第301話Ⅱ-140 神殿の洞窟6
■神殿の洞窟
亀がネフロス教にとってどういう存在なのかは疑問だったが、その疑問にこだわっている余裕はなかった。思ったよりも速いスピードで回転しながらこちらへ飛んで来ている。1匹ではなく、2.3.4・・・続々と左奥に見えている穴から現れた。
だが・・・、所詮は亀だ。ブローニングの重機関銃を船べりにセットして、トリガーを引き続ける。12.7㎜弾が甲羅を貫くと、あっという間に地上へ落ちて行く。後ろから続く亀も飛び立つとすぐに叩き落すことが出来た。しかし、弾帯を撃ち尽くして再装填するときに3匹が天井まで飛び上がり、左右からこちらへ迫ろうとしていた。
-広い場所は不利だ。
ボートを部屋からいったん出して、通路で空飛ぶ亀と対峙することにした。近寄る亀に銃弾を浴びせつつ、通路へ後退して通路に入ろうとするところで亀を叩き落していく。さすがに学習効果があるのか、10匹落とすと通路には入って来ずに広い空間をグルグルと飛び回って、向こうが俺達を待つ態勢に変わった。飛んでいる亀はさっきの死人のようにどんどん増えて行く感じでは無いので、亀の数には限りがあるようだった。
ボートを入り口付近に近づけると、俺達めがけて四方から飛んでくるので1匹撃墜すると後退するというヒット&アウェイ方式で確実に打ち落としていき、残っていた亀たちもすべて地上で横たわることになった。なぜ亀なのか? やはり気になる・・・、こんなに弱いのに。
疑問は残ったが、亀のおかげで進むべき通路の位置が判ったので高さ5メートルぐらいにあった空洞に向かった。ボートで入る前にC-4ドローンで内部を吹き飛ばして安全を確保する。それでも警戒しながら幅広の通路に入って行くと、そこは6角形の部屋になっていて、通路が5か所伸びていた。残念ながらいずれの通路も人が通れる程度の幅でボートのままでは進めそうになかった。
-5か所、面倒だが一つ一つ確認していくしかない。
確認すると言っても、狭い通路に直接入るのはリスクがある。ここもドローンに活躍してもらうことにした。フラッシュライトを搭載したドローンを右手前の通路に飛ばしてカメラで確認しようとしたが、1メートルも行かないうちに横から飛んできた矢で叩き落された。想定はしていたが、狭い空間にトラップが沢山仕掛けられているようだ。先にトラップを潰しておく方が良いだろう。
「サリナ、通路の奥にグレネードを3発ずつ撃ってくれ。手前、真ん中、奥の方って感じでな」
「はーい!」
サリナが撃ちやすい方向へボートを向けると6連式のグレネードランチャーを通路に向けて擲弾を奥に向かって発射した。下向き、水平、チョット上向きという感じで俺のリクエストに応えて撃っている。言われたことがすぐにできるのがこの娘の良いところだ。数秒後に聞こえる爆音と同時に次の通路にも同じように発射して、ランチャーを取り換えながら五つの通路に3発ずつ合計15発のグレネードで通路の仕掛けを破壊した。
改めてドローンを飛ばして一つ目の通路を確認すると、30メートルほど先で円形の部屋になっていたが、部屋の中には何もなかった。だが、地面には沢山の矢が落ちているから入っていれば串刺しになっていたのだろう。2つ目の通路もほぼ同じだったが、3つ目の通路は100メートル先で行き止まりになり頑丈そうな鉄製の扉を見つけた。本命っぽい感じだったが、先に4つ目と5つ目の通路を確認するとどちらも突き当りの部屋にトラップが仕掛けられていることが判った。
ボートから降りて3番目の通路にC-4を乗せたラジコンカーを走らせた。途中でトラップに掛かることも無く壁にぶつかって止まった後、轟音と共に鉄製の扉を吹き飛ばした。
-あの頑丈そうな扉、敵の中枢に近づいているはずだ。
足元にフラッシュライトを置きながら通路を慎重に進み、扉の向こう側をのぞき込むんだが、誰もいない部屋だった。その部屋は何か実験をする大きな部屋のように見えた、壁際にはガラス製の大きなビーカーのようなものと何本もの短剣が・・・、実験室では無いことに気が付いた。この部屋で生贄を解体するのだろう。中央にある大きな台は中央がくぼんでいるが、少し傾斜していて台の上で行われる凄惨な儀式で出る血を流すのにちょうど良さそうだ。そんな風に思ったのは、壁際の棚の下の方には集めたと思われるどす黒い血の入ったガラス容器が見えたからだ。
