第300話Ⅱ-139 神殿の洞窟5
■神殿の洞窟
慣れてくると、1分おきぐらいに自爆するドローンが俺の手元から飛び立っていくようになった。タイマーは相手の出てくる量に合わせて30秒から1分程度で調整すると、動ける死人達のど真ん中で大量破壊を実現してくれた。爆音もこれだけ続くと慣れて来るものだ。ドローン爆弾とサリナのグレネードをかいくぐって来る死人は殆どいないが、足が動けば手が無くても頑張る奴らなので、そういうガッツのある死人はママさんが正確に足を破壊している。
-やっぱり、二人には来てもらって良かった。
扉の前には死人の残骸がうずたかく積みあがって来た。その残骸を乗り越えようと奥からは続々と死人が現れる。俺達は黙々と破壊を続ける・・・、気が付くと1時間ぐらいが経過して、死人の山が天井に近いところまで積みあがって来た。
-終わりはあるのか?
死人達も仲間の残骸を乗り越えるのが大変になっているのだろう、元気よく登場するのに時間が掛かるようになってきた。
-しかし、どこから湧いて来るんだろう?
扉の向こうのどこかにこいつ等が眠っていた場所があるはずだった。敵の突進がゆっくりになって来たので、近寄って来るのは二人に任せて奥までドローン爆弾を運んでみることにした。ドローンのスペック的には4〜5kgのC-4は搭載できそうだったので、4kg搭載して飛ばしていく。死人の残骸を飛び越えて部屋に入って行き、セットしてあった2分後に轟音を響かせて内部を破壊する。積みあがっていた死人の残骸もこちら側に崩れてきた。
「動いているのが随分と減った気がしますね」
「うん、みんな動かなくなってきた!」
そう言いながらも撃ちまくっている二人は動く的が減って少し退屈になって来たようだ。だが、油断は禁物だ。あまりにも残骸が多いので、手足が動くやつが残骸に埋もれている可能性もある。一度あの山を崩しておくべきだろう。今度はラジコンカーに5㎏のC-4を積んで地面を走らせた。タイマーは3分と長めにして走らせた・・・が、俺達と死人の残骸の中間地点ぐらいで広い範囲の地面と一緒に沈み込んで行った。
-落とし穴か。飛んでて良かった!
暫く待つと落とし穴から轟音と爆風が吹き上げてきた。落とし穴の周辺は地面が殆ど残っていないから、向こうへ行くならやはり飛ぶしかない。大型ドローン部隊を3機飛ばして残骸の奥、上、手前の3か所に着陸させてボートをいったん後退させた。5kg×3のC—4が連続して死人の残骸を吹き飛ばし、内耳が痛くなるほどの衝撃波が伝わって来た。安定感のあるボートでさえ揺れるほどだった。
砂埃の向こうに見えている残骸の山は目に見えて低くなっていた。そして、見える範囲に立っている死人はいない。もう大丈夫だろうか? いや、もう少し・・・。念のためにAT4を扉の向こうに2発撃ちこみ、C-4ドローンを3機突入させると、心配性の俺も何とか満足できた。
「じゃあ、あの部屋に行くけど、その前に死人の残骸を片付けるから、二人は部屋から何か出てこないか見てて」
「うん、良いけど。何をするの?」
「良いように言うと埋葬。悪く言うと復活防止だな」
心配性の俺は肉片となった死人の残骸が復活するのを恐れていた。そんなことは無い?・・・この世界では分からない。ボートで肉片の山を飛び越えてストレージからブルドーザーを取り出した。残骸は高さが3メートル以上になっているし、かなりの長さで通路を占領されている。ブルドーザーは使ったことが無いが、ショベルカーと動かし方は変わらなかったので、目的には合っているはずだ。
ブレードを低い位置に降ろして死人の残骸を押し込んで行く。だが、あまりにも量が多かった。ブレードの上に押し込めなかった残骸が乗り上げ、ブルドーザーのキャタピラ―がその残骸に乗り上げてブルドーザー自体がどんどんと高い位置へと昇ってしまう。もっと簡単かと思ったが山を崩して
