第79話Ⅰ-79 俺の成長は?

■シグマの町 南の荒野


 シグマ組合長との話し合いの後はエルとアナの部屋-ギルドの倉庫-を5人で手分けして片付けた。倉庫は小さな体育館ぐらいの大きさで、武器や本、木箱などが山積みになっていた。床に自動掃除機を走らせながら、大きな荷物を部屋の片隅に寄せるとなんとか10畳ぐらいの綺麗な空間が出来たので、簡易な間仕切りを設置する。中には大きめのベッドと木製の棚を並べて、ベッドの下には水のペットボトルと栄養補助食品を隠しておいた。1ヶ月ぐらいは頑張れば生きていける量のはずだ。今日は二人を宿で寝かせて、明日からここに寝泊りしてもらうつもりにしている。宿に泊まらせるのは俺達と長く居すぎるとこの世界で暮らすのが難しくなるような気がしていたからだ。


 二人を宿に置いた後は3人で南の荒地に30分程ピックアップトラックで移動した。この辺りで魔法と銃の練習を日暮れまでする予定にしている。サリナには魔法の加減を一刻も早く覚えてもらおうと思っているし、ミーシャには銃の練習の必要は無いのかもしれないが、違うタイプの銃器も試してもらいたかった。そして、俺は・・・、魔法だ!俺だけが成長していない気がしていたが、よく考えると俺も魔法が使えるらしい。ひょっとすると伸びしろは無限大かもしれないじゃないか。それにサリナが居なくなるまでには治療魔法を覚えておきたかった。これから一人になったとしても、自分で治療ができるなら確実に役に立つはずだ。


 ということで、移動中に見つけたブラックティーガーをミーシャ先生に動けない程度に仕留めてもらったやつが目の前にいる。いつものテーザー銃で電気ショックを与えて完全に動けなくしてから、サリナに光魔法のやり方を教えてもらう。


「いつもはどんな風に祈ってるんだ?」

「アシーネ様に元通りにしてくださいって祈ってるよ」

「わかった、光のロッドを貸してくれよ」

「はい!」


 俺は貸してもらった光のロッドを右手に持ち、左手にスタンガンを持った状態で祈りを捧げた。


 -アシーネ様 目の前の虎の後ろ足を銃で撃たれる前の状態にお戻しください。


「ヒール!」


 掛け声と共にロッドを銃痕に向けると自分の右手から温かい空気が流れていくのが感じられた。手応えありだ、ブラックティーガーは後ろ足だけで立ち上がろうとし始めたから、電気ショックの痺れと銃の怪我が治ったようだ。念のためスタンガンでもう一度動けなくしてから、グロックで逞しいお尻を撃って治療魔法を・・・10回ほど繰り返すと、治療魔法をかけているロッドの先から魔獣の状態が右手に伝わってくるようになった。冷たかった物が温かくなっていくような感じだ。ロッドを向けてから、元気になるまでの時間も徐々に短くなってくる。サリナが言っていたように成長していくのが自分で判るのだ。そのまま20回ほど繰り返してから、協力してくれたブラックティーガーは解放してやった。前足も治療してやってから、スタンガンで麻痺だけさせてその場に置いたので、しばらくすれば自分でどこかに行けるだろう。図体が大きいので、多少の銃弾は気にしないと信じることにする。


 その場所から南に少し走るとちょうど良い岩場が見つかったので、その場所の50メートル程手前にマネキンを横に10体置いて岩場まで移動した。ミーシャにハンドガンで撃ちまくってもらうつもりだったからだ。グロック17を2丁とマガジンを10個、それに9mmパラベラム弾を500発取り出して、キャンプ用テーブルの上にイヤーマフと一緒に置いた。


「ミーシャ、今度はこの銃を練習してくれるかな?当たるのは間違いないだろうけど、できるだけ早く、たくさん撃てる様になって欲しいんだ」

「うむ、それは楽しそうだな。この銃も使い方は変わらないのだろうか?」

「ああ、レバーの変わりにスライドを・・・こうやって引けば弾が装填されるから後は引き金を引くだけだ。弾がなくなったらマガジンを外して、新しいのを押し込めば良い。狙いの付け方は・・・ミーシャなら見ればわかるはずだ」


 俺は弾の入っていないグロックのスライドを引いてからマガジンを装着してみせてミーシャに渡した。


「軽い物なのだな、これであそこの人形を狙えばよいのだな」

「ああ、左から順番に1発ずつ撃って行って、出来るだけ早く右端までたどり着くように練習してよ」

「そうか、速さが大事なのだな。わかった、やってみよう」


 イヤーマフをつけて銃の感触を確認していたが、右手で持ち上げたグロックに左手を添えた瞬間に発射音を連続させる。乾いた音が10回連続する間に全てのマネキンの顔に黒い穴が開いていた。やはり練習は不要のようだ。


「どうだ、今のでよいだろうか?」

「うん、十分だね。つまらなかったら練習はやめておくか?」

「いや、是非このままやらせて欲しい。走りながら撃ったりもしないと戦えないからな」

「わかった、マガジンが全部空になったら、自分で弾を装填してしばらく練習しておいてよ、俺とサリナは魔法の練習をするから」

「よし、任せておけ、もっと早く撃てるようになるまで練習することを約束しよう」


 いや、既に十分ですが・・・。ミーシャにハンドガンの練習をさせようと思ったのは旅団対策だ、こっちは争いたくは無いが万一抗争になった時には、正確に大勢の足を打ち抜いてもらえれば殺さずに制圧できるだろう。俺がやると加減が出来ないかもしれないからな。


「サリナ、お待たせ。魔法の練習の時間だ」

「うん、サトルはさっきの治療魔法は出来るようになったの?」

「ああ、お前の言う通りにやったから、だいぶ上達できたはずだ」

「良かった♪サリナも役に立てたんだよね?」

「もちろんだ、だけど、もっと役に立って欲しいから、魔法の加減を覚えてもらわないといけない」

「加減かぁ・・・、何でうまく行かないんだろう?」

「魔法の強さを調整するのは慣れだろうから、何度もやれば自然と覚えるよ。今から炎の魔法をあそこにある二つの岩に交互に放っていけ」


 俺は30メートル先にある岩と80メートル位向こうの岩を指差した。


「岩に届いたら、炎を止めてから次ぎの炎を放つんだぞ。用意が出来たらロッドを使ってやってみろ」

「うん、止めてから次、止めてから次ぎ・・・わかった!大丈夫!」


 サリナはロッドを近いほうの岩にむけてすぐに叫んだ。


「ふぁいあ!」


 炎は岩の向こうまで伸びて行き50メートル以上は届いている。


「もっと手前で止めるようにしてみろ」


「うん、やってみる。ふぁいあ!」


 だいぶマシになったが、まだ強いようだ。これは何度もやらせて、体に覚えさせるしかないだろう。


「サリナ、俺も練習するから水のロッドを貸してくれよ。手加減の練習は出来るようになるまで頑張って続けろ」


「うん、頑張る!サトルも頑張ってね♪」


 サリナは俺と魔法練習が出来てMAXハイテンションになっているようだ。一人で倒れるまでやらせておこう。いや、あいつの魔法力は無限だから倒れないのか。俺は程々にするとして、今度は水魔法にも挑戦してみたいと思っている。厳密には水じゃあないな、攻撃魔法ならやっぱり氷でしょ。

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