第305話Ⅱ-144 終わらない戦い2
■エルフの里
エルフの里に戻った俺はノルドの小屋へ行って、ラプトルがこの世界にあふれ出していることを説明した。
「それで、お主はどうするつもりじゃ?」
「できるだけ退治しようと思っています。それで、エルフの力を貸してもらえないでしょうか」
「うむ、わかった。お前の頼みじゃからな、言う通りにしよう。狩人たちには矢の準備をするように言わねばならんな」
「いえ、道具は私のを使ってほしいんです。いつもミーシャが使っている道具があって、それを皆さんが使えば、安全に素早く倒せると思います」
「お主の道具か。もちろん構わぬが、数はたくさんあるのか?」
「ええ、数と種類には自信があります」
ノルドは小屋を出ると広場に居たエリーサへ声を掛けて、俺のために人を集めるようにと指示をした。エリーサはノルドの話を聞いて大きな声を上げながら飛びはねていた。
「ワーッ! これは凄いぞ! 勇者の道具を使える!」
どうやら嬉しくてしょうがなかったようだが、その声を聞いた美人エルフ達がエリーサの所へ集まり、話を聞きながら俺の方をキラキラした目で見ている。相変わらずこの里でのモテ期は継続しているようだ。ノルドはニコニコしながら俺の方を見上げていた。
「ノルドさん、ありがとうございます。関係のない皆さんを巻き込んでしまって・・・」
「関係はあるじゃろ。放っておけば、この世界にその魔獣が溢れるかもしれん・・・そういうことであろう?」
「ええ、まあ、そうかもしれませんね」
「それで、全員連れて行けるのか?」
「いえ、全員は多いですね。20人ぐらいでお願いしようかと」
「むむ・・・、それはマズいかもしれんな」
「どうしてですか?」
「いや、あれを見てみろ。行けないとなれば・・・」
ノルドは続々と集まり、喜びまくっているエルフ達を目線で示した。既に20人ほどのエルフが集まっているが、踊り始めて喜んでいた。騒ぎを聞きつけて、更に数人のエルフが集まり始めている。
-確かに。異常な盛り上がりだな・・・、仕方ない。
「じゃあ、行ける人は全員お願いします」
「うむ、そのほうがわしもありがたいな。この前二人だけ行かせたときも、残った者はわしを恨んでおったようじゃからな」
「それは・・・、スミマセンでした」
「いや、お主が悪いわけでは無いよ」
まさか、そこまで大事になっているとは思わなかった。エルフは好奇心が強いのかもしれない。刺激の少ないこの里で異世界の道具を見れば・・・いたし方の無いことだろう。だが、この世界でも田舎と言って良いこの場所には刺激が強すぎるかも・・・今更手遅れだな。
俺はエリーサが集めてくれた希望者―48名のエルフに向かって、銃の使い方を説明した。みんなノートこそ取らないが、真剣な眼差しで一言たりとも聞き逃さないぐらいの集中力を見せている。
「聞いているだけでは、判らないと思いますから。みんなに銃を配ります。弾は入っていませんが、それでも銃口は常に地面へ向けておいてくださいね」
「「はーい!」」
良い返事が一斉に帰って来る。ラプトルの大きさを考慮してNATO7.62㎜弾を使うH&Kのアサルトライフルを一人ずつに手渡した。アサルトライフルを持ったエルフ達を率いて森の中へ入って行き、立ち木の少ないところで再集合する。
「じゃあ、一人ずつ撃ってもらいます。的を置いてきますから、チョット待ってて」
50メートルほど離れた場所まで歩いて行き、ストレージに入れていたラプトルを一体取り出す。
「「「ワァーッ! 魔物だぞ! 何処から出て来た! 」」」
突然現れたラプトルに対してエルフ達は驚きを表しながら戦闘モードに入っていた。剣を抜いたものや背負っていた弓に矢を番えているものがいる。
「皆さん、安心してください。こいつは死んでいますから動きません。これが的です。本番では動いているこいつを倒してもらいます」
-あれをか?
-かなり大きいぞ・・・
-皮膚も堅そうだ、矢が通るのか?
