第57話Ⅰ-57 換金と配分

■シグマの町


バーンの北にあるシグマの町はバーンへの最終拠点としてそれなりに栄えている。

前回ランディの護衛のために泊まった時には立ち寄らなかったギルドへ行って、精算してもらうついでに、この世界の服を何点か買い揃えておくことにした。


マントで目立たないとはいえ、カーゴパンツやTシャツ類はこの世界に存在しないので何処で目を付けられるかわからないからだ。

俺以外の3人にも好きな服を買ってもらった。

サイズが大小の2種類しかないズボンは腰で紐を縛るようになっているタイプで長い裾は折ったり、切ったりするようだ。

シャツのようなものは丸首に切り込みが縦に入ったプルオーバータイプが多かった。

デザイン的な発想は無いようだ、色は何種類かあるがくすんだ色が多い。

サリナが欲しがった真っ白のTシャツというのは、ここに並べば非常に綺麗に見えるだろう。


お代は全部で銀貨1枚と銅貨7枚だった。

高いか安いかは全然わからない。この世界の金は地図、魔獣解説書、宿代ぐらいしか使っていないから、手元には金貨が40枚ほどある。

むしろ問題なのはこれから行くギルドだろう。


■シグマのギルド


ここのギルドはこぢんまりとしていた。もっとも、バーンのギルドを見たからそう思うのかもしれないが、ホールの食堂にも一組しか座っていない。


笑顔で迎えてくれた受付のお姉さんに青く色が変っている組合員証を見せると、顔を引き攣らせてすぐに奥へすっ飛んでいった。

来る前に予想は付いていた、既に累計の報奨金は金貨1,000枚を超えているのだ。

ここにある金貨では足りないのかもしれない。

ちなみに最も高額な報奨金はクレイジーライナーで金貨50枚、最も多く倒したのは赤ムカデで68匹を倒していた。第一迷宮で虫を何匹殺したかなんて、全く興味が無かったが記録上ではそうなっている。


「サトル様、奥の部屋で組合長がお話しをしたいと言っていますので、お越しいただけるでしょうか?」


丁寧にご案内された奥の部屋は責任者の部屋のようだった。

奥にある大きな机から、背の低いあごひげを生やした男が立ち上がってくる。


「シグマ組合長のチャーリーといいます、かなりご活躍されたそうですな」


チャーリーは俺達へ打ち合わせテーブルにある長いすを勧めてくれた。


「ええ、移動する度に魔獣に襲われて、気が付いたらこれだけの数になっていたみたいです」


全て真実だ。


「これだけの数をお一人で倒されたのですか?」


「いえ、パーティー登録を忘れていたのですが、この4人で倒したものです。報奨金は公平に分配するつもりです」


「なるほど、4人でしたか。それにしても・・・、クレイジーライナー、ホーンティーガーを両方倒した方々を目にするのは初めてです。何か秘訣があるのでしょうか?」


「それは、秘密ですね。教えることは出来ません」


「それはそうですな、失礼しました。そこで、二つ相談があるのですが、一つはこれだけの金貨をすぐに用意するのは難しいので、とりあえず金貨500枚だけ用意させていただいて、残りは後日、あるいは別の組合で受け取っていただけないでしょうか?」


「構いませんよ、ですけど金貨50枚は銀貨490枚と銅貨100枚に崩して置いてください」


「それは、できると思いますが、重くなっても大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です、力持ちが居ますから」


俺は笑顔でハンスを見た。


「わかりました、もう一つのお願いですが、クレイジーライナーとホーンティーガーの角を持ち帰られているのでしたら、私どもの組合に譲っていただけないでしょうか?」


あの角か、解体しないといけないな。


「お値段次第ですね、幾らで買っていただけるんですか?」


「・・・、クレイジーライナーは金貨150枚、ホーンティーガーは1頭あたり金貨200枚でいかがでしょうか?」


ミーシャを見たが、小さく頷いてくれたので妥当な金額のようだ。

全部で金貨950枚! って大金なんだろうな。


「いいですよ、ですけどまだ角が切り離せていないので、今日お渡しするのは難しいですね」


「ありがとうございます、こちらも金貨の用意が必要なので、1週間ほどお待ちいただければ助かります」


「では、そのぐらいでここに立ち寄るようにしますので、よろしくお願いします」


そのまま組合長の部屋で待っていると、麻袋に入れた硬貨を受付のお姉さんたちが手分けしてドッサリもって来てくれた。

念のためその場で数を数えたが、ちゃんと金貨500枚分の硬貨があった。

別に疑っているわけではないが、親が銀行員だった俺は子供の頃から『現金その場限り』と教育を受けている。


ハンス達と精算をしたかった俺はそのまま組合長の部屋を貸してもらうことにした。

チャーリーは笑顔で承知して、すぐに部屋を出て行ってくれた。


「じゃあ、金貨150枚を俺、サリナ、ミーシャで分けて、残りの50枚をハンスで良いかな? 何処で倒したヤツかが判らないんだよね。ハンスは最初の迷宮の時は居なかったし、攻撃に参加できないから少なめだけど良いかな?」


「少ないなどと、金貨50枚あれば・・・働く必要が無いほどの金額です。いただきすぎだと思います」


日本円では500万円ぐらいと検討をつけているが、それだけで生きていけるのか?


「私もそれで良いが、本当に良いのか?私が昨日倒した分は私の報奨となっているのだから、やはり、もらいすぎだろう。別に無くても構わないぐらいだ」


「サリナは要らないけど、お兄ちゃんが要るならお金を渡してあげたい!」


殊勝な心がけだが、こいつは俺に食わせてもらうことが前提のような気がして、チョットいらつく。


「俺も、お金は今のところ使い道が無いんだよね。ハンスはこれから旅でお金が要るでしょうから、やっぱり持って行ってよ。そのうち、何かで返してくれればいいからさ。ミーシャとサリナは少しだけ手元に持って置いて、残りは俺が預かっておこうか?」


「かたじけない、ではサトル殿のご好意に甘えさせていただきます」


「私はそれで構わない」


「サリナも大丈夫♪」


二人とも強欲なことを言わないのは素晴らしいことだ、だが俺が預かっている状態をしっかり理解させるにも良い機会だ。


「念のために言っておくけど、預かっている物とかお金とかは無くなったりはしないけど、俺が死んだら取り出せないからね。念のために伝えておくけどさ」


「「?」」


大事な物をストレージで預かれば、俺を守ってやろうという動機付けになるかもしれない。

間違って後ろから焼かれないようにしないとね。


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