第60話Ⅰ-60 第2迷宮 前編
■第2迷宮 近くの森の中
ミーシャは熊の口の中に手を突っ込んで、唾液を三人のヘルメットと足に擦り付けた。
ヘルメットから獣臭が濃厚に漂ってきて少し気分が悪くなる。
「これで、少しは匂いをごまかせるはずだ。だが、風下に回りこむ必要がある」
バギーはストレージに収納して、ミーシャを先頭に森の中を低い姿勢で移動し始めた。
俺とサリナは音も立てずに進んでいくミーシャの背中を必死で追いかける。
20分以上歩いたが、どうやらミーシャは半円を描いて風下に回りこみたかったようだ。
「3匹はいるのがわかったが、もう少し居るのかもしれない。それで、どうするつもりなのだ?」
「見える位置になったら教えてくれれば、1匹ずつしとめていくよ」
「わかった、付いて来い」
ミーシャはさっきより腰を落として、森の中をゆっくり進んでいくようになった。
森の中には静寂が広がっていて、鳥のさえずりも聞こえない。
足元で音を立てないよう注意しながら俺とサリナはミーシャに続いた。
しばらく歩くとミーシャが右手の肘から上を立てて、止まるように合図した。
俺が横に行って指す方向を見ると横向きで歩く巨大熊が見えた。
双眼鏡で距離を測ると320メートルだった、向こうが少し上った斜面でちょうど良い感じだ。
ストレージから50口径の対物ライフルとマットを取り出して伏射の姿勢をとる。
500メートルにセットしたスコープを補正して十字線でエモノを探す。
見つけた・・・、首の付け根辺りが十字線に重なった瞬間にトリガーを引く。
サプレッサーでは押さえきれない12.7mm弾が発射される轟音が静かな森の中で低く響きわたる。
スコープの中の熊は痺れたような動きをした後に地面に倒れて動かなくなった。
一発でしとめられた様だ。
この銃は100メートルの距離からなら、厚さ4cmの鉄板を打ち抜くことができるスペックだ。銃弾が体に入れば、5メートルの熊でも高速弾の衝撃波で体内が引きちぎられただろう。
結果を見届けたミーシャは、静かに右方向へ移動を始めた・・・
その後もミーシャに連れて行かれるまま、対物ライフルで熊をしとめていった。
結局2時間近く狩りをすることになり、追加で5匹をしとめた。
「おそらく、近くにいるやつは仕留められた筈だ」
「じゃあ、遅くなったけど迷宮に戻ろうか? 熊以外には魔獣はいないかな?」
「森は大丈夫だろう、あの熊たちに近寄る獣はいないからな。迷宮には何かがいるが行ってみないとわからない」
§
たどり着いた第2迷宮は森を円形に切り開いたような場所に立っていた。
近づく前に森の木の間を通って周囲を一周したが、野球場よりも広い空間が切り開かれているようだ。
塔自体は今までの迷宮と同じように土で作ってあるもので、高さは30~40メートルぐらいとそれほど高くもないし、塔の中も広くは無さそうだ。
だが、少し離れた木の陰から覗いているだけで、いくつかの問題があることがわかった。
まず、塔の周辺を大きな鳥が何羽も飛んでいる。
大きさ的に人を掴んで飛べるサイズだろう、気持ちよさそうに飛んでいるが趣味で飛んでいる訳はない、必ずエサを探しているはずだ。
さらに塔は堀のようなもので周囲を囲われていた。堀の中に何がいるのかここからでは判らないが、堀の向こうに見えている塔の開口部までは10メートル以上ある堀を越えるか、堀に下りるかしなければ、たどり着けそうに無い。
それ以外にも、見上げた塔の上のにある開口部が外側の庇のようになっている部分に繋がっている。あの
-俺には絶対無理! マンションの廊下もあんまり好きじゃないのに・・・
俺は下から見ただけで、お尻がヒヤッとする間隔を味わっていた。
最後はいろいろな要素が絡み合った結果なのかもしれないが、あたりには人間の死体や人骨が散乱しているということだ。骨には服や肉が付いた物が多いから、何年も前の話ではない。ここは獣たちの狩場になっているのだろう。
「ミーシャ、上と周囲に警戒しながら堀まで行ってみよう」
「承知した」
「サリナは後ろから何か来ないか見ながら付いてきて、何かいたら遠慮なく焼いていいから。それと、合言葉を忘れずにね」
「わかった! 『はいあ』ね!」
「いや、『ファイア!』だ」
ぶつぶつと口の中で練習し始めたサリナを連れて、森から開かれた場所へ出た。
俺はショットガンを持って、上を見ながらミーシャについて行く。
飛んでるヤツらは、一瞬で俺達を見つけた。
2羽が急降下してくる。
俺は引きつけてから、ショットガンでバードショットを10発ほど連射した。
耳元で飛んでいく空薬莢と合わせた轟音が連続して響き渡る。
開いた羽に多くの散弾が叩き込まれて2羽とも姿勢を崩して地面に落ちてきた。
地面に落ちたところをミーシャが矢で止めを刺す。
まだ3羽飛んでいるが、発射音と地面に落ちた2羽で警戒したのか、ゆっくりと上空で旋回を続けている。
上と足元を交互に見ながら、堀まで近づいて堀の中をチラッとみた。
堀には水が入っていなかったが、深さは5メートルぐらいある。
そして、底にはウネウネとしたムカデが這い回っている。それも過去最大だろう10メートルぐらいはあると思う。
なるほど、こいつらを何とかしようと準備をしていると、上からフォレストイーグルと、後ろからキラーグリズリーが来るのだろう。
一気に片付けなければ危険なコンボだ。
「サリナ、下のムカデを全部焼いてくれ!」
「下の・・・、ウワァッ気持ち悪い!」
サリナはロッドを持ち上げて目を瞑ってから叫んだ
「ふぁいあ!」
ロッドの先から強烈な風を噴出す炎が走り、堀の底でうごめくムカデたちが火炎の中で死のダンスを踊る。見える範囲のムカデが動かなくなった。
「よし、付いて来い、下のヤツは全部焼いてくれ」
俺は上空にショットガンを向けたまま堀の回りを歩き出した。
サリナは動くムカデ集団を見つけると確実に焼き払っていく。
3人で堀の回りを一周し終えると、焼け焦げる強烈な異臭が堀から漂って来た。
堀の中に動くムカデがいないことを確認してから、7メートルあるアルミ製はしごをストレージから取り出して堀の中に下ろした。
俺がショットガンで上を警戒する間にミーシャが先に下まで降りた、サリナ、そして俺が続いて降りて、堀の反対側へはしごをかけて上り、迷宮の入り口部分まで走った。
外から覗いた迷宮の中はほぼ四角い部屋だった、突き当たりに登る階段が見えるが、特に魔獣が居る様子も無いのでライトをつけてからミーシャに続いて中に入る。
見上げた天井部分は吹き抜けになっている、かなり上の階層まで突き抜けているようだ。
壁や床には絵や記号なども無く、登る階段以外には出入り口も見当たらない。
昇るしかないのだろう、俺たちはミーシャを先頭に上の階を目指した。
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