第85話Ⅰ-85 黒の縄張り
■バーン組合長室
獣人たちは二つの長ソファーに分かれて三人が座り、三人がその後ろに立っている。座っているのが団長で後ろは護衛役と言うところだろう。ランディとグラハムも並んで座っていて、大きなテーブルを囲む4つの長ソファーは一箇所だけが空いていた。
「どうぞ、空いてる場所にお座りください」
俺は目線でミーシャとサリナに入り口の横で立ってもらってから、グラハムが勧めたソファーに腰をおろした。正面に座る赤の団長を見ると、真っ赤に目が充血している。俺のプレゼントはしっかり受け取ってくれたようだ。赤の団長は虎系の毛深い顔に鋭い目、座っているので身長は判らないが、上半身だけでも3人中では一番デカイから真っ赤な目は迫力満点だ。緑の団長は、顔の周辺から首筋に黒い鱗を持ち、尖った鼻の下に大きな口があるトカゲ系の獣人だが、こちらもロッペンと同じぐらいの大きさだから身長は250cm近いのかもしれない。
「今日は縄張りの件で皆様にご相談があったので、こうしてお集まりいただきました。それと町の中でも騒動が会ったようですので、代官のランディ様にもお越しいただいています」
グラハムが紹介したランディは俺を見て軽く会釈をしたが口は開かなかった。
「それで、黒の方々がお見えになる前に赤、白、緑の三旅団の団長とお話を先にしていたのですが、未開地の件については意見が割れておりまして・・・」
「俺は絶対に認めないからな! こんなガキが3人しかいないくせに何が旅団だ!縄張りなんざ1000年早いわ!それにお前らが同意するってのはどう言うことなんだ!」
真っ赤な目をした赤の団長が拳を握り締めて吼えている。と言うことは、緑も同意したと言うことか・・・意外だったな。
「まあ、俺も思うところが無いわけじゃあねえけどよ。俺たちじゃあ太刀打ち出来ないキラーグリズリーをこいつらが狩ってくれたおかげで、森での狩りがやりやすくなったのも事実だからな。それに、キラーグリズリー5頭を3人で倒せるなら赤い旅団よりも間違いなく強いだろう?それはお前も昨日の晩に思い知ったんじゃあねえのか?」
「ふざけるな! 昨晩の件も落とし前は必ずつけてもらう! それとグリズリーの件も何かの間違いだろう。どうせ、病気か何かで弱っているところに出くわしたに違いねぇ」
「5匹もいっぺんにか!? それはまた随分と都合のいい話だな」
「緑の団はそれで良いのか? 小僧たちの言いなりになって悔しくねえのかよ!」
「ああ、我が団は勝てぬ争いはしない主義だからな」
緑の団長は意外と冷静な性格なのか?
「俺たちは迷宮がある池の周りで見たんだ、何十頭も倒されているデスハンターをな。あれは人間業じゃあ無理だ、見た瞬間に噂の奴らの仕業だと思ったぜ。デスハンターは集団で行動するから1匹ずつ囲むのが難しい。10頭以上に出くわしたら、俺たちが100人居ても生きて帰れないだろう。いいか、それが首や頭に大きな穴を開けて何十頭も倒れているんだぞ?そんなことができるヤツ相手にどうやって戦うんだ? 未開地?どうせ行かない場所だ、好きにしてもらえば良いじゃないか!?」
なるほど、ミーシャ先生のジュラシックハントの結果を見たのか、確かにあれを見れば戦意を失うだろう。デスハンター-ラプトル-が40頭以上倒れていたからな。
「この腰抜けどもめ!そんなにこの小僧たちが怖いなら旅団なんか辞めちまえ!これからは縄張りなんざ無視して、俺達が好きなところへ狩りに行ってやるぜ!」
昨日痛い目にあったのに、全く反省していないなこのオッサンは。
「何を勘違いしている。泣き虫旅団などがおれの縄張りに入ってくれば、すぐに狩ってしまうぞ」
「な、泣き虫旅団だと! 手前、ぶっ殺してやろうか!!」
俺は思わず噴出しそうになった、催涙弾を浴びた奴らは我慢しようと思ってもしばらくは涙がとまらなかっただろう。緑の団長、ナイスネーミング!
