第310話Ⅱ-149 再び神殿へ1
■エルフの里
女王が聞いた曖昧なご神託にイラつきながら里に戻ったが、神の導きはちゃんと用意されていた。少し遅くなった夕食をミーシャと一緒に食べるために小屋へ迎えに行くと、そこには巨大な狼が俺達を待っていてくれたのだ。
「シルバー! 久しぶりだな。お前いままで何処にいたんだ?」
返事は無かったが、ミーシャのベッドサイドでお座りして巨大な尻尾をぶんぶんと振って喜んでくれた。首筋に抱きつくと素晴らしい毛並みの心地よさが伝わって来る。
「お前たちがセントレアに行った後にここへ来てくれたんだ」
ミーシャもベッドに腰かけて、シルバーを撫でながら優しい笑みを浮かべている。体調もかなり良くなっているようだった。
「そうか、女王は神の導きがあると言っていたが、多分シルバーの事だろうな」
「導き?」
ミーシャに王宮での話を伝えると深くうなずいた。
「うむ。そうだろうな、オールドシルバーは神の使いだからな。・・・それで、お前はその灰色の先に行くのか?」
「ああ・・・、その件は皆で食事しながら話そうか」
エルフ達が盛り上がっている広場に行って、肉を食べながらこれからの相談をすることにした。ショーイとリンネは王宮に行っている間もエルフ達と楽しく過ごしたらしく、俺達のために肉を焼く係を担当してくれた。ママさんはキャンプ用チェアーに座りながら、缶ビールのプルタブを開けて一口飲んだ後に口を開いた。
「それで、明日からはどうするつもりなんですか?」
「神殿の森へ行きます」
「そうですか、この前とは大きく変化しているのでしょう?」
「ええ、神殿があった場所と同じはずなんですけど、環境が大きく変化しています。密林の中に危険な恐竜があふれ出しています。それに神殿も違っていました」
偵察で飛ばしたドローンのカメラにはラプトル以外の危険な恐竜が沢山写っていたし、ドローンは翼竜に叩き落された。それに遠くに見えている神殿の形も変化していた。
-神殿が巨大になっている。
「それで、神殿に乗り込むのか?」
「多分な、だけど、これから先はシルバーの案内に従うよ。なんたって、神の導きだからな」
「ふーん、まあ良いさ。今度は俺も連れて行けよ」
ショーイは肉を焼く手を休めずに、俺とシルバーを眺めている。シルバーは俺が大きな鍋に入れたドッグフード5㎏をガツガツと食って話を聞いているそぶりは見せなかった。
「もちろんだ、だけど神殿の中は魔法が使えないかもしれない。お前の魔法剣も使えないかもしれないぞ」
「ふん、それならそれで構わん。剣の力だけで勝負するさ」
確かにショーイの腕なら、ラプトルを斬ることも出来る。だが、数が多いと厳しい状況になるだろう。
「私も行くぞ」
「ミーシャ・・・。まだ、無理しない方が良いんじゃない?」
「大丈夫だ、お前より早く走れるし、銃は使えるからな」
「・・・」
-仰る通りです。
病み上がりのミーシャでも体力は俺よりも上だろう、それに顔色も前と同じ血色が戻って来たような気がする。一緒に来てくれれば心強いし、何といっても俺が嬉しい。
「じゃあ、一緒に行こうか」
「ああ、里の仲間たちも連れて行くのか?」
「いや、神殿には連れて行かない」
「そうか、皆が寂しがるだろうな。やつらはお前の仲間になれたことを誇りに思っているからな」
「そうか、でも今回は人数が多すぎると動きにくい気がする。それに、カーテンの向こうがどうなっているのかは行ってみないと判らないことがまだあるしね」
「うむ、わかったよ。お前の決めた通りで良いさ」
ドローンで偵察したとは言え、見えている景色には不思議な点が沢山ある。下手をすると戻るのに時間が掛かる、あるいは戻れないかもしれない。ミーシャ達は一蓮托生ということで、俺と運命を共にしてもらうつもりだったが、それ以外のエルフレンジャーにそこまで期待するのは気が引けた。
「それとリンネもここに残ってもらった方が良いな」
「そうかい・・・、わかったよ」
「この里にいる間にやっておいて欲しいこともあるしね」
神殿に近づくとリンネは動けなくなってしまうだろう。調教済みのラプトルは沢山いるし、ここに残ってエルフへ物品の供給係をしてもらう方が良いだろう。
■火の国 北方 神殿近くの森
俺、サリナ、ミーシャ、ママさん、ショーイの5人でムーアの町に行った後に転移ポイント迄移動して、作業船に乗ってカーテンの手前まで飛んで行った。地上には赤頭のラプトルがぞろぞろと一緒に移動している。リンネは来ていないが、俺の指示に従うようにリンネ様は躾けてくれている。
カーテンを通過する前にドローンで最終確認をしたが、赤ラプトルはカーテンの向こうに入っても異常は無かった。ドローンの操作もカーテンを挟んだ状態でも機能している。物理的な距離も次元的な差異も無いように見えるが、そうなると前回行った時との違いをどう考えればよいのか・・・。
考えていてもキリが無いので、灰色の空間に向かって作業船を進めて行く。全長60メートルある船の船首が灰色の中に消えて、俺達がいる操舵室の周りもすぐに霧がかかったような状態になった。呼吸などが苦しくなることは無かったが、視界はゼロの状態が1〜2秒続いたと思ったら、カメラで確認した通りの景色が目の前に広がっていた。
-やっぱり、ジャングルだ・・・それに。
ジュラシック的な植生の密林はねじれた幹の木が地面を覆っている。遠くには翼竜が飛んでいるが、今のところ危険性は無いようだ。船は高度30メートルぐらいのところを飛んでいるから、まだ気が付いていないのかもしれない。外洋船の操舵室は鋼鉄製で頑丈な作りになっているので、いきなり上空から襲われることも無いだろう。狩りが目的でない以上は敢えてこちらから仕掛けることも無い。ジャングルと翼竜は無視することにして、双眼鏡で神殿を見たがドローンカメラで見た違和感の理由が進むにつれて判ってきた。
神殿は以前よりはるかに大きくなっている。そのために距離感も違っていて、以前より遠くにあるのだ。大きくなった神殿には前回は無かったピラミッドのような階段状の建物が山裾に建っていて、その手前には以前と同じ巨大な柱が整然と並んでいる。
-短時間で作ったのか? 土魔法・・・、それとも・・・。
「サトル、何か出て来た!」
不思議な世界に考えを巡らせていた俺に左舷を監視していたちびっ娘から聞きなれた報告が入って来た。
左の方から飛んできたのは・・・、また亀だ。だが、今度の亀には人が乗っている。
-亀仙人か?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます