第221話Ⅱ‐60 海女ちゃん?

■火の国南の海岸


 美少女たちはひたすら潜りたがった。ミーシャ先生の指導で4人ともシュノーケルの使い方をマスターした後は驚くほど長い時間をかけて水中に潜るようになった。海は太陽の光できらめき、ごみ一つない海岸は真っ白な砂浜でゆったり俺は寝そべっていても楽しいのだが・・・。


 ―あいつらは何がそんなに楽しいんだろ?


 俺にはさっぱりわからないが、かれこれ1時間ぐらいは何度も潜り続けている。さすがに保護者としては心配になってきたので、海から一度上がらせるべきだろう。


「おーい、お前ら上がってこい!体が冷えると疲れるぞ!」

「はーい! エル、アナ、戻るよー!」


 ミーシャからは返事がなかったが、サリナ達が浜に戻れば気が付いてくれるはずだ。俺は先にテントのところまで戻って、温水シャワーの用意を始めた。ストレージからお湯をポータブルシャワーのタンクに入れて取り出した。シャワーヘッドを取り付けるスタンドも出して、近くにふわふわのバスタオルを置いたテーブルを・・・。


 ―あれ? 俺って何してんだ?


 いつの間にか召使いのような動きが体に染みついている。いや、違うな・・・、家族みたいもんなんだろうな・・・、娘たちが快適だと俺が嬉しいってことだ。


「わーい、シャワーだ! サトルありがとう! 使ってもいいんだよね?」

「ああ、そのために出した・・・、ってお前ら3人とも唇が紫色になってるぞ、寒いんだろ?」

「うーん、少し冷たいけど、すごく楽しいよ!」

「ったく! エルとアナもシャワーを浴びて一度体を乾かせ、海にはしばらく入るなよ」

「えーっ! 楽しいのに! もっと入りたいよ!」

「休憩してからだ!」

「はーい・・・」


 うん、完全に保護者モードだな。だが、目の前にはムチムチの美少女がシャワーを気持ちよさそうに浴びている。水着からあふれんばかりの・・・、そして胸から水が滴り・・・、おっと、見すぎたかな? サリナと目が合った。


 目線を逸らして海を見るとミーシャも上がってきて、入れ替わりに大人たちが水際を歩き始めた。さすがに頭から飛び込むことはしなかったが、ショーイとハンスも沖に向かって泳ぎ始め、ママさんとリンネは膝ぐらいまで波がくるところを二人で歩いている。本格的に泳ぐ気は無いのだろう、サングラスをしてパーカーを着たままだ。ゆっくり歩く二人はちょっとしたモデルのように見えたので、こっそりと一眼レフカメラを取り出して写真を何枚かとっておいた。ついでにサリナのシャワーシーンも何枚かとったが、決して盗撮と言うわけはない・・・よな?。


「お前らも寒いだろうから、上に何か着ておけよ。それと、水分を補給しろ、カフェオレでもいいから飲んでおけ」

「うん!ありがとう! サリナはコーラが良い!」

「わかった、コーラな。エルとアナは何が良いんだ?」

「甘いの! カフェオレの甘いの!」

「よしよし、じゃあこれな」


 3人に飲み物を飲ませて、色とりどりのパーカーを着させながらミーシャのシャワーシーンを眺めていた。やはり美しい・・・金色の髪が濡れて白い肌に張り付いている。サリナと違って無駄な脂肪は殆どない。かなり筋肉質なのが一目瞭然だった。水着から伸びている太ももとふくらはぎは張り詰めた筋肉で、あの上を流れる水になりたい・・・。


 だめだな、やはり目の前の水着は俺の理性を奪って行くような気がする。


「サトルは泳がないのか?」


 ミーシャがバスタオルで体をふきながらテントへ歩いてきた。


「ああ、なんかミーシャ達の泳ぎを見ているとなぁ・・・」

「どうした? 何かおかしいのか?」

「俺の国では女の子はあんなに潜りっぱなしじゃないんだよ」

「そ、そうなのか? 私は変なのか?」

「えー、サリナ達が変なの?」


 ミーシャは少し戸惑い、サリナは少し不満そうにふくれっ面になっている。


「いや、変って言うことは無いよ。違うって言うだけだ、それで水の中で何がそんなに楽しいんだ?」

「キレイ! お魚いっぱい! 貝もあるよ、サトル兄ちゃんにあげる!」


 アナが水着の胸から綺麗なピンク色の・・・サンゴ?を出してきた。


「ありがとう、アナ。ふーん、こんな綺麗なのがあるの?」

「うん! 他にもいっぱいあるけど、たくさん採るとかわいそうだから、底に落ちてたのだけ拾ってきた!」

「他にもきれいで美味しそうな魚がたくさんいるよ!」

「きれいで、美味しそうねぇ。アナ、まだ頭が濡れているな、拭いてやるよ」


 俺は苦笑いしながら、体の毛が濡れて地肌が良く見えている可愛い獣人の頭をタオルで撫でてやった。アナは恥ずかしそうにしていたが、終わるとにっこり笑って姉の横に戻りカフェオレを手にしている。


「海には見たことの無い魚がたくさんいるのだぞ。それにお前の貸してくれた道具は、何と言うのか・・・、水の中に絵があるように見えるから飽きないのだ。お前の国の女たちはもったいないことをしているな」

「そう、そうだよ、ミーシャの言う通り! 潜らないなんてもったいないの!」

「なるほどな、だけどなぁ。確かに潜るのが好きな人もいるけど、女の子たちはさ、そもそも顔を水につけるのも喜ばないからな」

「変だな」

「うん、変。絶対変なの」

「・・・」


 こいつらは子供と同じで純粋なんだ、俺の住んでた国の価値観を押し付けるのが間違いだな。みんな、どう見られているかなんて気にしないから、びしょ濡れになっても、綺麗なものが見られるならその良さしか考えないんだ。


「そうだな、ここの海は綺麗だからな。まあ、楽しむだけ楽しんで来い。それに、魚や貝を採るなら道具を貸してやろうか?」

「他には何があるの!?」

「ああ、魚を捕るなら・・・、モリかな? こうやってゴムを肘に引っ掛けて・・・、引っ張って放すと、水の中でも勢いよく魚に刺さる」

「それは良いな! 私に貸してくれ!」


 狩人の血が騒ぐのだろう、ミーシャの目が輝いた。


「はい、どうぞっと。それで、魚とか貝が採れたらこのネットをベルトで腰につけて・・・」


 俺がいろんな道具を出すと、目を輝かせた少女たちは海女の集団となって再度海へと突っ込んでいった。


 ―やっぱり俺の想像したバカンスとは違う・・・、だけど、みんなすごく楽しそうに笑っている。何といっても、それが何よりですな。

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