「みなさん、ここで喧嘩をされては困ります。ギルド内で争いを起こせば理由に関わらずギルドから除名させていただきますよ」
黙って聞いていたグラハムがようやく仲裁に入った。
「レオン団長、どうしてもご理解いただけないのでしょうか?」
「ああ、俺はこんな馬鹿げた話しは絶対に認めない」
「弱りました、皆さんの同意が無ければギルドとしては押し付けることも出来ませんので・・・」
赤の団長レオンか、プライドが高いのだろうな、でもこちらから歩み寄る必要もない気がするな。時間がもったいないし、決着をつけることにしよう。
「グラハムさん、もう良いんじゃないですか?」
「それは、どう言う意味なんでしょうか?」
「赤い旅団が納得しないなら、俺は白と緑の縄張りには行かないけど、赤の縄張りは遠慮なく行きますよ。そこで獲物も見つけた旅団員も全員狩るだけですから、そのうち赤の旅団はなくなりますので、どうでもいいことですよ」
「そ、それは・・・」
「なんだ、お前、うちの旅団とやるってのか!?」
「そんなに大騒ぎすることじゃないよ、見たやつをデスハンターやキラーグリズリーみたいに狩るだけだから、赤の旅団って200人ぐらい?もっと居るのかな?でも、1日も掛からずに全員いなくなると思いますよ」
「・・・」
「サトル殿、そこまでは流石に代官としても見過ごすわけには行きませんから、旅団との抗争はやめて頂く必要があります」
「そ、そうだろうが、旅団同士の抗争はギルドも国も認めねえだろ」
ランディか、赤の旅団を助けたい理由でもあるのか?レオンは既に戦意を失ったと思うんだが・・・
「ですが、レオン殿。荒野で起こる争いは私どもが見に行くことが出来ませんからねぇ。私は、黒の方々のご提案に同意されるのが一番良いと思いますよ」
なるほど、町以外なら好きにやって良いと言うことか。さて、レオン殿はどうします?
「だったら、昨晩の件はどう落とし前を付けてくれるんだ!俺達のアジトが襲撃されたんだぞ!」
「そうなのか? 偶然だな、俺の泊まっている宿にも押し込みがあったんだ。ひょっとすると同じ犯人かもしれないな?」
「・・・」
「その件は両方とも、私が代官としての責任でお調べするとお約束しましょう。それでいかがでしょうか? レオン殿」
「・・・・・・チッ! 判ったよ。未開地は好きにしろ!だが、俺達の縄張りで狩りをするなよ。見つけたら・・・」
「そっちは俺の前を通るなよ、間違って大きな穴が開くかもしれないからな。涙で済んだのはきっと神様の思し召しだぞ」
「・・・」
レオンは言い返そうとしたが、歯軋りしながら言葉を呑んだ。
「どうやら、これで三旅団の団長の同意は得られたようですね。では、未開地は黒の旅団の縄張りとして、未開地に行くまでは他の縄張りを自由に通行させるという事にさせていただきます」
朝から聞くオッサン達の話は長く感じた。それでも、最後の迷宮の権利が確保できたので交渉は成功だ。赤のレオンも啖呵は切っているがポーズのはずだ、正面から叩き潰すのも良いが、加減して戦うのは大変だから獣人とも争わないに越したことは無い。
「サトル殿、違う件でご相談があるのですが、この後お時間をいただけますか?」
無駄な話し合いが終わって席を立った俺に、ランディが声を掛けてきた。さっきは協力してくれたし、少しは話を聞いても良いか・・・
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