第167話Ⅱ-6 再会
■森の国 王都クラウス
サリナはライトを消してミーシャの後を静かに追いかけた。サリナには暗くて全然見えなかったが、ミーシャには先を行く男達がはっきりと見えているようだ。
男達は門を出るとすぐに街道から外れて、近くの森の中に入って行った。5分ほど歩くと遠くにたき火をしている男達が見えてきた。ミーシャが追いかけた男達もそこに合流したようだ。ミーシャはたき火を左側から回り込むようにゆっくりと移動して、男達の話が聞える場所まで近寄った。
「あの雨は何だったんだ! あんな雨は見た事が無いぞ!」
「そうだ、それに火をつけたところに小さな娘が来て、いきなり水をかけやがった。凄い水の量だから、あっという間に消えちまったじゃねぇか!」
男達は放火が不首尾に終わったことのいらだちをぶちまけていた。
「ちょっと待て、今、小さな娘と言ったか?」
たき火の前に座っていた大きな男が、後で来た男達へ問いただしている。
「ああ、小さい娘が木の棒から凄い勢いで水を出すんだ。どうやら魔法らしいが、あんなに水が出る魔法は見た事が無い。水が空を飛んで行くんだよ!」
「水が空を・・・、小さい娘・・・、同じとは限らんが、嫌な予感がするな。今日の件は失敗だが、早めにクラウスから離れた方が良いかも・・・」
-ギャァ! アウッッ! ガァッ!・・・
「おい、お前ら! いきなりどうした!?」
「足が、足が、焼けるように痛えよ、何かが刺さったんだよ!」
「俺もだ! 何だ、獣でも出たのか!?」
たき火を囲んでいた男達が叫びながら足を押さえて突然うずくまり始めた。暗い森の中でミーシャの射撃が始まったのだ。
サリナはたき火の前で座っている男の声を聴いて、その男が誰だったかようやく思い出していた。あの大きな人は悪い人で、サリナを倉庫に閉じ込めた人だった。ミーシャにそれを伝えると、すぐに背中から銃を降ろして撃ち始めた。あっという間に立っている人間が居なくなる。
「サリナ、ビリビリは持っているのか?」
「うん、二つあるよ。車の中でじゅーでんもしてあるから使えると思う」
「そうか、じゃあ、倒れている奴を任せる。私はお前の知っている奴を動けないようにする」
「うん、任せて!」
ミーシャは近寄りながら、呆然としてたき火の前に座っている男の両肩をアサルトライフルで撃ち抜いた。
「ガァー!! か、肩が痛ぇ! 何だこれは! 腕が・・・動かねえ、チクショウ!」
男は両腕を垂らしたまま、地面から立ち上がれずに苦鳴を漏らし続けていた。
ミーシャは銃口を座っている男に向けたまま、サリナがビリビリで倒れている男達を動けなくしているのを確認していた。全部で9人の男達が力なく地面に横たわっている。
「お、お前はやっぱりあの時の・・・、獣人の連れじゃねえか!?」
「うん、私に嘘を吐いて倉庫に閉じ込めた人だよね?また会ったね!」
「クソッ! なんてこった、せっかく森の国へ逃げてきたってのに!なんでお前がここに・・・」
「お前は黒い死人達だな。なぜクラウスで放火をしていたのだ?それと、夕方一緒に居たのは組合長だろうが? あいつもお前たちと関係があるのか?」
「・・・」
「そうか、言いたくないのか」
「ガァーー、痛い、あ、足が!」
ミーシャは返事の無い男の足をためらわずに撃ち抜いた。ミーシャはサトルと違い、情報を引き出すために遠慮をするつもりは無かった。死なない範囲でどこまでも痛めつける覚悟がある。
「もう一度聞く、なぜクラウスで火をつけた?」
「そ、それは・・・、火の国の本部からの指示だ。あっちで戦争を始めるから・・・」
「そうか、わかった。組合長もお前達の仲間か?」
「そうだ、アイツがこの森の国の支部を任されている。表向きは組合長だから、都合がよかったんだよ」
「なるほどな、じゃあ、この国にお前達のアジトは無いのか?」
「あ、ああ、組合を隠れみのにしてるからな。集まっていても誰にも変には思われないのさ・・・、足と肩が・・・、チクショウ!」
男は痛みで毒づきながらも、ミーシャの質問には正直に答えたようだ。
「サリナ、こいつもビリビリで動けないようにしてくれ」
「うん、任せて♪」
サリナはサトルから貸してもらったスタンガンを男の首筋に当てて5秒ほど電流を流した。肩と太ももから血を流している男は崩れるように地面に横たわった。
「この後はどうするの? 治療してあげようか?」
「いや、このままで良い。今から王宮の兵を予備に行って引き渡そう。念のために全員両足を撃って動けなくしておく」
