第244話Ⅱ‐83 魔石と捕虜たち

■エルフの里


 俺は里に向かって速足で歩き続けた、ブーンにされたことの怒りはまだ収まっていない。あのピラミッドのようなものがあいつの住処すみかなら、いっそ爆破してやろうかと思ったぐらいだ。後ろをついてくるサリナも俺の怒りが伝わっているようで、何一つ話しかけてこない。シルバーはその後ろからしっぽを振って機嫌よさげについて来ている。


 何故シルバーは俺に腕輪を持たせたがるのだろう? 俺がストレージに腕輪を持っていることも分っていたし、何か理由があるのだろうが・・・。里に戻るとエルフ達が集まってきて、既に5つの魔石を見つけたと報告してきた。


 エルフ達は総出で魔石探しに出かけて、日が高く上る前には5つの魔石を発見していた。見つかっていないのは、サリナが吹き飛ばした場所にあるはずの魔石だけだった。だが、見つかった魔石はサトルの指示で触らないように言われていたので、土の中からすきで掘り出して、そのままにしてある。エルフ達には理由は分からなかったが勇者の指示なのでは疑うこともなく、魔石の周りを発ったまま囲んで勇者が来るのを待っている。


「もう見つけたの? どうやって?」

「森の中で人が動くと跡ができるからな。その跡を追いかければ埋めた場所もすぐにわかる。もちろん、お前が場所を教えてくれたからだがな」

「いや、場所って言っても・・・」

「それで、言われた通りに魔石には触らずにお前が来るのを待っている」

「わかった、じゃあ近いところから順番に回って行こう」


 一番近くの場所は歩いて10分ぐらいのところだったので、俺は医療用の手袋をしてから魔石をストレージに入れた。同じ要領で5つの魔石を回収すると2時間ぐらいかかったが、残り一つの魔石はまだ見つかっていないようだ。今はエルフ全員がその場所へ探しに行っているから探す目も手も増えたのだが、ミーシャから見つかったと言う連絡は無かった。


 サリナが吹き飛ばした面積は300メートルぐらいだと思うが、大地から引きはがされた木や石等が土砂と交じり合って大量に積み上がっていた。それらの中から探さないといけないのだろう。森の民も痕跡無しで探すのは常人と同じぐらい大変ということだ。俺がその場所にたどり着いた時も、積み上がっているものを少し動かしたぐらいしかはかどっていなかった。


「ミーシャ、どんな具合だ?」

「うん、吹き飛んでいない地面を先に探したが痕跡が無かった。やはり、この吹き飛ばされたところにあったのだろう。だが、あの通り大きな木や石が積み上がっているからな、一つずつ取り除きながら探しているので時間がかかるな」

「そうか、5つは見つけたから、里全体に術を仕掛けることは出来ないと思うが、残しておくとロクなことにならないから、最後の一つも見つけた方が良いだろうな」

「ああ、私もそう思っているのだ」


 積み上がっている場所は扇形になった野球場のスタンドのようになっていて、高いところは5メートル以上の高さになっている。エルフ達は手分けして運ぼうとしているが大きい木は切って運ばないと動かせそうになかった。


「よし、じゃあ俺の魔法で大きいものを取り除こう」

「できるのか?」

「石は出来るし、他は多分だけどね」


 俺は見える場所にある1メートル四方ぐらいの石をストレージに収納した。


 ―おおっ! 消えた! 勇者の魔法だ!


 見ていたエルフ達から歓声が上がった。気を良くした俺は大きな石を見つけては片っ端から収納していった。


 ―次は・・・、さて、木は生きているものなのか?


 出来るかどうかわからなかったが、幹の太さが1メートルぐらいの大きな木を触るとストレージに収納できた。


 ―凄い! あんな大きなものでも!


