第31話Ⅰ-31 第一迷宮 後編
■バーン南東の第一迷宮
3階にあった蛇の部屋は入ってみると狭かった。
8畳? もうちょっと広いぐらいだろうか?
壁一面と床に血と肉片がこびり付いている。
気持ち悪かったから、手榴弾を5発も放り込んだがやり過ぎたのだろう。
しかし、これだけの蛇がいたのにスロープまで出てこなかったのが不思議だ。
魔獣たちにも縄張りがあるのだろうか?
それより問題なのは、この部屋に入ってきたところ以外に出入り口が無かったことだ。
要するに行き止まりの部屋だ。
だが、入り口が一箇所なら安心なので、砂埃で汚れまくったサングラスやフェイスマスク等を交換してから2階に戻った。
2階の部屋に入る前に安全を確認してから入り、降りてきた開口部には赤いケミカルライトを置いた。
残り一箇所の最初に赤いライトを置いたスロープから下に下りてみる。
配置としては、1階の広間に降りるスロープのはずだ。
スロープを降りると想定どおり1階の広間だった。
だが広間を覗いた俺は後ろの二人に止まるよう合図をした。
何匹かの何かが広間の中をうろついている。
暗くて影しかわからないが、虫ではない大きな影だ。
俺はストレージからアサルトライフルと発炎筒を5本取り出した。
大型獣にサブマシンガンの口径では心もとない。
もう一度広間を覗くと、暗闇に投じたライトの光を拾って黄色い目が光った。
こちらに気がついたようだ。
すぐに発炎筒に火をつけて遠くへ投げた。
残りの4本も火をつけてできるだけ離れた位置になるように投げる。
発炎筒の赤い光に浮かび当たったのはサンドティーガー3匹だ。
発炎筒の炎を警戒して俺たちのいる側と反対の壁付近に下がっている。
おかげで安全な距離が確保できた。
喜んで部屋に入り、一番近くにいるヤツにレーザーサイトのドットをあわせてフルオートで撃った。
マガジンを交換して2匹目、そして3匹目にもフルオートで5.56mm弾を叩き込む。
イヤーマフの下でくぐもった発射音が連続して聞こえる。
合計90発撃ち終わると、動けない3匹の獣が横たわっていた。
少し動いているから致命傷は与えられなかったが、5.56mmでも虎が立てなくなる程度の破壊力は連射ならあるようだ。
フラッシュライトで照らしながら慎重に近づいて3匹とも止めを刺しておく。
降りてきた開口部と最初に上った開口部に赤いケミカルライトを置いておく。
赤はもう一度行かないための目印だ。
これで広間には残り3つの開口部が残った。
次に行くために最初に上った開口部の隣をのぞいて戸惑った。
当然上に繋がるスロープだと思ったが下に向かっている。
残り二つのスロープを見に行くと、両方とも上に上っている。
上に行くか?下に行くべきか? あるいは下に行くスロープに見えるがしばらく行くと上りになるのか?
