第56話Ⅰ-56 次の迷宮

■第3迷宮 北の荒野


バーベーキューセットを片付けた後はキャンピングカーに戻って、アイスクリームをサリナ達に出してやった。

いつものように俺が食うのをまずは見ている。

紙カップの高級アイスクリームをアイスクリーム専用スプーンですくって口に入れる。

美味い、冷たさが甘さに変って控えめのバニラ味が口の中でとろけて行く。


黙って見ていたサリナが最初に挑戦した。


「痛い! 違う・・・甘い! 美味しい! 最初は口が変だけど・・・甘い!!」


どうやら、冷たいと言うのが理解できないのかもしれないな。


ミーシャも一口味わって、その後はスプーンが回転し始めた。

サリナは既に食い終わって俺を見ていた。


「まだ、食べたいのか?」


「うん、もっと欲しい!」


三人にもう一つずつ出してやった。

ハンスは当然だろうが少女二人も良く食べる。

ミーシャはあの細い体の何処にはいるのだろうか?

俺の倍は肉も食っていた。


「それで、ミーシャは神の拳って言うのが見つかるまでは迷宮を回るつもりなの?」


「そうだ、サトルが同行してくれるのならそうしたい」


これ以上回るとなると、炎の獣爪団の縄張り以外に行かないといけない。

一番近いのは4番目の迷宮だが、ここから南西に3時間ほど移動することになる。

『緑の堅鱗団』の縄張りになっている場所だ。


「ハンスは残りの迷宮のことは何か知らないの?」


「はい、残念ながら他の旅団の縄張りの中は全然わかりません」


情報が無いまま行くのはリスクがあるが・・・、いつものことだな。


「それに、私が赤以外の縄張りに入るのを見られるとかなり問題になるでしょう。場合によっては旅団同士の抗争になりかねません」


「それじゃあ、魔法具探しはあきらめます?」


「・・・勝手なお願いで申し訳無いのですが、私抜きで行っていただけないでしょうか? サトル殿とミーシャ殿がいれば魔獣は倒せると思います。それにサリナも先ほど教えていただいたロッドの使い方があれば充分お役に立てるはずです」


確かにハンスは今のところ戦力になっていないのは事実だが。

少し釈然としない気がする。


「仮にそうするとして、ハンスはどうするの?」


「私は王都に向かおうと思います。見つけた魔法武具を使いこなせる人間を知っている者に当たってみます」


炎の刀を使える人ってことか。


「サリナはお兄ちゃんと離れても平気なのか?」


「うん!だってサトルが一緒でしょ?」


知り合って1週間ほどだが、えらく信用されたものだ。

世間の厳しさを教えるためには、どこかで狼になってやらないと。


「ミーシャは緑の堅鱗団のことは何か知ってる?」


「いや、詳しくは知らない。だが、3つの旅団の中では最も縄張り意識が強いらしい。私は一人で行くなら緑は避けようと思っていた」


だったら、もっと遠いけど第2迷宮から先に行くべきか?

そっちは白の刃牙団の縄張りでここからだとバーンを挟んで反対側になる。

しかし、いずれにせよ全部回るのなら・・・

あれ?いつの間にか俺自身がやる気になってるな・・・

なんにせよ、緑の縄張りもいずれは避けては通れないのは間違いないだろう。


「じゃあ、まずはハンスを町まで送りましょうか? バーンとシグマだったらどっちが良いですか?」


「バーンで赤の獣爪団に見つかると困りますので、シグマから乗合馬車で移動したいと思います」


「じゃあ、明日シグマまで送っていこう。シグマまで行けば第2迷宮も第4迷宮も距離が変わらないから、白の縄張りにある第2迷宮から行ってみようか」


「私はサトルの考えで構わない」


「サリナはサトルについて行く!」


「ありがとうございます、サリナの事をよろしくお願いします」


「それで、もし魔法具が見つかったらどうしましょう?サリナに持たせて王都に行かせれば良いですか?」


「いえ、そのまま預かっておいていただければ結構です。私への連絡はギルドから王都のイースト商会宛に送っていただければ届きます。私からの連絡はバーンのギルド経由でサトル殿にお送りします」


ギルドは手紙も預かってくれるのか。


「ハンスはイースト商会と親しくしているのか?」


「はい、商会主は我々と同じ志をお持ちです。ミーシャ殿もイースト商会とご縁があるのですか?」


「この国でイースト商会を知らないものはいないだろう。ドリーミア全体で商売をしているのだからな。もし、ハンスが親しくしているなら、内密でイースト商会に探して欲しいものがあるのだ」


「内密で探して欲しいもの・・・、どのようなものなのでしょうか」


「オールドシルバー・・・、銀色の巨大狼だ」


「オールドシルバー? 初めて聞きますが、魔獣の一種でしょうか?」


「違う! 魔獣ではない! シルバーは・・・、神獣の一種だろう。何百年、いや、何千年も生きている狼で人とエルフと平和に暮らしている固有の狼なのだが・・・、私のせいで人に捕らえられてしまったのだ」


「ひょっとして、ミーシャがお金を必要なのはその狼を取り戻すためなの?」


俺は以前からミーシャが金を必要とする理由が気になっていた。


「そうだ、本来は売り買いして良いものではないが、捕らえた奴らは金でどこかに売ったはずだ。ならば、金で買い戻せるかもしれんからな」


「そのシルバーっていう狼はミーシャにとって大切なものなんだね」


「ああ、私の命と引き換えでも構わない」


すぐに命を差し出すのはエルフの癖なのか?


「ミーシャ殿、わかりました。イースト商会が取り扱ってたとは思いませんが、何か情報を持っていないか聞いておきます。何かわかれば手紙でお知らせします。」


「助かる。その代わりではないが、魔法具はこちらでサトルと探しておこう」


なんか勝手に話が進んでるけど俺へのご褒美は全然無いな。

まあ、既に俺自身が迷宮チャレンジに嵌りつつあるのは間違いないけどさ。

それでも、ミーシャのためなら俺は頑張れる!

ん? サリナの魔法具?

そっちも程ほどに頑張るつもりだ。

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