 神との約束は“生きているもの以外”だったが、地面から離れた木は生きていないと判断しているようだ。倒れている木と石を取り除いていくと残りは土の山だけになってきた。エルフ達も大きな木桶等を使いながら、どんどんと土を運び出せるようになって目に見えて作業が進みだした。30分ぐらいしたところで、大きな声が聞こえてきた。


「これじゃないか! 来てくれよ!」


 年齢不詳の美人エルフが俺に向かって手招きしてくれたので、ミーシャに続いて駆け寄ると魔石が半分土の中から現れていた。すぐに手袋をしたままストレージに収納した。俺がこの魔石に直接触らないのは嫌な予感がしていたからだ。具体的に何とは言えないが、リウが魔石の形とありかを素直に話したことがむしろ気がかりだった。


 魔石の形はリウが言っていた通りの直径30㎝ぐらいの円盤状で厚みは5㎝ほどだった。持った感じはズシリとしたが、それ以上に多くの生き血を捧げたと聞いて不気味な感じがする。表面には白い顔料で六芒星が描かれているが、血の跡がはっきりとついている。とりあえず、ストレージの中に入れておけばこの世界に干渉してくることは無いから安心だろう。


 ―よし、魔石の件はこれで片付いた。次は・・・。


■ストレージの中


 ネフロスの司祭ゲルドは無音の暗黒空間の中で考え続けていた。自分の思念がどこにも届いていない上に、体の再生も全く進まない。そうなっている理由は一つだろう。ここは、自分達がいた世界とは別の場所なのだ。しかし、たまにあの男が現れて声を掛けていく。あいつは元居た世界にいたのだから、元の世界とこの場所を行き来できるということだ。ならば、自分も元の世界に繋がる方法が無いか、ネフロスの神に祈りを捧げて色々と試しているのだが、祈りが届いた気配は全くない。


 ―何らかの理由を見つけて、ここから出る方法を考えねばならんな。


 闇使いのハイドは無音の暗黒空間の中で、自らの闇の空間を作り出そうと祈り続けていた。ここは自分が作った闇の空間に似ているが全く異なる世界だった。自分の闇の空間に入ることが出来れば、元の世界への通路を開くこともできる・・・そう信じているのだが、今のところ自分の呪法はここでは何一つ実現できなかった。ハイドの呪法は魔石がなくとも家一軒程度の大きさのものを闇の空間に取り込むことが出来る。自らが入る空間を作るぐらいは容易いはずなのだが・・・。


 ―全く手ごたえが無い。どうすれば良いのか・・・。


 影使いのリウは体の傷が治り、飲み物と食料が手に入ったことで気を良くしていた。反撃するにも自分の体が動かなければ何もできない。だが、この場所では影の中に入ることが出来そうにない。今いる場所は全く光が差し込まない。あいつらが来た時だけ明かりがつくが、あいつの影の中に分身を送り込もうとしても上手くいかなかった。だが、この空間にはハイドが居ることが分かった。リウの影使いは闇使いの呪法の一種だった。リウはハイドとは違って、影を操って闇の空間の入り口を作ることができるが、その空間は大きなものではない。取り込めるのは人間で2・3人と言ったところだろう。その代わりに、影の中に自分の分身を潜ませることが出来る。誰かの影の中に入れば、そいつがどこに行っても盗み聞きを続けることも可能だ。


 ―俺一人では何もできなくても、ハイドがいれば・・・、それに生者が魔石に触れればその時は・・・。


 ムーアの頭だったレントンの空間は、照明も寝るためのベッドも貰って快適な生活環境になっていた。最初は暗闇に浮いていたはずの場所だったが、いつの間にか床が出来て、いろんなものが置かれていった。自分達の常識では全く理解できない力がこの場所で働いている。妹の事は踏ん切りがついているわけではなかったが、あの男の言う通りこのままにしていて良いとも思っていなかった。


 ―どうするべきか・・・、俺に決めることが出来るだろうか・・・。


 4人はサトルが用意したそれぞれの空間で静かに考え続けている。サトルが来なければ考えることぐらいしかできないのだ。

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