただくことではいかがでしょうか?」

「いや、でも・・・」

「勇者様、ここは一旦お受けいただいた方が良いと思います。すべてをお断りになれば、炎の国としてのメンツに関わりますからな。無論、婚約をされるかどうかはゆっくり考えてから、結論を出せばよいことです」


 水の国の王は笑顔で受け入れを進めている。周りを見ると他の二人の王も小さく頷いている。俺以外は全員賛成しているようだが、いずれにせよ結婚しないことが分かっているのに先送りすることは気乗りしない。仕方なく壁際に座っているママさんを見ると、意外なことにニッコリ笑って頷いている。


 ―預かれってことかい?


「ですけど、お姫様をお預かりするような家も無いですからね。今は親しくしている方のお屋敷にお世話になっているので・・・」

「それなら、私がセントレアに住まいを用意しよう。以前、私の姉夫婦が使っていた家だが、部屋数も十分あるしメアリー殿をお迎えしても失礼は無いでだろう」

「お待ちください、水の国の王よ。もし、お住まいが必要なら森の国でお迎えさせていただきたく思います。勇者殿には我が森の国は大変お世話になり、まだその恩返しもしておりません。王宮の別棟がありますので、そちらを使っていただければ・・・」


 水の国と森の国の王からそれぞれ居館提供の申し出があったが、風の国も割り込んできた。


「いえいえ、我が国でしたら既に勇者様のために住む場所を王宮内に用意しております。ライン領の件でお手数をかけてしまいましたので、是非とも私共の国へご滞在いただきたいと思います」

「ふむ、なるほど森の国、風の国ともに勇者様に滞在してほしいのですな。勇者様はいかがお考えですかな?」

「えーっと、どこか一か所にとどまるつもりはありませんでしたが、お姫様を預かるなら、しばらくはセントレアに居るつもりです。でも、風の国にも行きますし、森の国にも行きますからね」

「我が国はいつでも歓迎です。王宮の住まいは常に用意しておきますので、遠慮なくお越しください」と風の国。

「我が国も歓待いたします。エルフの戦士と一緒にお立ち寄りください」と森の国。


 ―俺ってモテモテだな。


「うむ、ならば当面は我が水の国にお迎えいたしましょう。無論、勇者様の行きたいところへいつでも行っていただいて結構ですぞ」

「ありがとうございます。詳しい段取りは改めてご相談しますので、まずはメアリーさんをよろしくお願いします。イージス女王、それで良いですか?」

「ええ、結構です。メアリーをよろしくお願いしますね」

「はぁ・・・」


 ―何だか大きな間違いをした気がするが・・・、良いのか? 13歳の娘を預かって?

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