いや、配置的にそれは無いはずだ・・・
俺はサリナが前に言っていて、気になっていたことを思い出した。
「サリナ、前にお兄さんが絶対生きているって言ってたけど、今でも生きているか判るのか?」
イヤーマフを外させて聞いてみる。
「生きてる! 大丈夫、サリナには判るから!!」
「声がデカイ、もうちょっと静かに。だったら、上と下のどっちにいると思う?」
責任転嫁? いや、丸投げかな、このちっこい娘に任せることにした。
サリナは俺の質問に眉を寄せたが、目をつぶって考えだして結論を出した。
「下! 絶対下!」
「だから、声がデカイって」
反対に上に行ってやろうかとも思ったが、意味が無いのでサリナの希望通り下に下りることにした。
下りのスロープは左回りのカーブを描いてかなりの距離が続いた。
俺はアサルトライフルにつけたライトで前方を確認しながら慎重に降りていく。
感覚では広間を一周したぐらいの頃に、ようやく地下一階(?)にたどり着いた。
上の広場ほどではないが、ここも広い空間のようだ。
ライトで照らすと右奥に2箇所の黒い開口部がある。
そして、入ってすぐの右側には死体・・・人の死体がある。
服の残骸と肉片がバラバラになった骨に付いているから、見えているのは人の死体だろう。
死体は気持ち悪いが、サリナのいう事が正しいような気がしてきた。
ここに兄がいるのかもしれない。
しかし、そうだとすると、ここで二人が置き去りにされたことになる、それならば・・・
心配になった俺はライトの光で左右を照らしてから、天井にも光を向けた。
やっぱり見つけた、天井に黒い何かがいる。
光が弱くてはっきり見えないが大きな何かが部屋の中央付近の天井からぶら下がっている。
一旦スロープまで後退してから、暗視装置を取り出して確認してみる。
緑色のレンズ越しに見えたのは、三つの黒い塊だが・・・おそらく蝙蝠だろう。
もちろん地球の蝙蝠の10倍ぐらいの大きさだが。
蝙蝠、だったら先に耳をつぶしてしまおう。
スタングレネード(閃光手榴弾)を二つ用意して、サリナとミーシャに目を瞑るように言った。
二本ともピンを抜いてアンダースローで部屋の中央に投げ込み、スロープ内でしゃがみ込んで目を瞑った。
1、「2」で一つ目、「3」で二つ目が炸裂した、空気の振動で爆音が伝わって来る。
アサルトライフルを構えて部屋を覗くと、中央付近の床でバタバタともがいている三つの塊がライトの中に浮かび上がった。
すかさず短い連射を5回繰り返し、マガジンを付け替えてもう一度フルオートで弾を撃ち込む。
ライトの中で5.56mm弾の薬きょうが発射音と連動してキラキラしながら飛んでゆく。
ライト越しの影が動かなくなった、天井も確認するが既に土の天井しか見えない。
マガジンを付け替えて、床の影に慎重に近づいていく。
ライトの中に見えるのはやはり蝙蝠の一種だろう。
サイズは翼竜じゃないのか?ってぐらいデカイ。
人より大きな顔は狼のように口が尖って、牙が出ているのが見える。
羽と一体化している手の爪も、人間の指ぐらいの太さで鋭く曲がっている。
気がついていなければ、確実に死んでいただろう。
転がっていた死体に感謝したいところだ。
周囲を発炎筒で明るくしてから、もう一度壁を見回す。
この階の開口部はやはり右奥の二つだ。
サリナ達を連れて近いほうに慎重に近づいていく、壁に背をつけてから頭を少し出して中を覗くと、思ったより狭い空間だった。
入ると岩がでこぼこした地面に木片などが落ちているが他に出入り口は無い。
外に出て、もう一つの開口部に・・・だが、そっちの開口部は黒い何かで塞がれていた。
へりに沿ってライトで照らすと、暖簾のように木の棒で布を入り口にぶら下げているだけだ。
ブービートラップなのか?
流石にこの世界にそれは無いだろうが、念のためフラッシュライトで下の隙間から中に光を入れて、ぶら下がった布をアサルトライフルの銃口で横から持ち上げた。
中を覗くと先ほどと同じ狭い空間のようだ。
入り口付近に仕掛けもないようなので、そのまま中に入っていく。
ライフルのライトで中をを照らすと、入ってすぐ右側の壁にもたれている人影を見つけた!
胸がゆっくり動いているから生きているようだ。
「おい!・・・、おい!・・・、聞こえるか!」
声を掛けるが反応が無い、眠っているのか、それとも意識を失っているのか。
ライトの中の男は大柄だが、左手の肘から先が失われていて布を巻きつけている。
顔にもう一度ライトをむけて、ようやく気がついた。
男は『獣人』だった。
顔は猫?ライオン?見たいな感じで毛が生えている。
獣人と言うことは、残念ながらこれはサリナの兄では無いということか。
そうするとさっきの死体が・・・
座っている男の膝辺りを軽くゆするが反応が無い。
しかし、せっかく生きて見つけたのだからサリナに治療をしてもらおう。
部屋の外で待たせているサリナを手招きして中へ入れた。
だが、中で座っている獣人を見たとたんに、ちびっ
「お兄ちゃん!!」
いや、サリナちゃん、流石にそれは無いでしょ。
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