ミーシャは片足しか撃っていない男達のもう片方の足も撃ち抜いた。
「大丈夫かな? 死んじゃうんじゃないかな?」
「気にするな。こいつ等はお前やハンスの敵だ。死んだとしても何の問題も無い」
「そうだよね、ミーシャとお兄ちゃんに懸賞金をかけてるんだもんね」
二人は倒れている男達をその場に置いたまま、暗い森の中をクラウスの町まで戻った。王宮では放火の後始末のためか、かがり火が焚かれていて多くの兵が出入りしていた。
ミーシャが王へ至急の面会を求めると、待っていたかのように王の執務室に連れて行かれた。
王は寝巻のままで執務室に入っていたようだ、長いガウンを纏ったまま机から立ち上がって、ミーシャの元へ歩み寄ってきた。
「おぉ、エルフの戦士よ! 聞いたぞ! あちこちで火を消してくれたそうだな!? そっちの小さい娘が助けてくれたと町から報告が入っておるぞ。感謝する」
「はい、たまたま火事の声を聴きつけましたので、それと火をつけた犯人どもを捕らえております。急ぎ、西の森の中へ兵を派遣してください。10名の男達が地面に倒れていますので、運ぶのに馬車も連れて行った方が良いでしょう」
「何!? やはり放火であったか!? それに、犯人が判ったのか!? ・・・、うむ、まずは兵だな。おい、近衛隊長に命じて、その森へ行ってくるように言うのじゃ!」
王は部屋の入り口で控えていた衛兵に命令を下して、ミーシャ達に向きなおった。
「そうか、それで犯人たちは一体・・・」
「あいつ等は黒い死人達の手の者です。今回の件は火の国との戦が関係しているようで、王都を混乱させてから攻め入るつもりだったのでしょう」
「そうか・・・、火の国のやつらか・・・、だが、兵でもない町の民を傷つけようとするなどとは絶対に許すわけにはいかん!」
「それともう一つ報告があります、クラウスの組合長も黒い死人達の仲間というか、ここの支部長を務めているようです」
「ま、まさか!? あの、イアンがか? 信じられん、あの男は10年以上も組合長の仕事をしているが、今まで悪事に加担したことなど一度もないぞ!?」
「表の顔と裏の顔を使い分けていたようです。組合員の中に手下が何人もいるようです」
「そ、そんなことが・・・、うむ、わかった。ならばイアンも今夜中に捕らえよう」
王は衛兵に追加で指示を出し、イアンの捕縛に向かわせた。
「それで、すっかり夜が更けてしまったが、お前達はここで泊まって行かぬか? 部屋を用意するぞ」
「ありがとうございます。ですが、宿を取っていますのでそちらに戻ろうと思います」
「そうか、ならば明日もう一度来てくれ、詳しい話はその時に聞かせてもらおう。今夜の件は重ねて礼を言う」
「承知しました」
ミーシャはサリナを連れて王宮を後にして通りを歩き始めた。サリナは消火で走り回り、いつもなら熟睡している時間まで起きていたことで、すっかり疲れ果てていた。
「サリナ、疲れたなら車に行くのは止めて、宿に戻って休んでも良いぞ」
「ううん、大丈夫。車が心配だから、やっぱり車の所に行きたい」
「そうか、ならばそうしよう」
サリナは疲れた足を引きずってミーシャと森の奥に置いた車の場所まで戻った。車は隠した時の網がかかったままだった。
「良かった! 誰も触ってないみたいだね」
「ああ、車から荷物を降ろして寝る用意をしよう」
「うん!」
二人は商用バンからキャンプ道具のマットと寝袋を取り出して地面に広げた。濡れた衣服をマットの上で着替えてから、テントの用意をしようとしたが、既にサリナの体力は限界だった。
「ねえ、テントが無くても良いかな? このまま寝袋でると危ないかな?」
「ああ、私は構わない。このあたりは獣も居ないだろうからな」
「じゃあ、お休み!」
サリナはマットの上で寝袋に潜り込むと3秒後には寝息を立てていた・・・。
ミーシャは眠ったサリナの横顔に小さな声で語りかけた。
「ありがとう。お前が森の国を救ってくれたんだ・・・。お前が居なければ王都の民は大勢死ぬことになった。感謝する・・・」
ミーシャも寝袋の中に入って目を瞑り、今日の事を考えていた。
-組合長のイアンが黒い死人達の支部長だったとは・・・
-組合員の中にもどれだけ手下が紛れ込んでいるか判らない・・・
-炙り出すためには・・・、サトルなら・・・
考えがまとまらないうちに眠りに引き込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます