第84話Ⅰ-84 お返し

■バーンの町 南門近く


 町は夜になると明かりの無い暗闇の世界だ。大通りを避けながらフラッシュライトの明かりを頼りに移動して、昼の間にミーシャが見つけてくれた3階建ての大きな建物の前に来た。建物の1階にある玄関近くの窓からはランプの明かりがうっすらと漏れてきているので、この時間でもまだ起きているようだ。


 部屋で倒れていた赤の旅団のヤツに聞いた話では、この赤い旅団のアジトには50名ぐらいがいると言うことだった。外に見張りもいないので、ライトを消してガラスが入っていない窓の側まで腰を低くして3人で近寄って行くと、中から大きな声が聞こえてくる。


「手前ら! 6人で寝込みを襲ってしくじるってのはどう言うことだ! こんな簡単な仕事も出来ねえヤツはいますぐクビだ! とっとと、出て行けこの役立たずが!」

「ですが団長、あいつらの魔法は・・・」

「言い訳をするんじゃねぇ!たった3人、しかも人間のガキが3人だろうが?魔法ごときでビビってんじゃねえ!!」


 中は見えないが、俺達を襲った奴らが団長のお説教を受けているようだ。俺は壁際に張り付いて足元にスタングレネード(閃光音響弾)2発と催涙弾を5発を地面に並べてから玄関へ移動した。ミーシャは打ち合わせどおり裏口へ回ってくれる。玄関のドアに鍵は掛かっていなかったので、少し開けて様子を伺ったが中にも見張りは居なかった。ベストから催涙弾を二つ取り出してピンを抜いてから静かに中へ転がしてドアを閉めた。


 窓の横に戻ってから、サリナに耳と目を塞ぐように合図して、スタングレネードのピンを抜いて二本とも投げ込んだ。


「なんだ!?」


 中から声がするが、そのまましゃがみ込んで耳を塞いで目を閉じる。

 1.「2」ぐらいで目を閉じていてもわかる光と爆音が窓から漏れてきた。続いて、催涙弾のピンを抜いて連続で部屋の中に投げ込んでいく。立ち上がって部屋の中を覗くと、部屋の中では視力と方向感覚を失った獣人たちが30人ぐらい立ち上がれずに、床や椅子に手を付いている。背後をサリナに警戒してもらいながら、静かな夜の町に轟音を響き渡らせるショットガンを中の人影に向けて撃ちまくった。プラスチック散弾が当たったやつは、背中や顔を抑えながらうずくまって行く。32発入るドラムマガジンを交換するときには、催涙ガスが外にもあふれ出そうになって来たので、一旦後退して玄関の前でショットガンを構えた。2階、3階からも大声や走る音が聞こえてきて、建物全体が大騒ぎになって来た。


 だが、しばらく待っていても誰も出てこなかった。煙が充満して玄関までたどり着けないのかもしれない・・・、そう思ったが頑張ったヤツが玄関の扉を中から開けてくれた。開いた瞬間にショットガンを打ち込んでやるとドアを押し開けながら地面にうずくまったが、そいつを乗り越えて後ろから獣人が続いて出てくる。全員顔を抑えながらで周りを見る余裕は無いようだ。一旦外へ出してから、一人ずつ狙ってプラスチック弾を浴びせていく。建物の裏側からも同じ轟音が聞こえてきた。玄関からは10人ほどが倒れたところで誰も出て来なくなった。


「サリナ、向こうの窓の中に水魔法をぶち込んでやれ、思いっきりでいいぞ」

「思いっきりね! 任せて♪」


 お仕事をもらえた魔女っ娘は水のロッドから強烈な放水を窓の中に叩き込む。サリナの位置からだと天井や壁に当たっているはずだが、木が割れるような音が響いてくるから部屋の中はボロボロで床は水浸しになっただろう。頭を冷やして俺達を襲ったことを後悔することを期待したい。


 ほどほどでサリナにやめさせて、裏口のミーシャがいる場所へ合流すると、裏口にも4人の獣人が悶えながら地面でうずくまっていた。俺達は無言で頷きを交わして宿へ戻ることにした。


 宿に戻っても受付に人は居なかった、轟音に怯えてどこかに引きこもっているのだろう。既に3時ぐらいになっているからもう一度寝たのかも・・・?さすがにそれは無いか。部屋に戻ると尋問した獣人も予定通りいなくなっていた。置き去りにされたヤツはサリナが治療してやると、素直にしゃべってくれた。だが、アジトの襲撃を邪魔されたくなかったので、出かける前にスタンガンで動けなくして、そのまま床に転がしておいたのだ。アジトの襲撃に1時間半ぐらいは掛かったから、回復して自力で逃げ出していて当然だ。


 さて、深夜の招かれざる来客には十分にお返しはできただろう、念のために部屋の扉と窓に遮蔽物を置いてから寝ることにしよう。久しぶりに夜更かしをしたから体が疲れている。


 §


 翌朝は遅くまでまでゆっくりと休ませてもらって、いつもより遅めに朝食をとった。遅いと言っても9時まえだから、現世の休みの日よりも早起きだ。コンビニのサンドウィッチだったが、夜遅くまで働いて空腹だったので、いつもより美味しく感じる朝食を3人で味わってから、ギルドに向かうことにする。昨日の件がどう影響するかは判らないが、縄張りの件をはっきりしてから未開地へ行くほうが安心できる。


 宿を出るときには受付に人がいたのだが、俺たちには何も言わなかった。この国の警察-兵士-が来ることも無い。あれだけの轟音がして、部屋のドアも壊されているのだから、気が付いていない訳はない、それでもトラブルの巻き添えになるのが嫌なようだ。罪の意識を少し感じるが、悪いのは赤い奴らだと自分を納得させて外に出た。


 組合にたどり着くと入る前から周囲の視線とささやき声を感じる。声がするほうを見れば目線を逸らして行く、どうやら昨晩の件が噂になっているようだ。中に入ると更に視線を集めることになり、騒々しかったホールにもささやき声が広がっていく。


 気にしても仕方が無いので、二階に上がって受付のお姉さんの方に向かうと、俺の顔を見た途端に奥へ走って行った。やっと、顔パスになれたようだ。


 すぐに連れて行ってくれた組合長室に入ると思っていたより人が多い。獣人が6人、組合長のグラハム、それに町の代官と言っていたランディも居た。


 全員楽しそうな顔はしていない、なんだか面倒な予感がする。

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