第312話Ⅱ-151 再び神殿へ3
■ネフロスの国
柵に囲まれている集落は近づくと思ったよりも大きかった。野球場なら3面ぐらい入る大きさのようだ。柵は頑丈で恐竜から守ろうとしているのだろう。今のところ密林でティラノ系は見ていないが、ステゴもどきは遠くにいるのを見つけていた。集落の横に外洋作業船を降ろして、小型プレジャーボートに乗り換えてから集落の中に飛んで入った。
集落の見張り台に居た兵士から矢が飛んできたので、ミーシャがアサルトライフルで沈黙させて家が並んでいる区画の近くに着陸した。待ち構えていたように兵士達が剣を持って走って来たが、俺とミーシャの銃で容赦なく倒した。兵士は痛がらずにもがいていたが、ショーイが駆け寄って首をはねると動かなくなった。
「ショーイとミーシャは二人で兵士が出て来た建物を調べて来て」
「俺達は他の人を探すから」
「わかった」
二手に別れて集落を捜索し始めると、家の横からのぞいてる小さな女の子が二人いるのを見つけた。5歳ぐらいに見えるが、やせて汚いぼろ布を体にまとっている。それに嫌な物が首についていた。
「ねえ、君たちお父さんかお母さんは居るか?」
「・・・」
二人からは何の反応も無かった。怯えも興味も伝わってこないのは死人だからだろうか?だが、こんな幼い子供が死人というのも・・・。
「サトル、はんばーがーを出してよ」
「ハンバーガー? ああ、そうか食事で釣るのね」
サリナの提案を採用して、ハンバーガーを二つ取り出して少女たちの方へ近づくと、匂いに釣られたのか少女たちも歩み寄って来た。
「お腹空いてるのか?」
「それは・・・お肉なの?」
「ああ、お肉と白いパンが入ってるよ・・・。ほら、食べて良いぞ」
包み紙を開いて渡そうとするとひったくる様に少女の手が伸びて来て、ハンバーガーを口に運んだ。もう一人にも同じように渡してやると、少女たちは立ったまま、口の周りをケチャップだらけにして食べつくした。
「美味しい・・・、美味しい! これは何なの?」
「これか、肉をパンで挟んだ料理だよ。ところで、他に人は居ないのか?」
「おじいちゃん達は畑に行っているの」
「そうか、他に人は居ないのか?」
「他の子どもは怖くて隠れてるよ」
「そうか、子供は何人ぐらいいるんだ?」
「何人?・・・うーん、このぐらい?」
少女は両手の指を全部広げて見せてくれた。
-10人ね。
「さっき食べたのをあげるからみんなを呼んで来てくれよ」
「あたしにもくれるの?」
「ああ、一人2個あげるから、君たちにもあと一つあげるよ」
「本当!? 待ってて! 約束だよ!」
少女たちは家と家の間に向かって走って行った。戻って来るまでに、テーブルと椅子を用意して、ハンバーガーを20個と言わず、30個ほど積み上げて紙パックのオレンジジュースにサリナがストローを差しておいた。子供たちが戻って来るよりも先に兵士の小屋を偵察していた二人が戻って来た。
「兵士は残っていない。ベッドの数からみて10人ぐらいがこの場所にいるみたいだな」
「切った奴らは全員
「ああ、小さい子が居たから食べさせてやるんだよ」
「そいつらは、
「違うと思うけどね。戻ってきたら確認するよ」
子供たちは最初の少女に連れられて、男子3名、女子7名で戻って来た。5歳ぐらいの子が多いみたいだが、一番後ろの女の子が一番背が高かった。
「じゃあ、食べていいよ。飲み物もこのお姉ちゃんが飲み方を教えてくれるから。真似して飲んで」
俺達は包み紙を開けて、怯える子供たちにハンバーガーを渡した。サリナはストローを刺したジュースを渡して飲み方を説明している。俺はハンバーガーを渡すときと、夢中で食べているときに全員を触ったが、誰一人ストレージに入れることは出来なかった。
「美味しいか? 君は何歳なの?」
「・・・9歳」
少女は頷きながら年齢だけを教えてくれた。
「大人は何人ぐらいこの集落にいるのかな?」
「30人ぐらいです」
「君のお父さんとお母さんもいるの?」
「・・・」
少女は黙って首を振った。
「お父さんとお母さんは神殿にいるの」
突然横にいた男の子が喋りだした。
「神殿で何をしているのかな?」
「判らないけど、大事な事だって・・・、もう会えないって」
「会えない・・・。そうか・・・誰かのお父さんかお母さんがここに居ないかな?」
「・・・」
無言で首を振る子供たちは悲しそうな表情を浮かべている。この集落には子供と年寄りしか居ないようだ。年寄りでも大人に詳しい話を聞く方が良さそうだった。子供たちに大人が居る場所を聞くと、奥の方の畑に居るはずだと教えてくれた。椅子やテーブルを出したままにして、集落の奥に向かって轍のある道を銃を構えて進むことにした。
■ネフロス神殿
神殿奥の祈りの間にいた神官たちは
「奴らが入った第3農場の門を開き、
「かしこまりました」
神官の一人が部屋を出て行き、兵士に指示をすると二人の兵士を乗せた
■第3農場
ラプトルは集団で狩りをする習性がある。1頭のラプトルが農場の門が開いたことに気づき、仲間を呼び出す鳴き声を放つと、すぐに周辺にいたラプトル達が集まり、門をくぐって農場の中へと侵入した。農場の中では食欲を刺激する肉と脂の匂いが鼻に入って来た。匂いの方向へ走って行くと、動く生き物が複数いるのが見えている。獲物の大きさは一口では食べられないが、柔らかそうな肉は十分に腹を満たしてくれる丁度良いサイズだと本能で理解した。甲高い悲鳴と共に獲物達は逃げ始めたが、ラプトルにとっては止まっているほどのスピードでしかなかった。10歩で倒れている獲物に口が届くところまで進み、その大きな口を開いて細い太ももを狙った。
-イヤァーッ!!
サトルの耳にも少女の悲鳴がはっきりと聞えた。
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