第45話Ⅰ-45 魔法では戦えないのか?

■バーン南東の荒地


荒地の気候は少し気温が高いが空気が乾燥していた。外に居る時には暑いとは思わなかったが、日差しが入るキャンピングカーの窓越しにサリナの魔法練習を見ていると汗ばんでくる。

エアコンのスイッチを探して車内を快適にし、冷たいカフェラテをストローで啜っているところだが、ガラスの向こうに見えているサリナの魔法はやはり凄いようだ。


炎は自由自在に大きさを操れるようになっているし、既に水の球を浮かべている。

綺麗な真円の水球を何度も出したり消したりしていた。

大きい水球は3メートルぐらいある。

それに俺と違って全然疲れていない。

上手くできるとピョンピョン飛び跳ねている。

これが魔法力の違いと言うやつなのか?

そして、今はロッドから火を出している。

手から出した時との違いが判らないが、ロッドの先には1メートルぐらいの火球がかなりの時間浮かんでいる。


だが、見ている範囲の魔法は日常生活や魔獣を追い払う程度の力はあるが、戦いで使えるようなレベルではない。

俺の感覚では炎は飛ばないと意味が無い、さらに飛んだ場所でしばらく燃えていて初めて実戦で役に立つと思う。

大きな炎が出せたとしても、ゲームと違って魔獣の毛皮を焼くには時間がかかるはずだ。

燃やすためには、火炎放射器のように炎が狙った方向に一定時間出なければ・・・、そうとしか思えないが、そういった炎はロッドから出てこない。


伝説の魔法具、おそらく使い方が違うんじゃねえか?

などと勝手に想像しているが、どう違うのかは俺にも判らない。

むしろ、この程度の魔法なら敵が使えても自分に危害が及ばないだろうから安心だ。

仮に火炎放射器だとしても、距離を取れれば楽勝だろう。

銃器対魔法は今のところは10対0で銃の勝ちだ。


しかし、300年前の勇者は魔法と魔法具で魔竜とやらを倒したと言う、その話が真実だとしたら、全くつじつまが合わない。

魔竜って言うのが大きなイグアナぐらいの大きさなら判らなくも無いが。


やはり、魔法ロッドの使い方が気になる。

俺はキャンピングカーから降りてハンスに聞いてみることにした。


「サリナは魔法がいきなり上手くなったんじゃないの?」


「うん、お兄ちゃんの言う通りにやれば何でもできる気がする♪」


スーパーハイテンションで喜んでいる。


「ハンスさん、炎は離れたところに飛ばしたりはできるんですか?」


「飛ばす? いえ、私はやったことが無いですが、何かお気づきなのですね?」


「そのロッドの少し先で大きな炎を出しても、虫は追い払えるでしょうけど攻撃する武器としては弱いですよね。せめて、離れたところに炎が出ないと駄目じゃないかな」


「離れたところに、なるほど。サリナ、あそこの小さな岩の上に炎が出せるかやってみなさい」


「うん!」


サリナはハンスが示した10メートルほど先の岩にロッドを向けた。

すぐに岩の上に炎が立ち上がった。


「やったー!」


「なるほど、こうすれば離れたところの獣も焼くことができるのですね」


「いや、これでも火がつけば獣は逃げるでしょう。サリナ、炎を横に動かせるか?」


「動かす? お兄ちゃん、どうすればいいの?」


「いや、私はやったことが無い」


ハンスとサリナは俺のほうを見ている。もちろん俺もやったことは無いのだが。


「そのロッドを動かせば炎は動くんじゃないか?もう一回炎を出してロッドを横に動かしてみろよ」


「わかった♪」


先ほどと同じ場所に炎を出したサリナはロッドを右に動かした・・・が、火が消えた!?


「ダメだよ、サトルの言った通りにしたら火が消えちゃったもん!!」


ロッドで炎を動かせるわけではないのか、だったら・・・。


「サリナ、炎が付いている時間は調整できるのか?」


「うん、さっき練習した。ロッドを降ろしてもしばらく燃えるようにできるよ」


かなり得意げだが、2時間ぐらいで出来るようになったのはすごいのだろう。


「じゃあ、その炎を出したら、次の炎を横にどんどん出して行け」


「どんどん? 炎を並べるってこと?」


「そうだ、10秒ぐらい燃える炎を5つぐらい並べる感じだ」


俺はゲームの敵を連続で燃やすイメージを頭の中で浮かべていた。


「わかった!」


サリナは目標の岩の上にロッドを向けて炎を出した、そしてその横に、更にその横に・・・同じ大きさの炎が5つ並び、少し経つと順番に消えていった。


「やったー!」


「すごい・・・!」


サリナは飛び跳ね、ハンスは驚いている。

これなら動きの鈍いヤツや虫の軍団を追い払うには効果があるだろう。

例えば蜘蛛の部屋なら結構いけるような気がする。

飛ばないし、動かない炎で戦うなら数で勝負かな?


「サトル殿は、このような使い方をどこで?」


「そうですね、私の国のロールプレイングと言うところで覚えました」


「すごいのですね、ろーるぷれいんぐと言うところは・・・」


いや、適当に言ってみただけです。


ハンスは感心しているが、これでも戦う武器としては弱すぎる、発炎筒レベルだと思う。

炎のロッド・・・、サリナ達は完全に使い方を間違えているような気がするが、これ以上の使い道を俺も思いつかなかった。


それでも、照明としては十分に役立ちそうだ。

暗いところでは頑張ってもらえると期待しておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る