-さらに爆薬が必要と言う事か・・・。
爆薬で山を何度も崩して、ブルドーザーで何度も…何度も往復して見えていた残骸を全て落とし穴へと落とすのに1時間以上の時間が必要だった。
「ふぅー、疲れたな。少し休憩にしよう」
「うん!お腹空いた!」
「私も喉が渇きました」
死臭たなびく洞窟の中でもこの母娘は全く動じていなかった。二人にハンバーガーとコーラを渡してやり、3人でボートの上で食べ始めた。周りの情景を除けばピクニックに来てボートに乗っているような状況だ。
-いったい、どれだけの死人を破壊したんだろう・・・。
100や200の数では無いはずだったが、1000?いや、5000ぐらいだろうか、いや、穴に落とし込んだ数を考えると・・・。どれだけの死人を破壊しても奴らは悲鳴も上げないので罪悪感を全く感じない。ゲームの中でターゲットを破壊しているのと同じだ。死人はもともと神殿に捧げられた生贄なのだろう。男だけでなく、女の死人も大勢いたのがその証拠だ。今更助けてやることは出来ないが、自ら望んで死んだ者は少なかったと思うと可哀想に思える。
-死か・・・。
「サリナ、お前は怖くないのか?」
「何が?」
「魔法も使えずにここに来ると怪我しても治せないし、下手したら死ぬんだぞ?死ぬのが怖くないのか?」
「痛いのは嫌・・・、死ぬのは・・・良く判んない。でも、サリナはサトルと一緒が良いの!サトルは? 怖くないの?」
ふむ。死ぬのが良く判らない・・・か、俺にもわからない。一度死んだ俺が言うのは変な話だが、全ての死者が俺と同じように異世界で生き返るわけでは無い。俺だって次死ねば、生き返らないだろうと思う。死ぬのが怖いか?それは怖い。だったらこんなところに来なければ良い。だが、やっぱりミーシャを見殺しには出来ない。何とかして死なずに、出来れば怪我もせずにミーシャに術を掛けたやつを見付けたい。ただそれだけだった。
「俺は怖いよ、死ぬのもケガをするのも。でも、ミーシャは助けるって決めたんだ」
「ミーシャ・・・だから?」
「ああ、ミーシャだからだ。だけど、お前でも助けに行くよ。俺にとってお前とミーシャはこの世界で知り合った大切な仲間だからな」
「仲間・・・うん! そうだね。私達は大切な仲間!」
「じゃあ、そろそろ行くか」
「うん、行こう!」
死人の巣窟で浮かべた船でのランチを終わらせて、ボートをドアがあった部屋の奥へと進めた。ママさんは俺達の話を聞いていたが、口を挟まず表情も変えなかった。わが娘の考えをどう思ったかは謎だ。
ゆっくりとボートが入って行った部屋は想像以上に広い場所だった。入り口付近は度重なる俺の爆破攻撃で地面がすり鉢状にえぐれていて、死人の肉片が広範囲に散乱している。それ以外の地面は何というのか・・・畑? 耕された畑のように畝が延々と続いているように見えた。
-違うな、ここに埋められていたのか・・・。
ここは今まで破壊していた死人達が埋められていたところなのだろう。広さは野球場よりも広いかもしれない。上を見上げるとドーム状の天井になっていて、その中央にライトを向けて近づいて行くと、ネフロスの紋章-六芒星がしっかりと描かれていた。
-墓場? それに死人の力を取り込む空間なのか?
「サトル! また、何か出てきた!」
天井を見上げているとちびっ娘が俺の背中を叩いた。指さす方向をみると・・・また亀だった。だが、今度の亀はさっきのとも違った。今度は空を飛んでいたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます