第46話Ⅰ-46 コスプレ妄想

■バーン南東の荒地


昼過ぎまでご機嫌で魔法を練習していたサリナ達をキャンピングカーに戻して、俺は昼食を用意した。

この世界は1日2食が普通のようだが昼食を出せば全員喜んで食べる。

今日は俺の口が大阪モードだったので、お好み焼きとたこ焼きを並べてやった。

お好み焼きはコテで小さくして、フォークで食べやすいようにしてやる。

三人ともソース味も気に入ってくれた、慌てて食べたサリナがたこ焼きで口の中をやけどしたようだが、痛ければ自分で治療するだろう。

食事はいつもストレージで呼び出すだけの作業なのだが、皆が喜ぶのがだんだん俺の快感になりつつある。


しかし、食事が終ったサリナが俺の胸辺りを見て何か言いたそうにしていた。

まだ食うのか? 3人分ぐらいは食ったはずだが?


「どうした、サリナ? まだ食べたいのか?」


「ちがう、サトルの服」


服? 今日は迷宮に行かないつもりだったから、寝る時にも着ている真っ白なロンTとカーゴパンツの組み合わせだった。


「服がどうしたの?」


「他にも色々あるの?」


なるほど、どんな服があるか興味があるのか。


「違う服が着てみたいのか?」


「うん、どんなのがあるのかが知りたいの」


俺はティーン向けのファッション雑誌をストレージから2冊出して、サリナとミーシャに渡してやったが、二人は雑誌を開かずに表紙をじっと見ている。


ひょっとして・・・、俺はサリナの雑誌を手にとって中身を開いて見せた。


「これは、何の魔法!?」


「魔法じゃないよ、本の仲間だ」


「本の魔法!?」


もう突っ込むのが面倒くさい。

雑誌の開き方が判った二人は、食い入るように雑誌を見始めた。意外なことにサリナだけでなく、ミーシャも食いついている。


そうだ!

俺は凄いチャンスに気がついた。ひょっとするとこいつらは俺が可愛い服を渡してやれば喜んで着てくれるんじゃないだろうか?

そうすると、あんな服や、こんな服を・・・憧れのハーフエルフ様が!?


俺は雑誌に夢中な二人の意思を無視して、猛烈なスピードで服を検索し始めた。

検索先はもちろん・・・、コスプレ衣装専門店!


二人のサイズは判っていたので、目に付いたものを片っ端から選択して、ストレージの中の衣裳部屋へ置いていく。

これも異世界マジックなのだろう、選んだ服で自分が大胆になって行くのがわかる。

メイド服、セーラー服、ブレザー制服、ゴスロリ、ナース、スチュワーデス・・・、魔女っ娘!

サリナにはこれで魔法の練習をさせれば!

いや、練習には全然関係ないか。

まずは、メイドにチャレンジしてもらおう。


「サリナ、ミーシャ、この服はどうかな?」


俺は紺の生地に白いブラウスとエプロンがセットになったフリルだらけのメイド服をハンガーに掛けた状態で見せてみた。


「・・・なんか変」とサリナ。


「それは、動きにくそうだな。それに今見ているこれも、色は綺麗だが動きにくそうだ」

と冷静に否定するミーシャ。


「そ、そうか。わかった、何か欲しいのがあったら言えよ」


「サトルが着ている色のが良いの」


「これか?」


俺が白いTシャツをつまんで見せるとサリナが、そしてミーシャも頷く。

そういえば、この世界では真っ白の服をほとんど見ていない、麻なのだろうか?もう少し黄ばんだ色の生地が殆どだった。

ということで、俺の着せ替え妄想は10分ほどで立ち消えとなった。

衣裳部屋に置いた服はとりあえずそのままにして、次回のチャンスを楽しみに待つことにしよう。


非常に残念だったが、カップ付Tシャツと言う種類から何色か選んで出してやった。

いつもカップ付にしているのはブラジャーを選ぶ度胸が俺に無いからだ。

パンティー(ショーツ?)は女物のパンツだと、かろうじて割り切れているが、ブラジャーはこの世界には無い物だし、サイズのこともあるので渡したことはない。

付け方を聞かれて説明する度胸が無いのだ。


ノーブラ・・・で、良いのかも知れないがそれも何となく悪い気がしていた。

俺はいろんな意味で小心者なのだから仕方ないと思っている。


Tシャツは白、黒、黄色、ピンク、ブルー・・・色々出したが、結局二人とも白を選択した。

白は砂漠で目立つが、明日迷宮に入るまでは好きな物を着てもらおう。

どうせ、迷宮ではデザートカラーのミリタリーウェアに着替えてもらうことになる。


これから近くまで移動して、明日の朝から地図に「3」の数字が振ってある迷宮に入るつもりだ。

ここからなら馬車で一日半の距離だ、おそらく70km~100km程度だから3時間あればバギーで到着すると計算している。


もちろん、出てくる魔獣の数や種類によっては途中で野営をする可能性もある。

それに、次の迷宮は赤の獣爪団も1度しか行ったことがなく、ハンスは詳しい情報を持っていなかった。

情報が全く無いのは不安だが、最初の迷宮もそうだったのだから条件は同じと考えている。

魔法も戦力にならないことがわかったが、元々当てにはしていない。


事前準備は整えた、いよいよ次の迷宮、第3迷宮への挑戦を始めよう。

そこには、魔法具、神の拳はあるのだろうか?


俺は自分が迷宮攻略を楽しみにしているのを感じ始めていた。

人は変わっていくものらしい・・・

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