第139話Ⅰ-139 風の国の王宮 

■風の国王都ゲイルへ向かう街道


 サリナの派手な魔法による出陣式を終えて、俺は大型ピックアップトラックの荷台に領主を積み込んだ。もちろん、素っ裸で檻に入った状態だ。少し人数が多いがベンチシートになっているので何とか前後に3人ずつ乗れた。何故かシルバーも自分で荷台に乗ってきたが、下す必要もないだろう。


 街道を進むと途中で領主の息子達がラプトルに引かれていた。売られていく子牛の歌を思い出して一人でほくそ笑みながらしばらく後ろを走って、追い抜ける場所で追い抜いた。あのスピードなら3日以内にゲイルまで到着可能だろう。


 俺は今日中に王宮へ乗り込むつもりで車を加速させた。


 §


 途中で1度だけ休憩して車で走り続けると、前方にゲイルの町が見えてきた。この町に入るときにも兵士が市税を徴収している。だが、俺は税金を納めてやる気分ではなかった。俺の大型馬車を見つけて、兵士たちは槍を持ち出して道を塞ごうとしたので、クラクションを鳴らしっぱなしで突っ込んで行く。


 兵士たちは少しの間考えたが、見たことの無い馬車は止まらないと判断したようで、左右に避けてくれた。根性のある兵士が居なかったおかげで人を撥ねずに済んだ。


 王宮は町の大通を北に上がったところにあるとハンスが教えてくれたので、指示通りに車を走らせる。街中で車を見た人間は驚いて蜘蛛の子を散らしたように逃げて行く。5分も走らないうちに王宮が見えてきた。領主の屋敷を大きくしたような造りだ。城では無く平時に使う宮殿だから城壁も掘も無い。大きな鉄製の門は開けっ放しで、衛兵が槍を持って立っているだけだ。


 車を見た衛兵は不穏な空気を察したようだ。根性を出して槍を持って門の前に並んでいる。


「お前たち、止まらぬか!!」


 残念だが止まるつもりは無かったので、スピードを落として兵士たちに車をぶつけた。兵士達は悲鳴を上げながら両側に飛んで行ったので、そのまま綺麗な花壇で両側が整備された宮殿の敷地内に突入する。兵士たちは大声で叫んで追いかけてくるが、置き去りにして門から100メートル程先にあった宮殿の玄関前に車を横付けした。


 宮殿の玄関前にも4人兵士が居て、騒乱に気が付いて剣を抜いて車の方に来ようとしていた。車を降りてショットガンを玄関前の兵士に連射する。宮殿前で俺のショットガンの轟音が何度も響き渡った。粒弾はゴムの暴動鎮圧用に変えてあるので死なないはずだが、当たった兵士は弾かれたように倒れて行く。追いついてきた兵士もショットガンで弾き飛ばす。倒れている兵士は俺とサリナがスタンガンで片っ端から無力化していく。


「リンネ、こいつが俺の後ろをついて来るようにしてくれ」


 俺は絶賛大好評中のラプトルをストレージから出してやった。


「わかったよ。終わったら、あたしは宮殿の外に出とくんだよね」

「そうだ、ハンス達とこの間泊まった宿で合流してくれ」


 ハンスとショーイは町に入る手前で車から降ろしている。ハンスは目立つので、連れて来ない方が良いと思っていたし、ショーイのことを俺は信用していない。


 荷台に上ってシルバーを押しのけながら、檻の鍵を開けて領主を引っ張り出す。足や尻が青あざだらけで、かなり辛そうだ。クッションの無い荷台の檻に入れておけば当然の結果だろう。


「おい、今から王様の所に行くぞ。自分の足で歩け!」

「ゆ、許してくれ。足が痛くて・・・」

「ここで死にたいのか? それとも死ぬほど痛い思いをしたいのか?」

「わかった・・・」


 全裸の領主を先頭に玄関へ向かおうとしたが、宮殿の大きな扉が開いて大勢の兵士が出てきた。俺は躊躇せずにショットガンを連射していく。32発のドラムマガジンが空になった時には立っているやつはいなかった。倒れている兵士達は全員顔を押さえて悶えている。素早く近寄ってスタンガンで無力化していく。


 宮殿の扉は両開きで高さが3・4メートルはあるが、鍵はかかっていなかった。念のために、スタングレネードのピンを抜いて中に投げ込む。爆音と悲鳴が扉の向こうから聞こえたので、領主を引き摺って宮殿の中に入った。煙が立ち込める玄関ホールには耳を押さえた兵士達が10人ほどいたが、ふらふらしている奴らをショットガンで倒してからスタンガンで制圧していく。


 全員が床で伸びたところでガイド役の領主を使うことにする。


「王はいつも何処にいるんだ?」

「それは、知らん。わしと会う時はいつも応接間を使っておった」


 -使えないガイドだ、兵士を一人ぐらい話せるようにしておくべきだったか・・・


 次に出会ったやつを確保することに決めて、一階を制圧していくことにした。宮殿の廊下は左右と正面の3方向に伸びている。まずは正面を攻めてみることにして順番に扉を開けると、応接間、食堂、サロンと無人の部屋が続いた。一番奥の広い部屋は厨房で、調理台の後ろにコックが大勢隠れていた。


「逆らわなければ何もしませんが、王様がどこにいるか教えてくれますか?教えてくれないと後ろのこいつが皆さんを食い殺しますよ」


 俺は調理台の向こうまで回り込んでラプトルを紹介した。


「ひ、ヒヤァー、2階、2階にいらっしゃるはずだ」

「どうもありがとう」


 忠誠心の無い料理人から情報を引き出したので階段を2階へ駆け上がった。2階は左右に廊下が伸びている。右手の方に剣を持った兵士が大勢いるので、目的の場所がすぐにわかった。

 先頭の二人は刀を炎で纏っている魔法剣の使い手だが、距離は20メートル以上離れて・・・


「避けろ!」


 俺は男たちが剣を振り下ろすのをみて本能的に叫んで、領主を引き摺って壁に張り付いた。

 兵士達が振り下ろした剣から炎の刃がこちらへ飛んでくる。刃は壁際に避けた俺の横を通過してラプトルを直撃した。ラプトルは顔と胴体に大きな切り傷が新しく出来たが、微動だにしていない。


-炎の剣は飛ばすことも出来たのか・・・


 前方の奴らは精鋭部隊のようだ。こちらも攻撃力を上げる必要がある。


「サリナ、水の魔法をあいつらにぶつけろ! 死なない程度で!」


 サリナは頷いて水のロッドを兵士達に向けた。


「おーたー!」


 暴動鎮圧の高圧放水がロッドの先から迸って、立っている兵士達を守っている扉に叩きつけて行く。立て無くなった相手にショットガンでゴム弾を叩きこむ。念押しにスタンガンで制圧する。奴らが守っていた大きな両開き扉を引くと鍵か閂が掛かっていて開かない。扉の前に転がる8人の兵士を引き摺って移動させてから、扉の取っ手に攻撃用手榴弾を挟んで、ピンに釣り糸を結んだ。


 10メートルほど離れてラプトルの陰に隠れてから、釣り糸を一気に引っ張る。1.2.「3」で轟音と共に扉は部屋の中に吹き飛んで行った。


 いよいよ、使えない王様とご対面だ。強烈なお説教をお見舞いしてやるつもりだ。

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