第58話Ⅰ-58 第2迷宮前夜
■バーン北西の荒地
シグマの町でハンスと別れた俺達はピックアップトラックで3時間ほど南西に走った所を野営地に決めた。
白の
だが、森林の中は視界が遮られて野営をするのは不安だ、視界を確保できる森の10km以上手前の荒地でキャンピングカーを呼び出した。
まだ15時過ぎだったので、夕食前に解体作業を始めることにした。
高額商品の角を忘れないうちに外しておくべきだろう。
ストレージからクレイジーライナーを取り出して荒地に置く。
「ミーシャは角を外したことがあるの?」
「もちろん無い」
自信満々に言われても困るんですけど。
仕方ない、現代技術を駆使するしかないだろう。
まずは着替えることにしよう。
ストレージからゴム長靴、ジャンプスーツ、ゴムエプロン、ゴム手袋、フェースマスクを二つ用意した。
俺は外で、ミーシャは車の中で着替える。
荒地にたたずむ変な格好のやつが二人並んだが、電動のチェーンソーと電動ハンマーで作業に取り掛かることにした。
最終形が判らないまま着手するのは不安だが、要するに角を取り外せばよいはずだ。
ライナーの角は長さ1メートルぐらいある立派な物だが、とりあえず50cm以上の太さがある根元にチェーンソーを当てていくと、思ったより簡単に切れていく。
あっという間に取り外すことが出来たので少し拍子抜けした。
角とライナーをストレージの『エモノの部屋』に戻して、今度はホーンティーガーを荒地に並べた。
ライナーと同じように角の根元ににチェーンソーを当てると高速で回転する刃の音が顔に当たった瞬間に低くなり手にゴツゴツする衝撃が伝わってくる。
だが、チェーンソーの刃が全然奥まで入っていかない。
ライナーより角が堅いようだ。
電動ハンマーに持ち替えて、角の付け根になっている頭蓋骨にノミをあてて削るようにしてみた。
ノミの刃が上手く噛み込むと骨が割れた感触があり、角の下に穴が開いた。
同じ要領で角の回りに穴を開けていき、角がぐらつくようになったところで、手で取はずした。
骨は頭蓋骨の一部と一緒に綺麗に取り出せた。
頭蓋骨は要らないかもしれないが、足りないより怒られることは無いだろう。
やり方がわかったので、残りはミーシャにやってもらおう。
「残りはミーシャがやってみてよ、やり方は俺が教えるから」
「わかった、どうすれば良いのだ」
俺は電動ハンマーの持ち方を教えてやり、後ろに回って一緒に電動ハンマーを持ってから骨を砕き始めた。
結果的にミーシャを後ろから抱きしめることになったが、あくまで結果的にだ。
抱きしめられたハーフエルフは嫌がりもせず無反応でしたけど。
すぐに骨に穴が開いたので、後は同じ要領でミーシャにやってもらった。
解体作業を手伝わせる必要は無いのだが、手伝わせたのはセクハラが目的ではない。
お金の半分はミーシャに渡すつもりだから、参加した方が受け取りやすいだろうと思っただけだ。
本当は全額渡しても良いのだが、プライドを傷つけるような気もする。
サリナは言われた通りに回りをキョロキョロ見回して警戒してくれている。
今のところ、危ないヤツは近寄っていないようだ。
俺はミーシャの解体作業を眺めながら晩飯を何にするか考えていた。
だんだん、母親の気持ちが判るようになって来た。
現世の両親は共働きだったが、母親は夕飯を作ってくれていた。
食べたい物を聞かれると『何でも良い』と答えていたが、『何でも良いが一番面倒』と母親は言っていたのを思い出す。
たしかに、何を食うかを考えるのは選び放題でも面倒なものだ。
喜ばせたいと言うプレッシャーもあるし。
自分ひとりならカップラーメン続きでも抵抗は無いが・・・
そうだ!今日は中華にしよう!
§
キャンピングカーのテーブルには、中華街から取り寄せた麻婆豆腐、
「その白い小さいやつは、小さい皿のタレにつけて食べてみて。匂いが気になるなら食べなくても良いからね」
いつものように二人は俺が食べるまでは手をつけない。
オアズケを教えたわけではないのだが・・・
回鍋肉から手をつけてみた、キャベツと豚肉に味噌が絡んで美味い。
「これも甘くて辛いけど、焼肉とは違う甘さ!?でも凄く美味しい、葉っぱも美味しい!」
サリナは口の周りに味噌だれを垂らしながら興奮している。
そう、回鍋肉はキャベツが美味いんだよね。
続いて俺がエビチリを食べたが、二人は手をつけない。
「サトル? この赤いのは何なの?」
「それは、チョット辛いエビだな。赤いところを舐めてみて辛かったら食べない方がいいよ」
俺の口には最高の辛さだが、お子ちゃまには難しいかもしれない。
サリナが気に入り、ミーシャはもう一つだったようだ。
ミーシャは辛めのマーボウ豆腐が気に入ったようだから、辛いのが全部ダメではないみたいだ。
餃子は匂いを気にせずに、二人ともバクバク食っている。
車の中がニンニク臭くなるだろうが、消臭剤で解決しよう。
追加の回鍋肉、餃子を出してやりながら、二人に次の迷宮の話をする。
「明日の迷宮もミーシャが先頭で行こう。それと、サリナも敵を見つけたら遠慮なく炎で焼いて良いからな。俺は後ろの警戒とデカイのが出たときに対応する。それから、曲がり角では必ず一旦止まってくれ」
「承知した」
「まかせて♪ 全部焼いちゃうから!」
「調子に乗って、俺たちを焼かないようにしてくれよ」
「大丈夫、そんなことしないから!」
返事は良いが、本当に大丈夫だろうか?
こいつが持っている道具の威力を理解していると良いのだが。
§
食事の後は明日の迷宮に備えるために、魔獣解説書で森に出てくる獣を確認することにした。
一番やばそうなのはグリズリーだ。大きいのは5メートルぐらいになるそうだ。
後は、イノシシ、狼、蛇、ムカデ・・・、ここにも蜘蛛がいるようだ。
この世界の魔獣では角が流行っているのだろうか?
やたらと角が付いているヤツが多い。それに、頭が二つあるヤツ・・・気にしないようにしよう。いずれにせよ、森の中では銃は弾数よりも威力重視が大事なようだ。
ミーシャとサリナに矢に矢じりを付ける作業を教えてから、武器の部屋で明日の準備を始めることにした。
アサルトライフルは口径の大きい7.62mm弾が使えるものにして、グレネードランチャーもセットする。
5メートルの熊は銃弾では止まらない可能性が高いから、6連発のランチャーも3つ並べておいた。
装填されたマガジン、手榴弾、スタングレネード、発炎筒等も十分に並べておく。
いつの間にか迷宮探索が楽しくなってきているが、不安が無くなったわけではない。
ケガはしたくないし、死ぬのはもっといやだ。
備えあれば・・・ということだな。
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