第59話Ⅰ-59 第2迷宮への森

■バーン 西方の荒地


朝日が昇る前に朝食を取った俺たちは、日の出と共に4輪バギーにのって南の森へ向かった。

朝食の時にバギーを運転するサリナには二つ指示を出しておいた。


森の中はゆっくり走ること。

魔法を使うときは合図を出すこと・・・


「どうやって合図を出せばいいの?」


「叫べよ、『ファイア!』って」


「ふぁいあ? うん、わかった!」 


意味は理解できないだろうが、雰囲気作りと心の準備だ。

黙って魔法を使われるとこっちまで驚いてしまう。


バギーが森に入る少し前に、俺達を歓迎してくれるヤツをミーシャが見つけてくれた。


「木の上に、何匹かいるぞ」


俺には何も見つけられないがミーシャには見えているようだ。

バギーが森まで50メートルぐらいになったところで後部座席から降りて矢を放った。

茶色い塊が木の上から落ちるのが見える。


俺もバギーから降りて歩きながら木の上を探すと何匹もいるのがアサルトライフル越しに見えた。

だが、木の上を素早く移動していて中々狙いが付けられない。

ミーシャはどんどん矢を放っている。

確実に木の上から落ちていく。


出遅れた俺はショットガンに換えて、見つけた瞬間に撃ちまくることにした。

森の中に轟音が連続して響く、当たって弾き飛ばされたやつが地面に落ちてくるが致命傷にはならない、地面を走って逃げていく。


20発ほど撃つと頭上に動くものは見えなくなった。

ミーシャがしとめて地面に転がっているのは猿だ。

かなり大きい猿だと思う、俺の肩ぐらいまでの背丈はあるだろう。

大きさよりも問題なのは頭だ、肩の上に二つ付いている。

食い物を見つけたときに喧嘩にならないかと思うが、鋭い牙を出した顔が両肩の上に乗っかっている。

図鑑では凶暴で牙も爪も危険な魔獣と書いてあった。


俺とミーシャは地面のツインヘッドを置き去りにして、ゆっくり走っているバギーにもう一度乗った。


10分も行かないうちにミーシャが次のお客を見つけてくれた。

俺には全然見えないが、200メートルほど向こうに10頭程の狼達がいると言う。

100メートルを切った所で、またバギーから降りて矢を放った。

相変らず流れるような動作だ。


降りる時には矢を弓に当てて、降りた途端に引いたと思えばすぐに矢を放つ。

俺が矢の行方を見ている間に次の矢が飛んでいく。


ええ、既に俺は要らない子になりつつありました。

視力の問題なのだろうか?

ミーシャには俺には見えない何かが見えているようだ。


矢が届いたところに着くと、目を射抜かれた角のある狼が2頭倒れている。

俺がエドウィンで狩ったヤツの2倍ぐらいの大きさだ。


「ミーシャは獣をどうやって見つけているの?」


「目と耳、そして匂いだな。それ以外に気配というか、空気の揺れでも感じられるぞ。サトルは判らないのか?」


「・・・うん」


「そうか、これは経験だな。森で5年ほど毎日狩りをすれば判るようになるはずだ」


-5年ですか!?


銃を持って1ヶ月の俺では太刀打ちできないことがわかったので、後方の警戒に意識を向けることにした。


この国の森は日本の山林のように起伏がある場所は少ない。

俺が最初に飛ばされたところもそうだが、大きな木が間隔を置いて生えていて下草も少ないからバギーでもゆっくりなら問題なく走ることができる。


ミーシャはバギーに乗らずに弓矢を持ったまま小走りで付いてくる時間が長くなった。

何かを見つけるたびに矢を打っていくが全然外れない。

エルフマジックだな。

更に南へ1時間ほど進んで、ミーシャに追加の矢を渡してやっている時に大物が現れた。


「大きいのがくるぞ!」


ミーシャが教えてくれたが、今度のは俺にも聞こえたし、見えた。

弓を構えている方から来るのは巨大なイノシシだ。

やっと俺も参加できる。


俺はグレネードランチャーをストレージから取り出し、ほぼ水平方向に擲弾てきだん-手榴弾のような物-を放った。


イノシシの5メートルぐらい手前でバウンドした擲弾てきだnはドンピシャのタイミングでイノシシをふっ飛ばしてくれた。

轟音とあわせて肉片と砂埃が舞い上がる。


そいつは顔が半分になったまま走り続け、立ち木にぶつかってようやく横倒しになった。

近寄ってから、アサルトライフルでトドメを刺しておく。

こいつも前回のマッドボアの比ではない大きさだった。全長3メートル近いだろう。

牙は上下に長いヤツが口から飛び出している。


その後もほとんどミーシャ様の力で魔獣を倒しながら進んでいった。

野営地から2時間ぐらいで、ようやく第2の迷宮が見えてきたようだ。

高い木の間から見えてきたのは丸い塔のような物で第一迷宮よりは高さは低く見える。


「止まれ」


塔まで500メートルぐらいの場所で、ミーシャがサリナにバギーを止めさせてから周囲を見渡した。


「多いな、前に2匹と右に1匹いる。かなり大きいぞ」


-大きい、グリズリーか!?


「一番近いのはどっちなの?」


「右だな、だが私達の後ろに移動しようとしているようだ」


-囲む知恵があるのか!?


「じゃあ、その右のヤツを先にやろう。サリナ、バギーを右に回して」


「わかった!」


俺とミーシャはバギーに乗らずに、ミーシャが指し示す右後方へ姿勢を低くして、歩き出した。

俺は手にグレネードランチャーを持っている。


そいつは200メートルほど向こうの立ち木の中に現れた。

やはり熊だ、しかも解説書どおりにデカイ。

今は四足だから俺達と高さが変らないが、立ち上がったら壁みたいに感じるだろう。

俺はグレネードランチャーを下において、7.62mmの狙撃銃を使ってフルオートで連射した。

サプレッサーで抑えられた発射音にあわせて弾が熊に吸い込まれていくが、怒らせただけのようだ。

こちらに向かって四つ足で走り出してきた。

すぐにグレネードランチャーに持ち替えて発射する。

軽い炸裂音の後に放物線を描いて擲弾が飛んでいったが今回は届かなかった。

熊のかなり手前で爆発して更に相手を怒らせた。四つ足で加速して突っ込んでくる。

もう少し、狙いを下げて2発続けて放った。

1発目が熊の直前で炸裂したが相手はタフだった。

轟音と爆風で傷だらけの体でこちらに向かってくる。

ミーシャの矢で片方の目を射抜いたが、それでも止まらない。


-落ち着け俺


少し恐怖心が芽生えたが、弾道を下げて2発放った次の擲弾で走ってきた前足が半分吹っ飛んだ。

さすがに立ち上がれなくなった、近づいてアサルトライフルでトドメを刺しておく。


改めて見るとその大きさに驚く、前足だけで俺の胴体ぐらいはあるのだろう。

頭には飾りじゃない2本の角が左右から水牛のように生えている、人間なら引っ掛けられただけで死んでいるかもしれない。

突っ込まれても、立ち上がられても危険な魔獣だ。

せっかくなので、大物記念にストレージに入れておくことにした。


「ミーシャ、他の2匹は近づいてきてないかな?」


「今は大丈夫だ、大きな音で遠くに行ったようだ」


ひとまずは安心だが、こんなのに囲まれるとこっちが狩られる。

やはり、先に倒してから進むべきだろう。


「ミーシャ、このままだと危ないからこっちが先に見つけよう」


「わかった、狩りをするのだな。任せておけ」


ええ、探すのはお任せします。

今度は撃つのが俺だけどね。

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