ざわざわと近くのエルフ同士で話しながら、ラプトルを見定めようとしている。狩人としての習性なのだろう。
「まあ、見てもらうのが早いですね。エリーサ、最初にやってみようか」
「ああ、任せてくれ!」
エリーサは広場に居た幸運を十分に噛みしめていた。先日、勇者と同行できたからこそだろうが、今日も長老から人を集めるようにと指示をもらえたのだ。
「みんなも、良く見ておいてください。このマガジンというのをここに差し込みます」
「・・・こうか?」
「そうです。カチっと言う音がするまでしっかり差し込むんで、この横についている棒を手前に引いてください」
「こうか?」
エリーサは言われた通りにマガジンを装着すると、レバーを引いてチャンバーに初弾を装填した。
「そうしたら、このつまみを下に向けて、その筒の先があの魔獣の顔に来るようにして・・・、左手をこの辺で・・・、右手はこう持って・・・、顔の下に来る感じで・・・」
安全装置を外してからアサルトライフルの構え方を教えたが、エリーサの構えは最初からバッチリと決まっていた。
「良い感じ。じゃあ、右手の人差し指をこのトリガーにかけて、もう一度魔獣の顔を狙ってみて」
「わかった・・・、うん、出来たと思う」
「よし、じゃあ。人差し指でゆっくりとトリガーを引いて」
「うん・・・」
-パシュゥッ!
サプレッサーをつけたアサルトライフルから空気の漏れる音がすると、ラプトルの首から肉片が飛んだ。予想はしていたが、始めて撃ったとは思えない正確性だ。
-見えたか!?
-何かが飛んだんだろ?
-真っすぐだ!
ざわざわと声が広がる。
「少し下になったのかな?」
「そうだけど、初めてであれなら凄いよ。後は好きなように撃っていいよ。もう一回トリガーを・・・」
-パシュゥッ! -パシュゥッ! -パシュゥッ!
ラプトルの鼻先から3回肉片が飛んで行った。既に俺に教えることは無い・・・、いや、まだあった。
「このマガジン1回で30発の小さな矢が飛ぶと思ってくれ」
「30!? そんなに入っているのか?」
「ああ、そして、マガジンを交換するとまた撃てる」
「なんと!? それで、そのま、マガジンとやらはいくつ貸してくれるのだ?」
-ここにも銃弾が多ければ多いほど良いと言うエルフが居た・・・。
その後は5人単位で銃の撃ち方を教えて行ったが、的を狙うと言う事に関しては全員が達人だった。中にはマガジン交換やレバー操作に手間取るエルフもいたが、反復練習であっという間に自分のものにしている。的にしたラプトルの胸ぐらいまでが肉片になったところで、48人のエルフによる射撃練習を終了することにした。
「じゃあ、明日は生きている的を撃ちに行くから。みんな、よろしく」
「「「ウォーッ!! 狩りだ、勇者と狩りだ!!」」」
テンションMAXのエルフ達は中東のテロリストのようにアサルトライフルを頭上に掲げて小躍りしている。
-何がそんなに嬉しいんだろ・・・
だが、ハイテンション集団の中にいた3人ほどがエリーサの所へ行って何かを告げるとエリーサは一瞬嬉しそうな顔をした後に、考え込む表情で俺の所へ近づいて来た。何か問題があるのだろうか・・・。
「なあ、サトル・・・」
「どうしたの? 何か心配なことがあるの?」
「いや、そうじゃない。あー、っと厚かましいお願いがあるんだ」
「お願い? 良いよ、何でも言ってくれ。パンとかが欲しいの?」
「ぱ、パンか!? あ、あれは美味かった。うん、是非あれも・・・、いや、違うんだ。そのー、勇者の仲間はみんな同じ服を着ているだろう?ミーシャとか、サリナが・・・」
「ああ、服が欲しいのか? 良いよ、全員の服を用意しよう。服だけだとあれだな、靴もあった方が良いな」
「い、良いのか!? 本当だな? 約束だぞ! おーい、我らにも勇者の衣装をくれるらしいぞ!」
-ウワァーッ!! 凄いぞー!!
エルフ達の大歓声が森の中でこだました。危険なラプトルを狩りに行くと言うよりは遊園地に連れて行ってもらえると知った子供たちのようだった。俺はもう少し緊張感を持ってもらう必要があることをどうやって伝えるかを悩むことになった。
-死ぬかもしれないのに・・・。
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