手前の大きなドーム状の部屋から出てきた死人の数を考えると、凄まじい量の血がここで奪われてこの神殿に捧げられたことになる。
-いやはや・・・。
色んな不思議な事が多すぎて驚かなくなっている自分に驚いている。しかし、生き血や死者を集めるとどうして・・・、考えてもわかるはずが無かった。科学的な分析など何の役にも立たない。
「サトル、どうしたの?」
部屋を見まわして考え込んでいた俺にサリナが心配そうに横へ寄り添ってくれた。
「何でもないよ。ここで大勢が殺されたんだろうなって思っただけだ」
「そっか。そういう部屋なんだ・・・」
「いまさら・・・なんだけど。こんなに大勢の人間を殺す奴の考えが判らない・・・」
「ネフロス信者には彼らなりの理屈があるのでしょう。ですが、それは我々の理屈とは全く異なるものです。理解することは無理です」
ママさんの言う通りだろう、あいつ等にも何かの理屈があるのだ。だが、それを広い心で受け入れてやるわけにはいかない。結局のところ、あいつ等は人の命を奪っているだけなのだから。
「さあ、行きましょうか」
「だけど、この部屋は他に扉が無いよ?」
「ああ、扉は無いけどあそこに変な岩がある」
サリナに指さした先にはどう見ても埋め込んだように見える高さ2メートルぐらいの岩があった。
「あそこが隠し扉なの? ばくだんで壊すの?」
「そうだな・・・、少し調べてみよう」
LEDカンテラやフラッシュライトをそこら中に置いて、部屋全体を明るくしながら岩に近づいた。岩は底の部分も地面にめり込んでいるように見えたが、壁の他の部分とは光沢が明らかに違う。グローブをつけたまま手触りを確かめて叩いてみたりしたが、固い岩であることしか判らなかった。C-4爆薬なら破壊できるとは思うが、何となく破壊しなくても開ける方法があるような気がしていた。
-ここを使ってるやつは何かの方法で動かしているはずだ。
だが、下から上までライトを当ててくまなく調べたが起動するようなボタンやレバーは見つからなかった。
「魔法で起動するのでしょう」
「魔法ですか? でも、この場所は魔法が使えないんですよね?」
「ええ、“私達”の魔法は使えませんが、あらかじめ起動する土魔法を用意してあるのですよ」
「土魔法ですか、マリアンヌさんの魔法力で何とかなりますか?」
「恐らく無理でしょう。・・・サトルさん、貴方が試してごらんなさい」
「俺が? 土魔法なんてやったことも無いですよ」
「ここの仕掛けは魔法力を流し込めば起動すると思います。土魔法の経験は必要ないでしょう」
「じゃあ、マリアンヌさんか、サリナの方が良いんじゃないですか?」
「私とサリナは土魔法には向いていないのです。もともとアシーネ様の光魔法に愛されていますからね」
-魔法の相性という事なのだろうか・・・。俺の方が向いている?
「どうすれば良いんでしょうか?」
「手袋を外して手を岩に当ててください」
言われた通りに手袋を外して手の平を岩に当てる・・・とひんやりした感触以外に何かが手の中に流れて来た気がした。
「何か肘のあたりがムズムズします」
「そのムズムズが強くなる場所を探してください」
上下左右に触って行くと右下に行けばムズムズが強くなっていく、そのまま岩の右側に回り込むと肘にドクドクと流れ込む何かを感じた。
「たぶんここが一番強いと思います」
「だったら、そこに触れたまま岩が動くように念じてください。そこから押す感じです」
「押す・・・」
見た目で言えば1トンぐらいありそうな岩だ俺の力で押して動くわけはない・・・だが、魔法で起動するなら俺の力は関係ない。ママさんの言う通りに岩を押すと動き出すイメージで右手をゆっくり突き出すと、岩は全く抵抗感を示さずにゆっくりと反対側へ倒れて行き、奥へと通じる通路が現れた。
「とうとうここまでたどり着くとはね」
通路の奥から女の声が聞えてきた。
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