第112話Ⅰ-112 狩りの難しさ

■森の国 北の山地


 昨日は森の中を少し歩いただけで、俺が狩りをなめていたことに気付かされた。今までの狩りはそこに居る魔獣を離れた場所から撃っていただけだ。森に居る獲物を探し、追い込んで仕留めるには森の中を山に向かってしっかりと歩かないといけない。ミーシャだけなら追い込むことが出来るだろうが、俺が居ればむしろ足を引っ張ることになる。


 そこで、プランCを考えた。プランBであれだけの爆音を聞けば、同じようにエサで釣るのは難しいだろう。それでも、何とか獲物からこっちに来るように仕向けなければならない。


 プランの実行前に、ミーシャには集落の人間が森に入っていないかを朝一で確認してもらった。幸い、全員家に居たので、今日は外に出ないように頼んである。もっとも、昨晩の爆音で怯えていたようで、出かける気はみんな無かったようだ。


「ミーシャ、狼たちはどのぐらい先に居るのかな?」

「ここからは判らないが、2㎞〜3㎞ぐらいは離れているだろう」


 思ったより遠いが何とかなるだろう。俺のプランCは迫撃砲を群れの向こうに撃ちこんで、こちらに逃げて来させるものだ。迫撃砲もかなり練習したが、本番で使ったことがないので試してみたかったのもある。


 81mm迫撃砲はシンプルな構造だ、砲身は単なる筒で、その中に榴弾を落とせば放物線を描いて飛んで行き落ちた先で爆発してくれる。射程距離は5km以上あるから群れの向こうまで届くだろう。少しづず狙いを近づけて、どんどんこちらに向かって追い出す予定だ。


「ミーシャ、奥から爆発して追い出すから出てきたやつが居たら仕留めてよ」

「わかった、見えれば逃さない」


 ミーシャにはアサルトライフルとマガジンをたくさん渡している。出てくるまでには時間が掛かるだろうが、近くにいる奴が飛び出す可能性もある。


 迫撃砲は下についている回転式レバーを回せば大きく角度が変わる。最初にできるだけ遠くに飛ぶように砲身を寝かせてから、砲身の中に榴弾を落とした。金属を叩くような軽い発射音の後に空気を切り裂いて榴弾は飛んでいく。3秒後ぐらいに森の奥で爆音が響いてきた。回転レバーを回してもう少し手前の右を狙って発射する、次はさらに手前の左を・・・。


 着弾点をジグザグに近づけるイメージで20発ほど打ち込むと目印の木にしていた1㎞あたりに着弾した。正確に命中させることが目的ではないから、照準器は一度も使っていない。


「そろそろだね」


 俺はサブマシンガンのレバーを確認して、更に手前に榴弾を発射する。着弾がどんどん近づき爆音がすぐそこに感じた時に、いろんな獣が森から飛び出し始めた。小さな獣や大きな猪が居たが、青白い狼たちは集団で走って来た。


 ミーシャは森の中で一発ずつ確実に仕留めていく。俺は森から出てきたやつを狙ってサブマシンガンの弾幕で横に薙ぎ払い続けた。銃撃を受けても後ろの狼たちは止まることがなかった。迫撃砲の爆音がよほど怖かったのだろう。倒れていく仲間の上を飛び越えながらどんどんと森の中から出てくる。俺はひたすら撃ちまくった。撃っていた時間は2分ほどしかなかったはずだが、マガジンを5本使ったら森から狼は出て来なくなった。


 ミーシャは銃を持ったまま倒れている狼の所へ近づいて行った。森の外には10匹以上倒れているが、森の中にはもっとたくさんいるはずだ。


「これで全部かな?」

「どうかな、かなり仕留めたが、まだ残っているかもしれないな。群れのボスが居ない気がする」


 プランCでも終了しないのか・・・、プランDは無い。エルフへの道のりは遠い。


「私が森の中に入って追うから、サトルはその魔法でもう一度同じ場所に大きな音を出してくれ」

「ミーシャ、これは音だけじゃないから近寄ると危ないよ」

「わかっている、最後に落とした場所の手前までは来ていると思うのだ。その場所と私の銃で挟み撃ちにしたい」


 なるほど、手前まで来て森の外には出てこない知恵のあるやつらを狩りに行くのか、銃を持ったミーシャなら一人でも大丈夫だろう。


「了解、もう少し向こうで爆発させるよ。マガジンはたくさん持って行ってね」

「ああ、そのつもりだ」


 ベストに30発入りのマガジンを8本入れて、ミーシャは森の中へ進み始めた。


 俺は新しい榴弾のパッケージを開けて安全ピンを抜いてから地面の上のマットに並べた。砲身を少し寝かせて、両手に持った榴弾を筒の中に落とす。高く上がった榴弾の飛行音の後に爆音が聞えて森が揺れるのが見えた。距離を変えずに方向を左右にずらしながら6発撃ち終えて、しばらく様子を見ることにした。今ので森の奥に逃げ込んでなければ、ミーシャが見つけてくれるだろう。


 ぼんやりと森を眺めていると、奥から何かが走ってくるが見えた。青い氷の狼だ。だが、サブマシンガンを構えようとして気が付いた。


-デカイ


 今までの狼の3倍ぐらいはあるだろう、サブマシンガンでは止まらないし、アサルトライフルでも難しいだろう。距離は100メートルほど離れているが、すぐにここまでくる。一瞬で武器の選択をしなければならない。


 ロケットランチャーと対物ライフルは当てる自信がない。ストレージからブローニングM2重機関銃を取り出して、二脚を地面につけ、レバーをスライドさせてからトリガーを引き絞った。事前に装てんしてある弾帯が吸い込まれて、12.7㎜弾の爆発音を響かせていく。射線が50メートル程に近づいていた狼の足元から伸びて行き、胸のあたりへ直撃した。氷が割れる硬い音と合わせて肉片が飛び散る。それでも、致命傷では無かったようだ、傷ついた左足を使わずに、3本の足で逃げようとしている。横に向いた胴へもう一度12.7㎜弾を連射すると、銃弾に弾かれたように倒れて動かなくなった。


 完全に動かないことを確認して、倒した狼にゆっくりと近づいていく。近くで見る狼は今までのやつらと違う。全長5メートル近い大きいだけではない、分厚い氷の塊が鎧のように体を覆っている。かっこいい氷のフィギュアか何かのようだった。頭部から背中には氷が鋭いタテガミのようについている。もし、ぶつかられると・・・、血がついてる!


 ミーシャか!?

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